第八話 結果次第ですわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
アメリアは機嫌が良かった。
監査局。
書類。
帳簿。
予算書。
実に平和だった。
最近は第二王子の相談も減った。
いや。
減ったわけではない。
質が変わった。
重要な違いである。
以前。
「どうすれば良いと思う?」
今。
「こう改善したい」
非常に良い。
考えてから来る。
素晴らしい。
仕事が減る。
もっと素晴らしい。
◇一方
ルーカスは相変わらずだった。
来る。
謝る。
帰る。
来る。
謝る。
帰る。
非常に生産性が低い。
監査局職員も慣れていた。
「また来ました」
「そう」
もはや日常だった。
◇その日
「アメリア」
ルーカスが訪れた。
いつものように。
「何でしょう」
アメリアは書類から目を離さない。
「話がある」
「私は仕事があります」
即答。
ルーカスが苦笑する。
これも最近の日常だった。
「少しだけだ」
アメリアは仕方なく顔を上げる。
本当に仕方なく。
「五分です」
監査局職員達が思った。
局長。
優しい。
五分もくれる。
◇応接室
ルーカスは沈黙していた。
珍しい。
普段より長い。
そして口を開く。
「俺はどうすれば良い」
アメリアが固まる。
本当に珍しく。
固まった。
「……はい?」
「何をすれば」
「……」
「取り戻せる」
沈黙。
長い沈黙。
アメリアは考える。
取り戻す。
何を?
信用?
婚約?
関係?
全部だろう。
だが。
そこで大きな誤解がある。
「殿下」
「何だ」
アメリアは静かに言った。
「私は別に殿下を嫌っておりません」
ルーカスが固まる。
本当に固まる。
「……嫌ってないのか」
「はい」
即答。
ただし。
次の言葉が問題だった。
「有害物質だとは思っておりますが」
沈黙。
監査局職員が吹き出しそうになる。
初めて聞いた。
第二王子殿下に対する本音。
局長の中の正式名称。
ついに出た。
◇数分後
「有害……」
ルーカスが呟く。
「はい」
「俺は有害なのか」
「非常に」
容赦が無かった。
本当に。
「なぜだ」
アメリアは資料を取り出す。
嫌な予感しかしない。
ルーカスも思った。
最近この人、
全て資料付きで説明する。
「こちらです」
どん。
『ルーカス殿下による業務妨害一覧』
ルーカスに”正論”という名の。
”凶器”が刺さっていく。
まだ一ページ目。
「生徒会時代」
「待て」
「男爵令嬢問題」
「待て」
「東方留学生問題」
「待ってほしい」
「投獄後謝罪訪問十四回」
「十四回も行ってたのか俺」
自覚すら無かった。
◇一時間後
ルーカスは机へ突っ伏していた。
酷い。
本当に酷い。
だが。
全部事実だった。
反論できない。
何一つ。
そして。
アメリアは最後の書類を差し出した。
『業務改善提案』
ルーカスの目が死ぬ。
もう駄目だった。
「……読むのか」
「当然です」
アメリアが頷く。
そして。
指差した。
「第一案」
嫌な予感。
もの凄く。
「仕事をする」
沈黙。
「……」
「……」
「それだけか?」
「基本ですので」
正論だった。
正論が一番痛い。
「第二案」
「あるのか」
「第二王子殿下を見習う」
ルーカスが天井を見上げた。
駄目だ。
勝てない。
この人。
一切悪意が無い。
だから余計に勝てない。
◇帰り際
ルーカスは扉の前で止まった。
「アメリア」
「何でしょう」
「もし」
一拍。
長い沈黙。
「もし俺が変われたら」
「はい」
「見直してくれるか」
静かだった。
アメリアは少し考える。
そして。
本当に少しだけ微笑んだ。
「結果次第ですわね」
それは。
恋でも。
愛でも。
許しでもない。
監査官らしい答えだった。
評価は感情ではない。
結果で決まる。
そしてルーカスは初めて理解する。
今までアメリアが見ていたものを。
肩書きではない。
言葉でもない。
行動。
結果。
責任。
それだけだった。
その日。
ルーカスは初めて謝るためではなく、
変わるために動き始めた。
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