終話 仕事ですわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
旧監査局は戦場になっていた。
「こちらは二重計上です」
「こっちは架空発注」
「こちらは横領」
「この契約は無効ですわね」
赤字。
赤字。
赤字。
書類の山が消えていく。
同時に。
王国中の貴族が青ざめていた。
◇財務局
「また来たぞ!」
職員が叫ぶ。
「どこの案件だ!」
「監査局です!」
全員が黙る。
監査局。
最近の魔境である。
そして。
そこの中心にいるのは。
婚約破棄された公爵令嬢。
「今度は何件だ」
「十四件」
「今日はまだ午前中だぞ!?」
悲鳴だった。
◇王城
謁見の間。
国王も報告を受けていた。
「回収額は」
「過去最高です」
「逮捕者は」
「現在五十七名」
国王は黙った。
十年放置された膿。
それが一気に噴き出している。
「誰が見つけた」
問うまでもない。
だが確認する。
「アメリア・フォン・アルフォードです」
沈黙。
長い沈黙。
そして国王は言った。
「何故投獄した」
誰も答えられなかった。
◇旧監査局
アメリアは今日も働いていた。
黙々と。
淡々と。
非常に平和だった。
有害物質もいない。
男爵令嬢もいない。
生徒会もない。
書類だけ。
理想郷である。
「お茶です」
看守が持ってくる。
「ありがとうございます」
最近では完全に馴染んでいた。
看守達からも。
監査官扱いである。
囚人ではなく。
「今日もですか」
「今日もですわ」
アメリアが書類をめくる。
そこで。
ぴたりと手が止まる。
「……なるほど」
看守は気付かなかった。
だが。
アメリアは見つけた。
最後の一本を。
不正資金。
↓
架空会社。
↓
中継貴族。
↓
派閥資金。
↓
宰相派。
↓
そして。
宰相本人。
証拠は揃った。
完璧に。
アメリアは美しく微笑んだ。
◇数日後
王城。
緊急会議。
宰相は余裕だった。
証拠は消した。
関係者も処理した。
問題ない。
そう思っていた。
「提出いたします」
聞き慣れた声。
入り口を見る。
アメリアだった。
会場が凍る。
「なぜここにいる」
宰相が呟く。
アメリアは一礼した。
「監査報告です」
分厚い帳簿。
契約書。
送金記録。
証言。
全て並ぶ。
逃げ道が無い。
男爵令嬢の件で令嬢達を追い詰めた時と。
全く同じだった。
「以上になります」
沈黙。
誰も口を開けない。
そして国王が書類を閉じる。
「宰相」
声は低かった。
「申し開きはあるか」
無かった。
本当に無かった。
証拠が完璧だったから。
アメリアらしく。
逃げ道は一つも残されていなかった。
◇その後
宰相失脚。
関係者摘発。
派閥解体。
王国財政改善。
監査局再建。
一気に進んだ。
そして。
アメリア・フォン・アルフォード。
無罪。
正式認定。
◇数日後
王城。
「戻って来て欲しい」
ルーカスだった。
少し痩せて見える。
婚約破棄。
冤罪。
全ての事実を知ってしまった。
「……」
アメリアは黙る。
そして。
静かに聞いた。
「殿下」
「何だ」
「私が投獄された結果」
「……」
「王国財政は改善しました」
「……ああ」
「監査局も復活しました」
「……ああ」
「不正もなくなりました」
「……ああ」
アメリアは少し考える。
本当に少しだけ。
そして。
微笑んだ。
「結果的には良かったのではありませんか?」
ルーカスは固まった。
それが。
アメリアだった。
恨まない。
怒鳴らない。
復讐しない。
ただ。
効率で考える。
◇数ヶ月後。
監査局。
新設された執務室。
机。
帳簿。
書類。
山。
大量の仕事。
本来なら地獄だった。
だが。
アメリアは紅茶を飲みながら微笑む。
「平和ですわね」
心の底からそう思った。
有害物質はいない。
男爵令嬢もいない。
東方皇子もいない。
書類だけ。
素晴らしい。
本当に素晴らしい。
その時。
扉が開く。
「局長」
「何かしら」
「予算不正が三件見つかりました」
アメリアの目が輝いた。
「そう」
静かに立ち上がる。
赤ペンを持つ。
そして笑った。
本当に嬉しそうに。
「仕事ですわね」
こうして。
後に王国史上最恐の監査局長と呼ばれることになる令嬢の物語は始まる。
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