第一話 仕事が減りますわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
三年という歳月は短い。
気付けば卒業式の日になっていた。
アメリアは珍しく機嫌が良かった。
学園生活。
生徒会。
ミリア騒動。
東方皇子レイとの交流。
思い返せば色々あった。
だが。
全部終わった。
現在の王国は平和そのものだった。
レイとセシリアは順調。
ミリアを巡る騒動も収束した。
生徒会も安定している。
学園運営も問題ない。
非常に良い。
本当に良い。
(ようやく終わりますわね)
心の底からそう思う。
アメリアは努力が嫌いではない。
勉強も嫌いではない。
剣術も。
王妃教育も。
やるべきことならやる。
だが。
不要な問題に巻き込まれるのは好きではない。
大変だから。
非常に。
そして。
ようやく学園が終わる。
卒業後は王妃教育に専念。
結婚準備も進む。
少なくとも学園関係の仕事は消える。
実に素晴らしい。
未来は明るい。
本気でそう思っていた。
◇
卒業式。
式は予定通り進んだ。
国王陛下からの祝辞。
校長からの言葉。
卒業証書授与。
何事もなく終わっていく。
アメリアは静かに周囲を見渡した。
懐かしい顔が並んでいる。
入学当初は頼りなかった新入生達。
今では立派な上級生になっている。
そして。
隣にはルーカス。
王太子。
元婚約者。
……になる予定の人物。
アメリアはそう思っていない。
正確には。
最近は考えていない。
あまりにも色々ありすぎたからだ。
ミリア問題。
レイ問題。
生徒会。
王城との調整。
学園運営。
忙しかった。
非常に。
だから。
ルーカスが最近何をしているかも。
あまり興味がなかった。
仲良くしているならそれで良い。
喧嘩しなければなお良い。
それだけだった。
◇
「あら……」
来賓に一人の人物を見つけた。
昨年、卒業した元生徒会長のクラウスだ。
「アメリア嬢、卒業おめでとう」
「わざわざご足労いただきありがとうございます」
和やかな会話。
雑談。
クラウスがふと思いつく。
「そういえば、結婚はいつになりそうだ?」
至極当然の問。
アメリアは考えた。
「まだ、決まっておりませんの」
「……そうか」
「そのうちお話があるでしょうから、気長に待ちますわ」
互いに顔を見合わせて笑いあった。
アメリアは本当に気にしていない。
むしろ、忘れていた。
クラウスは少しだけ王太子に同情したい気分になった。
◇式典終了後
生徒会メンバーが集まっていた。
「終わったな」
クラウスが言う。
「終わりましたね」
副会長も頷く。
どこか疲れた顔だった。
気持ちは分かる。
この三年。
本当に色々あった。
ほとんどアメリア絡みで。
「来年から平和になりますね」
会計担当がしみじみ呟く。
「どうだろうな」
クラウスが苦笑した。
「アメリア嬢が卒業するんだぞ」
「平和になりますよ」
「なるか?」
「なります」
即答だった。
全員頷く。
学園改革。
勉強会。
監視網。
ミリア問題。
生徒会改革。
全部アメリア発だった。
本人は認めないだろうが。
絶対に。
「アメリア嬢は?」
「図書館だ」
即答。
全員納得した。
いつも通りだった。
◇図書館
アメリアは本を読んでいた。
卒業式当日である。
普通は感傷に浸る。
友人と語り合う。
将来を語る。
そういう日だ。
だが。
アメリアは違った。
本を読んでいる。
いつも通り。
本当にいつも通り。
そして。
「アメリア様」
侯爵令嬢が声をかける。
「何かしら」
「もう卒業ですわね」
「そうですわね」
「寂しくありませんか?」
アメリアは少し考えた。
本当に少しだけ。
「仕事が減りますわね」
令嬢達が笑った。
やはりアメリアだった。
最後まで。
どこまでも。
アメリアだった。
◇夕方
王城。
卒業記念パーティーの準備が進んでいた。
使用人達が忙しなく動く。
料理人も。
警備兵も。
外交官も。
王族も。
全員忙しい。
だが。
アメリアはそれを見て思った。
(今日が終われば落ち着きますわね)
平和。
実に平和。
誰も争っていない。
問題も起きていない。
学園も終わった。
生徒会も引き継いだ。
ミリア問題も終わった。
レイ問題も終わった。
だから。
心から安心していた。
未来は平穏だと。
本気でそう信じていた。
◇その頃。
王城の片隅。
ある男が静かにワインを傾けていた。
宰相。
老人は穏やかに笑う。
「準備は整いました」
側近が小さく頭を下げる。
「そうか」
宰相は微笑んだ。
ゆっくりと。
静かに。
「では始めよう」
その言葉の意味を。
アメリアはまだ知らない。
卒業の日は穏やかに終わった。
少なくとも。
卒業パーティーが始まるまでは。
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