第二話 そうですか
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
夜。
卒業記念パーティー。
王族。
貴族。
外交官。
他国大使。
国内外の有力者が集まっている。
華やかな会場だった。
アメリアは貴族らしく挨拶を続けていた。
機械のように。
淡々と。
実に平和だった。
だから。
異変に気付いた時。
嫌な予感がした。
ルーカス。
ミリア。
二人の周囲に人が集まっている。
やけに多い。
普段の取り巻きではない。
見覚えのない顔も混ざっている。
貴族。
令息。
令嬢。
そして。
何故か妙に興奮している。
(嫌な予感がいたしますわね)
久しぶりだった。
こういう勘は当たる。
大体当たる。
だから。
静かにため息を飲み込んだ。
そして。
最悪の形で当たった。
「アメリア・フォン・アルフォード!」
ルーカスの声だった。
会場が静まり返る。
全員が振り向く。
音楽が止まる。
談笑も止まる。
視線が集まる。
一斉に。
アメリアへ。
(面倒ですわね)
本当に。
本当に面倒だった。
だが無視は出来ない。
外交官がいる。
王族がいる。
大使もいる。
逃げられない。
「何でしょうか」
完璧な礼。
完璧な笑顔。
その瞬間。
「私は君との婚約を破棄する!」
会場が凍った。
完全な静寂。
誰も動かない。
誰も喋らない。
だが。
アメリアだけは別のことを考えていた。
(外交官が三名)
(王族が二名)
(大使もおりますわね)
(ここでやりますの?)
そっちだった。
悲しくはない。
怒ってもいない。
驚いてもいない。
まず最初に思ったのは。
(後処理が大変ですわね)
だった。
そして。
ルーカスは続ける。
「アメリアは長年ミリアを虐げていた!」
会場がざわめく。
小さな悲鳴。
囁き。
ざわめき。
広がる。
その時だった。
アメリアの眉が僅かに動いた。
おかしい。
本当におかしい。
その話は終わったはずだ。
調査した。
証拠も集めた。
記録も残っている。
生徒会も把握している。
むしろ。
自分は止めた側だった。
なのに。
なぜ今更。
アメリアはミリアを見る。
困惑している。
本当に困惑していた。
演技ではない。
少なくとも。
アメリアにはそう見えた。
次に。
ルーカスを見る。
怒っている。
本気で怒っている。
本気で信じている顔だった。
つまり。
違う。
ミリアではない。
ルーカスでもない。
背後にいる。
誰かがいる。
そう考えた瞬間。
会場後方。
一人の老人が目に入った。
宰相。
老人は静かに佇んでいる。
その視線が。
ほんの一瞬だけ。
アメリアと交差した。
そして。
微笑んだ。
ほんの僅かに。
誰にも気付かれない程度に。
その瞬間。
全てが繋がった。
(ああ)
(そういうことですのね)
ルーカスではない。
ミリアでもない。
もっと面倒な相手だ。
派閥。
権力。
利害。
政治。
生まれて初めて。
アメリア・フォン・アルフォードは理解する。
今まで相手にしていたのは人だった。
勉強が出来ない人。
剣が苦手な人。
嫉妬する人。
失敗する人。
そういう人達だった。
だが。
政治は違う。
政治は。
もっと面倒だった。
そして。
この瞬間。
自分は。
初めて政治の盤上に乗せられたのだと。
理解した。
アメリアは静かに微笑む。
「そうですか」
穏やかな声だった。
怒りもない。
動揺もない。
ただ静かだった。
だが。
その笑顔を見た瞬間。
生徒会長クラウスは確信した。
終わった。
ルーカスではない。
ミリアでもない。
宰相が。
終わった。
なぜなら。
アメリアが本気で面倒だと思った時。
一番怖いのは。
いつだって。
相手の方だったからだ。
卒業記念パーティー。
それは本来。
若者達の門出を祝う夜だった。
だが。
後に王国史へ残る大騒動は。
この一言から始まることになる。
「私は君との婚約を破棄する!」
そして。
アメリアはまだ知らない。
この日失うものより。
この日手に入れるものの方が。
遥かに大きいことを。
お読み頂き、ありがとうございます。




