第三話 増えましたわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
卒業パーティーは終わった。
少なくともアメリアの中では終わっていた。
婚約破棄。
身に覚えのない罪状。
大勢の前での糾弾。
普通の令嬢なら泣いていただろう。
だがアメリアは違った。
(面倒ですわね)
それが第一感想だった。
そして第二感想。
(父上が怒りますわね)
第三感想。
(仕事が増えますわね)
本当にそれだけだった。
◇翌日
公爵家。
応接室。
「アメリア」
父である公爵の声は低かった。
非常に低かった。
使用人達が震えるほどに。
「はい」
アメリアはいつも通りだった。
「お前はやったのか」
「何をでしょう」
「男爵令嬢への嫌がらせだ」
即答だった。
「いいえ」
公爵は黙る。
「証明できるか」
「可能かと」
こちらも即答。
当然だった。
二年生の時に処理済みである。
生徒会記録。
証言。
報告書。
全部残っている。
アメリアはそういう人間だった。
やった仕事は記録する。
やらなかった仕事も記録する。
だから問題ない。
そう思っていた。
その時だった。
扉が開く。
王城の兵士達だった。
アメリアは少し驚いた。
本当に少しだけ。
「アメリア・フォン・アルフォード」
「はい」
「王命である」
嫌な予感しかしない。
「何でしょうか」
「貴女を拘束する」
沈黙。
公爵が立ち上がる。
凄まじい圧力だった。
「説明してもらおうか」
兵士達の顔色が変わる。
当然だった。
現役閣僚。
王国有数の大貴族。
そして娘大好き。
最悪の相手である。
「王命です」
「理由を聞いている」
空気が重い。
兵士は震えながら答えた。
「男爵令嬢ミリアへの継続的嫌がらせ」
「証拠は」
「……」
沈黙。
公爵の目が細くなる。
アメリアは思った。
(証拠はありませんわね)
なぜなら無いから。
本当に無い。
むしろ止めた側だ。
◇王城
牢獄。
案内されたアメリアは周囲を見渡した。
想像より綺麗だった。
「失礼いたします」
兵士が頭を下げる。
恐縮している。
非常に。
アメリアは首を傾げた。
「何か?」
「その……」
兵士が言いにくそうに口を開く。
「本当に申し訳ございません」
アメリアは理解した。
兵士達も分かっている。
おかしいことを。
だが逆らえない。
「お気になさらず」
アメリアは微笑む。
「仕事でしょう?」
兵士が固まる。
そして頭を下げた。
深く。
本当に深く。
◇独房
扉が閉まる。
静かだった。
久しぶりに。
とても静かだった。
アメリアは椅子へ腰掛ける。
考える。
整理する。
いつものように。
問題。
婚約破棄。
投獄。
証拠なし。
ルーカスは本気。
ミリアは困惑。
つまり。
第三者。
黒幕あり。
ここまでは確定。
そして。
アメリアはあの夜の光景を思い出す。
卒業パーティー。
会場後方。
宰相。
微笑み。
一瞬だけ。
だが見間違えない。
「……」
アメリアは目を閉じた。
理解した。
今回の相手は。
感情論ではない。
王太子でもない。
男爵令嬢でもない。
政治だ。
面倒だった。
本当に面倒だった。
だから。
アメリアはため息を吐いた。
そして。
心の底から呟く。
「増えましたわね」
ぽつり。
誰も聞いていない牢獄の中。
「仕事が」
それがアメリア・フォン・アルフォードだった。
投獄されても。
婚約破棄されても。
真っ先に気にしたのは。
増えた仕事の方だった。
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