第二話 ありませんわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
二年生になって一か月。
アメリアは平穏な日々を送っていた。
少なくとも本人はそう認識していた。
「平和ですわね」
図書館。
窓際。
お気に入りの席。
本。
紅茶。
完璧だった。
王太子も静か。
ここ最近、絡まれる回数が目に見えて減った。
(やはり良かったですわ)
生徒会へ入ったのは正解だった。
学園祭の成功。
王太子の評価向上。
自分への小言減少。
素晴らしい。
その時。
「聞きまして?」
近くの席から声が聞こえる。
「まあ、例の男爵令嬢の話?」
アメリアは読書を続ける。
興味はない。
だが。
「殿下が毎日会いに行っているらしいですわ」
ページをめくる手が止まる。
一秒。
二秒。
再び動く。
興味はない。
本当に興味はない。
ただ。
毎日?
(仕事はしているのでしょうね)
それだけが少し気になった。
それだけだった。
◇同時刻
女子寮。
あるお茶会。
「許せませんわ」
侯爵令嬢が呟く。
「本当に」
伯爵令嬢も頷く。
「アメリア様がどれだけ殿下を支えてこられたと」
空気が重い。
参加者の大半は。
かつてアメリアに助けられた令嬢達だった。
勉学。
進路相談。
委員会運営。
生徒会。
直接でなくとも恩を感じている。
そんな令嬢達から見れば。
王太子の行動は面白くない。
「アメリア様は何も仰らないのですね」
「当然ですわ」
侯爵令嬢が悲しそうに笑う。
「アメリア様ですもの」
誰も反論しない。
アメリアは文句を言わない。
愚痴も言わない。
誰かを責めない。
だから余計に腹が立つ。
「きっと傷ついておられるのです」
「そうですわ」
「お優しい方ですもの」
完全な誤解だった。
アメリアは本当に気にしていない。
だが。
ここにいる誰も知らない。
「私達が支えなければ」
「ええ」
「アメリア様お一人に苦労をさせるわけにはいきません」
この瞬間。
奇妙な同盟が誕生した。
『アメリア被害者の会(非公式)』
名称はもちろん存在しない。
だが目的は同じ。
アメリアを守ること。
そして。
王太子と男爵令嬢の動向を把握すること。
ついでに。
監視すること。
徹底的に。
◇数日後
図書館。
「ご機嫌よう、アメリア様」
「ご機嫌よう」
「本日も良い天気ですわね」
「そうですわね」
会話終了。
だが。
令嬢達は微妙に増えていた。
一人。
二人。
三人。
じわじわ。
本当にじわじわ。
増えている。
(何故ですの?)
アメリアは困惑する。
理由が分からない。
今年は特に何もしていない。
平和である。
なのに。
「アメリア様」
「何かしら」
「何か困ったことがあれば仰ってくださいませ」
「ありませんわ」
「遠慮なさらず」
「本当にありませんわ」
「そうですわよね……」
何故か悲しそうな顔をされた。
意味が分からない。
(本当に何もありませんのに)
アメリアは困惑する。
だが。
彼女は知らない。
今、学園中で広がっている噂を。
”アメリア様は傷ついている”
”それでも婚約者を支えている”
”なんてお優しい方なの”
という。
完全なる誤解を。
そして。
その誤解が。
後に。
王太子と男爵令嬢を追い詰める大包囲網へ発展していくことを。
アメリアだけが知らなかった。
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