第四話 初耳ですわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
アメリアは困惑していた。
本気で。
非常に本気で。
最近。
ルーカスの様子がおかしい。
いや。
正確には以前からおかしかった。
だが最近は特におかしい。
見るたびに不機嫌。
話すたびに怒る。
何もしていないのに怒る。
意味が分からない。
そしてその日。
昼休み。
中庭。
アメリアは本を読んでいた。
実に平和だった。
その時。
「もうやめろ!」
突然だった。
アメリアは顔を上げる。
ルーカスだった。
怒っている。
非常に。
「殿下?」
「もう十分だろう!」
意味が分からない。
本当に。
「何のお話でしょう」
「ミリアへの嫌がらせだ!」
アメリアが固まる。
数秒。
本当に数秒。
「ミリア様?」
「白々しい!」
さらに怒られた。
意味が分からない。
「君が糸を引いているのだろう!」
アメリアは沈黙した。
考える。
ミリア。
男爵令嬢。
最近よく見る。
以上。
嫌がらせ。
知らない。
本当に知らない。
「殿下」
「何だ!」
「何か証拠はございますか?」
「皆言っている!」
非常によろしくない。
皆が言っている。
根拠にならない。
実によろしくない。
「君を恐れているだけだ!」
アメリアは困った。
本当に困った。
自分は何もしていない。
だが。
ルーカスは本気で信じている。
そして。
これが一番問題だった。
もし事実なら。
問題である。
もし事実でないなら。
なお問題である。
どちらにせよ。
問題だった。
「ご忠告ありがとうございます」
アメリアは一礼した。
「失礼いたします」
「待て!」
ルーカスが何か言っている。
だが。
アメリアは既に別のことを考えていた。
(確認しなければなりませんわね)
事実を。
まず事実を。
◇放課後
生徒会室。
「調査?」
生徒会長クラウスが聞き返した。
「ええ」
アメリアは頷く。
「ミリア様への嫌がらせについてです」
室内が静まり返る。
副会長が顔をしかめた。
「何故急に」
「殿下からご指摘を受けました」
全員察した。
ああ。
またか。
という顔だった。
「アメリア嬢」
クラウスが慎重に口を開く。
「君は本当に何も知らないのか?」
「はい」
即答だった。
一切迷いもない。
「ミリア様に嫌がらせが行われていることも?」
「初耳ですわ」
「殿下が君を疑っていることも?」
「先ほど知りました」
生徒会役員達が頭を抱える。
この人。
本当に何も知らない。
本気で。
「何か問題でも?」
アメリアが首を傾げる。
問題しかなかった。
非常に。
だが。
アメリアは別のことを考えている。
「事実確認が必要です」
静かな声だった。
「嫌がらせが事実なら対応が必要です」
一拍。
「事実でなければ、誤情報の出所を調べる必要があります」
合理的だった。
いつも通り。
「調査を許可していただけますか」
クラウスは苦笑する。
もう決まっている。
この顔は。
絶対に調べる顔だ。
「構わない」
「ありがとうございます」
アメリアは微笑んだ。
穏やかに。
美しく。
そして。
副会長が小さく呟く。
「始まったな」
「始まったな」
会計担当も頷く。
誰も気付いていない。
いや。
アメリア本人だけが気付いていない。
今。
ミリアへの嫌がらせではなく。
学園全体の人間関係を巻き込む監査が始まろうとしていることを。
そしてアメリア本人は。
(早く原因を特定して終わらせたいですわね)
ただそれだけを考えていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




