終話 以前よりは遥かに良くなりました
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
アメリアは報告書を書いていた。
監査局長。
それが今の肩書きだった。
気に入っている。
非常に。
余計な社交が少ない。
数字が多い。
平和。
理想的だった。
そして今。
机の上には一冊の資料。
『王太子業務改善状況 最終報告』
アメリアは最後のページを書き終える。
半年。
長かった。
本当に。
有害物質の改善記録など。
二度とやりたくない。
心からそう思った。
◇王城
会議室。
国王。
第二王子アルフレッド。
ルーカス。
重臣達。
そしてアメリア。
珍しい顔触れだった。
「それで」
国王が言った。
「結果はどうだ」
誰もがアメリアを見る。
本人だけが平常運転だった。
「提出いたします」
どさり。
報告書。
全員が嫌な予感を覚える。
アメリアの報告書で幸せになった人間は少ない。
本当に少ない。
評価
「まず以前の評価です」
ページを開く。
低い。
非常に。
ルーカスが死んだ目になる。
見覚えがある。
痛いほど。
「不要では」
「必要です」
即答だった。
逃がさない。
監査だから。
「続いて現在です」
ページが変わる。
沈黙。
会議室が静かになる。
以前より高い。
かなり。
驚くほど。
全員が見る。
何度も。
そして。
国王が言った。
「上がっているな」
「上がっております」
アメリアは頷く。
「外交能力改善」
「行政能力改善」
「危機管理能力改善」
「職務態度改善」
淡々と読み上げる。
事実だけを。
いつも通り。
ルーカス本人が一番驚いていた。
もっと酷いと思っていた。
本当に。
だが。
アメリアは嘘を書かない。
出来るようになったことは認める。
それだけだった。
「……そうか」
小さく呟く。
初めてだった。
誰かに認められた気がした。
結果で。
行動で。
感情ではなく。
本当に。
そして国王が次を聞く。
「では結論は」
全員固まった。
そこが問題なのだ。
全員知っている。
昔のアメリアなら。
『第二王子へ交代』
と書いたはず。
確実に。
だが。
アメリアは報告書を閉じた。
そして。
静かに言った。
「現状維持を推奨いたします」
沈黙。
部屋全体が止まった。
アルフレッドも固まる。
ルーカスも固まる。
国王だけが笑った。
「理由は」
アメリアは答える。
「改善したためです」
あまりにも簡潔だった。
「以前は交代が最適でした」
「現在は違います」
淡々と。
当たり前のように。
「問題が解決した以上」
「解決策も変わります」
それだけだった。
恨みも。
復讐も。
全部無かった。
最初から。
◇会議終了後
人払いされた会議室。
ルーカスだけが残った。
そして。
アメリアへ向き直る。
「何だ」
言葉が出ない。
沢山あったはずなのに。
全部消えた。
だから。
一つだけ聞いた。
「俺は合格か」
アメリアは少し考える。
本当に少しだけ。
そして。
「まだですわね」
ほぼ即答だった。
ルーカスが崩れ落ちそうになる。
だが。
続きがあった。
「ですが」
一拍。
アメリアは微笑んだ。
柔らかく。
本当に珍しく。
「以前よりは遥かに良くなりました」
それは。
褒め言葉だった。
アメリアなりの。
最大級の。
◇数日後
監査局。
平和だった。
非常に。
第二王子は忙しい。
王太子補佐で忙しい。
ルーカスは仕事している。
以前よりずっと。
ミリアはその補助をしている。
東方皇子はセシリアと仲良くしている。
問題なし。
実に良い。
そして。
アメリアは紅茶を飲む。
静かな午後。
「平和ですわね」
心の底からそう思った。
その時。
監査局の扉が開く。
「局長!」
職員が駆け込んでくる。
「地方予算で不正が三件!」
アメリアの目が輝く。
本当に輝く。
「そう」
静かに立ち上がる。
赤ペンを持つ。
そして。
監査局長は微笑んだ。
「お仕事ですわね」
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