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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第三章 令嬢編

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終話 温かく見守っていただけませんか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

アメリアは男爵令嬢の件について調査を行った。


「……なるほど」


 生徒会室。

 アメリアは一枚の報告書を読んでいた。


 男爵令嬢への嫌がらせ。

 無視。

 陰口。

 社交からの排除。


 証拠もある。

 証言もある。

 事実なのだろう。


「主導者は特定できております」


 副会長が言う。


「そう」


 静かな返事。


 怒らない。


 だが。

 生徒会長クラウスは知っている。


 今、アメリアはかなり怒っている。


 ただし。


 男爵令嬢に対してではない。


 王太子に対してでもない。


 むしろ。


 この騒動そのものに。


 である。


「呼んでいただけますか」


「全員か?」


「ええ」


 にこり。


 嫌な予感しかしなかった。


◇翌日


 空き教室。


 十数名の令嬢達が並んでいた。


 全員顔面蒼白。


 中には泣きそうな者もいる。


 理由は簡単だった。


 相手がアメリアだから。


 怒鳴らない。


 脅さない。


 感情的にもならない。


 なのに。


 何故か一番怖い。


「ご機嫌よう」


 アメリアが入室する。


 全員が立ち上がる。


「アメリア様……」


「座ってくださいな」


 穏やかな声。


 全員が着席する。


 静寂。


 長い静寂。


 そして。


 アメリアは一冊の書類を開いた。


「まず」


 穏やかな声。


「皆様の行動について確認いたします」


 空気が凍る。


「侯爵令嬢リリアナ様」


「は、はい」


「五月十二日」


 書類をめくる。


「男爵令嬢へのお茶会招待を取り消しております」


「……」


「五月十九日」


「……」


「六月二日」


「……」


「六月十一日」


 次々と並ぶ。


 令嬢の顔色が消えていく。


 逃げ道がない。


 完全に調査されていた。


 それを全員分。


 淡々と。


 ひたすら淡々と。


 読み上げていく。


 やがて。


「……以上です」


 アメリアが書類を閉じた。


 沈黙。


 誰も口を開かない。


「何か申し開きはございますか?」


 誰も言えない。


 事実だから。


 全て。


 事実だから。


 数秒。


 十秒。


 二十秒。


 そして。


「申し訳ございませんでした」


 一人が頭を下げる。


 続いて。


「申し訳ございません」


「申し訳ございませんでした」


 次々と頭が下がる。


 誰も言い訳をしない。


 できなかった。


 だが。


 その時だった。


「ですが」


 アメリアが言った。


 全員が顔を上げる。


「皆様のお気持ちはよく分かります」


 静まり返る教室。


「え……」


 誰かが声を漏らした。


「王太子殿下の近頃の振る舞い」


 アメリアは続ける。


「決して褒められたものではありません」


 全員が固まる。


 初めて聞いた。


 アメリアの本音を。


「王太子教育」


「公務訓練」


「授業」


「責任」


「全てを軽視なさっております」


 淡々としている。


 しかし。


 確実に不満がにじんでいる。


「ですので」


 アメリアは苦笑した。


 本当に珍しく。


 苦笑した。


「皆様のお気持ちは理解できます」


 令嬢達の目から涙が零れた。


「アメリア様……」


「ですが」


 声が戻る。


 いつものアメリアに。


「男爵令嬢は別です」


 ぴたりと空気が止まる。


「彼女は彼女」


「殿下は殿下」


「責任は個人にございます」


 全員俯く。


 正論だった。


「ですので、この件は見過ごせません」


「はい……」


「申し訳ございません……」


 涙声。


 震える肩。


 そして。


 アメリアは静かに立ち上がった。


「ですが」


 全員が顔を上げる。


「私は皆様を責めるつもりはございません」


 驚愕。


 全員が固まる。


「今回の件は不問にいたします」


「え……?」


「ただし」


 一瞬だけ。


 アメリアが微笑む。


 生徒会長だけが思った。


 あ。


 何か始まる。


「一つだけお願いがございます」


 全員が姿勢を正した。


「……あの二人を温かく見守っていただけませんか」


 沈黙。


 令嬢達は理解できなかった。


「見守る……?」


「ええ」


 アメリアは優雅に頷く。


「殿下もお疲れです」


「……」


「男爵令嬢も混乱しているのでしょう」


「……」


「ですので」


 にっこり。


「何かあれば教えてくださいな」


 生徒会長が吹き出しそうになった。


 副会長も気付いた。


 会計担当も気付いた。


 それ。


 見守るじゃない。


 監視だ。


 完全に監視である。


 だが令嬢達は違った。


 涙ぐむ。


 感動している。


「アメリア様……」


「なんてお優しい……」


「そこまで殿下のことを……」


 違う。


 生徒会メンバーだけが知っている。


 違う。


 この人は。


 ただ。


 仕事を増やしたくないだけだ。


 王太子が何かやらかしたら。


 真っ先に情報が欲しいだけだ。


 だが。


 令嬢達には伝わらなかった。


「お任せください!」


「私達が見守ります!」


「必ず!」


 大合唱。


 こうして。


 アメリア本人の知らないところで。


 学園最大の監視網が完成した。


 そしてアメリアは満足そうに頷く。


(これで少しは仕事が減りますわね)


 本気でそう思った。


◇三日後


 机の上には木箱が置かれていた。


『王太子殿下行動報告書』


 一通。


『男爵令嬢接触記録』


 二通。


『今週の問題行動一覧』


 三通。


『教育官苦情まとめ』


 四通。


 さらに。


 さらに。


 さらに。


 増える。


 増え続ける。


 アメリアは静かに木箱を見る。


 そして。


 本当に珍しく。


 深いため息を吐いた。


「……何故、増えておりますの?」


 平和ですわねは、お預けである。

挿絵(By みてみん)


お読み頂き、ありがとうございます。

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