第三話 こちらの予算配分は無理ですわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
第二王子アルフレッドが監査局を訪れるようになって一ヶ月。
アメリアは困っていた。
本当に困っていた。
時間がない。
仕事が増えている。
確実に。
「アメリア嬢」
来た。
見なくても分かる。
第二王子である。
「ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
そして。
どさり。
机に資料が置かれた。
嫌な予感しかしない。
「これは」
「港湾整備案だ」
やっぱりだった。
アメリアは静かに天井を見上げた。
(増えておりますわね……)
仕事が。
確実に。
◇一ヶ月前
十年計画を渡した。
第二王子は持ち帰った。
終わったと思った。
本当に思った。
ところが。
三日後。
来た。
「質問がある」
一週間後。
「相談がある」
二週間後。
「確認してほしい」
三週間後。
「意見が聞きたい」
現在。
毎週来る。
ほぼ確定で。
非常によろしくない。
◇監査局
アメリアは資料を読む。
三十秒。
一分。
二分。
「こちらの予算配分は無理ですわね」
即答だった。
アルフレッドが顔を上げる。
「どこだ」
「ここです」
指差す。
「港完成後の維持費が計算されておりません」
沈黙。
「……本当だ」
「あとこちら」
ぱらり。
「担当官僚が足りません」
「……本当だ」
「さらにこちら」
「……」
「こちらも」
「……」
アルフレッドは頭を抱えた。
毎回これである。
毎回。
必ず穴を見つける。
しかも正しい。
◇数時間後
会議終了。
アルフレッドは満足だった。
「助かった」
「そうですか」
「本当に助かった」
感謝している。
本気で。
アメリアは有能だった。
飛び抜けて。
そして何より。
意見が公平だった。
誰の味方もしない。
派閥にも属さない。
数字だけ見る。
結果だけ見る。
だから信用できた。
一方アメリア。
(仕事が増えましたわね)
そちらだった。
感謝よりも。
そちらだった。
◇王城
そして噂になる。
「第二王子殿下が監査局へ通っている」
「毎週らしい」
「改革案を見てもらっているそうだ」
貴族達がざわつく。
当然だった。
今の王国で一番注目されている人物。
それがアメリアだから。
婚約破棄。
投獄。
監査局再建。
宰相失脚。
全部やった。
本人は偶然だと思っているが。
誰もそうは思わない。
そして
王太子執務室。
「第二王子が?」
ルーカスは報告書を見る。
「はい」
「監査局へ通っております」
沈黙。
嫌な気持ちになった。
本当に。
理由は分からない。
だが最近ずっとそうだった。
報告書を見る。
そこにはアメリアの名前。
まただ。
最近よく見る。
そして。
最近よく思う。
何故あの時。
あんなことをしたのか。
何故信じなかったのか。
何故話を聞かなかったのか。
答えは出ない。
ただ。
胸の奥だけが重かった。
◇監査局
帰り際。
アルフレッドが振り返る。
「アメリア嬢」
「何でしょう」
「また来週伺う」
アメリアの手が止まった。
数秒。
本当に数秒。
そして微笑む。
「左様でございますか」
完璧な笑顔。
完璧な礼儀。
だが。
見送りながら思う。
(増えておりますわね……)
仕事が。
確実に。
だが困ったことに。
第二王子は有能だった。
言えば理解する。
改善もする。
有害物質ではない。
だから追い返しにくい。
それがアメリア最大の悩みだった。
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