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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章 監獄監査令嬢編

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第四話 ちょうど良かったですわ

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 投獄から三日。

 アメリアは暇だった。


 本が無い。

 書類が無い。

 帳簿も無い。

 仕事も無い。


 最悪だった。


「……」


 椅子に座る。


 立つ。


 座る。


 立つ。


 暇である。


 有害物質の相手をしていた方がまだ有意義だったかもしれない。


 いや。

 それはない。


 そこだけは断言できる。


 その時だった。

 重い扉が開く。


「出ろ」


 兵士だった。


「処刑ですか?」


 兵士が固まる。


「違う」


「そうですか」


 少し安心した。


 死ぬのは面倒だ。

 非常に面倒だ。


◇地下通路


 王城の奥。

 見覚えのない場所だった。


「ここは?」


「旧監査局」


 兵士が答える。

 アメリアは首を傾げた。


 聞いたことがある。


 昔。

 王国予算を監査していた部署。


 だが十年以上前に機能停止したはず。


「失礼いたします」


 兵士が扉を開く。


 中にいた人物を見て。

 アメリアは少しだけ目を見開いた。


「宰相閣下」


「久しいな」


 宰相は穏やかに笑っていた。

 卒業パーティーで見た笑顔だった。


 アメリアは理解する。


 やはり。

 この人だった。


◇宰相執務室


「さて」


 宰相は机を指で叩く。


「現状を説明しよう」


 アメリアは黙って聞く。


「君は婚約を破棄された」


「はい」


「嫌がらせの容疑が掛かっている」


「はい」


「世論は微妙だ」


「そうでしょうね」


 証拠が無いから。

 アメリアはそう思った。


「公爵家も動いている」


「でしょうね」


 父である。


 絶対に動く。

 間違いなく動く。


「だから困る」


 宰相が言った。

 アメリアは黙る。


「君を処罰するのは難しい」


「そうですか」


「逆に無罪放免も難しい」


「そうでしょうね」


 社交界的に。

 政治的に。


 色々面倒だろう。


 アメリアにも分かる。


「そこで提案だ」


 嫌な予感しかしない。


 本当に。

 全く良い予感がしない。


◇旧監査局


 地下の一室。


 扉が開く。


 そして。

 アメリアは固まった。


 机。

 書類。

 帳簿。

 伝票。

 予算書。

 契約書。


 山だった。

 本当に山だった。


「……」


 長い沈黙。


「喜べ」


 宰相が言った。


「これをやるなら生かしてやる」


 兵士達が目を逸らす。


 酷い。

 本当に酷い。


 だが。

 アメリアは書類へ近付いた。


 一ページ目。

 読む。


 二ページ目。

 読む。


 三ページ目。

 読む。


 そして。

 五秒後。


「不正ですわね」


 宰相が固まる。


「早いな」


「こちらも横領です」


 次の書類。


「こっちは架空発注」


 次。


「こちらの数字も合っておりません」


 次。


「二重計上」


 次。


「こちらも」


 次。


「これも」


 次。


 沈黙。


 兵士達が引いている。

 宰相も引いていた。


「……」


「……」


「何か?」


 アメリアが顔を上げる。

 宰相は咳払いした。


「いや」


「そうですか」


 アメリアはまた書類を見る。


 しばらくして。

 ぽつりと言った。


「つまり」


「何だ」


「この十年放置したものを」


「うむ」


「全部私が片付ければ宜しいのですね」


 理解が早い。

 物凄く早い。


 宰相は頷く。


「その通りだ」


「終わったら?」


「釈放しよう」


 アメリアは少し考えた。


 数秒。

 本当に数秒。


 そして。


「承知いたしました」


 即答だった。


 兵士が驚く。

 宰相も少し驚く。


 もっと拒否されると思っていた。

 もっと怒ると思っていた。


 だが。

 アメリアは違う。


 机へ座る。

 ペンを取る。

 帳簿を開く。


 そして。

 小さく呟いた。


「暇でしたので」


 宰相が固まる。


「何?」


「ちょうど良かったですわ」


 笑顔だった。


 本当に。

 少しだけ嬉しそうな。


 笑顔だった。


 その瞬間。

 宰相は理解する。


 自分は何かを間違えたかもしれない。


 だが。

 もう遅かった。


 アメリアは一枚目の帳簿へ赤を入れる。


 二枚目。

 三枚目。

 十枚目。

 二十枚目。


 止まらない。


 そして旧監査局に。

 十年ぶりの地獄が始まった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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