第六話 適材適所ですわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
アメリアは悩んでいた。
本当に珍しく。
かなり真面目に。
机の上には書類。
『王国運営上の問題点』
その隣。
『改善案』
さらにその隣。
『第二王子登用計画(仮)』
監査局職員達は見なかったことにした。
見てはいけない。
本能がそう告げていた。
◇監査局
「局長」
「何かしら」
「それは何ですか」
若い職員が聞いてしまった。
勇者だった。
アメリアは答える。
「業務改善案ですわ」
嫌な予感しかしなかった。
職員達は静かに仕事へ戻る。
聞いてはいけない。
本当に。
◇同日
アルフレッド来訪。
最近の定例会議である。
「また何か増えているな」
机の上を見る。
大量の資料。
嫌な予感。
「何だこれは」
「人事評価ですわ」
アルフレッドの動きが止まった。
「誰の」
「王家の」
頭が痛い。
一気に痛い。
「待て」
「何でしょう」
「待て」
二回目。
大事なので。
◇一時間後
会議室。
アメリアが説明している。
黒板付き。
完全に始まっている。
「現在の問題点ですが」
さらさらと書く。
『王太子』
『判断力』
『統率力』
『行政能力』
『危機管理』
評価欄。
低い。
かなり低い。
「辛辣だな」
アルフレッドが呟く。
アメリアは首を傾げた。
「事実ですので」
即答だった。
恐ろしい。
本当に恐ろしい。
そして。
第二王子の項目へ移る。
『判断力』
『統率力』
『行政能力』
『改善能力』
高評価。
かなり高い。
「評価が甘くないか」
「厳しめですわ」
アルフレッドが黙った。
厳しいのか。
これで。
本当に厳しいのか。
◇その頃
ルーカスはまた監査局へ来ていた。
最近の日課である。
「アメリアは?」
「第二王子殿下と面談中です」
受付が慣れた様子で答える。
最近多い。
本当に多い。
だからルーカスは会議室へ向かう。
そして。
聞いてしまった。
「以上が評価結果になります」
アメリアの声。
扉の向こう。
会議中。
聞いてはいけない気もした。
だが。
聞いてしまった。
「現時点では第二王子殿下の方が適任かと」
沈黙。
ルーカスも沈黙。
アルフレッドも沈黙。
空気も沈黙。
ただ。
アメリアだけが平常運転だった。
「待て」
アルフレッドが頭を抱える。
「その結論になるのか」
「なりますわ」
即答。
「何故だ」
「仕事が進みますので」
明快だった。
あまりにも。
◇会議終了後
ルーカスは廊下に立っていた。
アメリアが出てくる。
「殿下」
「聞いた」
「何をでしょう」
本気で分かっていない。
ルーカスは苦笑する。
少しだけ。
「俺は失格らしいな」
アメリアは考えた。
数秒。
本当に数秒。
「失格ではございません」
ルーカスの目が少し明るくなる。
だが。
「適材適所ですわ」
消えた。
一瞬で。
「つまり」
「向いていない仕事から外れるのは自然かと」
本当に悪意が無い。
それが一番酷い。
ルーカスは天井を見上げた。
昔からそうだった。
アメリアは嘘をつかない。
気も遣わない。
ただ。
正しいと思ったことを言う。
だから刺さる。
もの凄く。
◇その夜
アメリアは資料を整理していた。
『王国改革』
『人事案』
『次期王太子候補』
ぺらり。
ページをめくる。
そして頷く。
「やはりこちらですわね」
第二王子。
有能。
話が通じる。
改善する。
仕事をする。
素晴らしい。
一方。
ルーカス。
謝罪に来る。
また来る。
仕事を増やす。
非常によろしくない。
結論。
配置転換。
合理的。
実に合理的。
アメリアは満足そうに紅茶を飲んだ。
そして王城では。
第二王子アルフレッドが頭を抱えていた。
「……本気だ」
今さら理解した。
アメリアは冗談で言っていない。
復讐でもない。
ざまあでもない。
本気で。
本当に本気で。
王国運営の効率化として、
王太子交代を提案している。
その事実が。
何よりも恐ろしかった。
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