第九話 どうかされました?
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
生徒会室
「では試験を行いましょう」
生徒会長クラウスが言った。
アメリアは静かに頷く。
「承知いたしました」
「生徒会に入る以上、相応の実力は必要です」
「その通りですわ」
「各分野で生徒会役員と勝負していただきたい」
「構いません」
即答だった。
迷いもない。
焦りもない。
その様子に会計担当が眉をひそめた。
(自信があるのか)
気に入らなかった。
一年生だ。
優秀なのは知っている。
だが、生徒会は王国最高峰の集団である。
一年生が軽々しく入れる場所ではない。
「まずは剣技からだ」
◇第一試験 剣技
訓練場。
観客席には生徒会役員達も来ていた。
相手は剣術担当のレオン。
三年生。
学園でも屈指の実力者。
騎士団からも期待されている逸材。
「手加減は不要です」
アメリアが言う。
レオンは驚いた。
「本気で言っているのか?」
「ええ」
「怪我をするぞ」
「でしたら負けますわ」
レオンは笑った。
面白い。
「始め!」
開始。
同時にレオンが踏み込む。
速い。
一年生では反応出来ない速度。
だが。
カン。
軽い音。
レオンの剣が弾かれた。
「なっ」
体勢が僅かに崩れる。
その瞬間。
アメリアの剣が喉元で止まっていた。
静寂。
「ありがとうございました」
アメリアが礼をする。
レオンは固まった。
(今、何をされた?)
力負けではない。
速度でもない。
癖を読まれた。
完全に。
観客席。
副会長が呟く。
「十五秒だぞ」
誰も返事が出来なかった。
◇第二試験 勉学
試験官は主席常連の副会長。
問題はその場で作った。
王国法。
経済。
歴史。
外交。
一時間後。
採点。
副会長の手が止まる。
「おかしい」
もう一度見る。
もう一度。
さらにもう一度。
全部正解だった。
「問題は?」
会計担当が聞く。
「全部正解だ」
「まさか」
「全部だ」
副会長は乾いた笑みを浮かべた。
そして最後の答案で止まる。
記述問題。
模範解答と違う。
だが。
こちらの方が優れていた。
副会長は答案を見つめる。
アメリアを見る。
そして思った。
(なんで一年なんだ)
◇第三試験 経理
会計担当が前に出る。
ここだけは負ける気がしなかった。
「この帳簿の異常を探せ」
架空の商会。
架空の取引。
数字の齟齬。
何時間もかけて作った問題だった。
アメリアが資料を受け取る。
五分。
十分。
十五分。
「終わりました」
早すぎる。
会計担当が結果を見る。
「……」
一ページ目。
全部当たり。
二ページ目。
全部当たり。
三ページ目。
全部当たり。
最後の余白。
『担当者が横領している可能性があります』
会計担当が顔を上げる。
「なぜそう思った」
「銀貨三枚だけ合いませんわ」
静寂。
「銀貨三枚のために?」
「銀貨三枚だからですわ」
アメリアは首を傾げた。
「わざわざ隠したのでしょう?」
会計担当は思った。
(怖い)
公爵家の使用人達の気持ちが少し分かった。
◇最終試験 情報戦
最後は生徒会長クラウス。
模擬国家運営。
貴族派閥。
商会。
婚姻関係。
王国予算。
複雑に絡み合った図。
「正解はない問題だ」
クラウスが言う。
「承知しております」
アメリアは資料を開く。
そして。
三十分後。
「以上です」
クラウスは答えを読む。
最初は普通だった。
だが。
読み進める。
止まる。
また読む。
さらに読む。
副会長も覗き込む。
会計担当も固まる。
「どうかされました?」
アメリアが尋ねる。
誰も答えない。
なぜなら。
クラウス達の答えは、
今ある問題をどう解決するか。
アメリアの答えは違った。
問題が発生しない仕組みを作っていた。
根本から。
完全に。
沈黙。
長い沈黙。
そして。
クラウスが小さくため息を吐いた。
「アメリア嬢」
「はい」
「後学のためと言ったな」
「ええ」
「本当に後学のためか?」
「はい」
一切迷いがない。
嘘を言っていない顔だった。
そして生徒会全員が同じことを思う。
この人、自分がどれだけおかしいか全く自覚していない。
それが一番恐ろしかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




