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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十六章 諸国戦争編継志

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第二話 馬鹿ですわね……

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王城。

 監査局地下保管庫。


 そこは滅多に人が立ち入らない場所だった。


 厚い石壁。

 並ぶ書架。

 積み上げられた箱。

 保存用の棚。


 王国中から集められた資料が眠る場所。


 そして今。

 その地下に多くの人間がいた。



「こっちも開けろ!」

「第三保管棚の資料は全て確認!」

「年度別整理は後回しだ!」

「まず非常時関連を探せ!」


 監査局員達が慌ただしく動いている。


 軍務省職員。

 王城文官。

 地方担当官。


 いつもなら接点の少ない者達まで集まっていた。


 理由は一つ。

 アメリアが残した資料を探すためだった。



 アルフレッドは箱を開く。


 中には分厚い帳簿。

 橋梁監査報告書。

 地方道路調査記録。


 そして。


「何だこれは……」


 思わず呟く。


『西部街道老朽化による代替輸送経路案』


 数年前の資料。


 戦争前。

 平時に作られたものだった。


 だが中身は違う。


 主要街道が使用不能になった場合。

 洪水が起きた場合。

 橋が崩落した場合。


 代替ルート。

 必要荷馬車数。

 輸送時間。

 補給能力。


 全て記載されている。


 アルフレッドがページをめくる。

 さらに驚く。


「西部だけじゃない……」


 北部。

 東部。

 南部。


 全地域がある。



「こちらも見つかりました!」


 局員が駆けてくる。

 両腕いっぱいの資料。


『地方備蓄一覧』

『修道院支援網』

『孤児院給食維持計画』

『災害時医療拠点転換案』


 次々と机へ積まれる。


 ルーカスが資料を読む。

 そして顔をしかめた。


「何故こんなものを作っていた」


 監査局副局長が苦笑する。


「局長ですから」


 それだけで説明になっていた。



 ミリアも資料へ手を伸ばす。


 古い書類。

 丁寧な文字。

 見慣れた筆跡。


 アメリアの字だった。


『東西物流寸断時における代替商会網利用計画』


 ページを開く。

 そこには商会名。


 責任者。

 輸送能力。

 緊急連絡先。

 荷馬車保有台数。

 倉庫規模。

 取扱品目。


 細かく記載されている。


 まるで。

 この日が来ることを知っていたかのように。


 だが違う。


 アメリアは戦争を予想していたわけではない。


 そんな性格ではない。


 ただ。

 仕事を減らすために。


 問題が起きる前に整理しただけだ。


 それだけだった。



「あいつらしいな……」


 アルフレッドが呟く。


「ええ」


 ミリアが頷く。

 自然と笑みが零れた。


「問題が起きてから動くのを嫌っていましたから」


 思い出す。


『事後対応は非効率です』

『予防できるなら予防した方が楽でしょう?』

『面倒ですので』


 当時は理解できなかった。


 だが今なら分かる。


 アメリアは楽をしたかった。


 本当に。

 心の底から。


 だから準備した。

 だから残した。


 そして。

 その結果。


 王国が救われようとしている。



 昼過ぎ。

 発見された資料が大会議室へ運び込まれる。


 机の上を埋める山。


 ルーカスが頭を抱えた。


「まだあるのか」

「あります」


 副局長が即答する。


「まだ三分の一です」


 沈黙。


 全員が固まる。


「三分の一……?」


「はい」


「残りも整理中です」


 会議室に奇妙な空気が流れる。

 誰かが小さく呟いた。


「どれだけ作っていたんだ……」



 その時だった。

 監査局員の一人が声を上げる。


「局長の個別保管箱です!」


 全員が振り向く。


 運ばれてきた木箱。

 鍵付き。


 局長専用。

 アメリア以外がほとんど触れていなかった箱だった。


「開けます」


 副局長が鍵を回す。


 蓋が開く。


 中には整然と並んだ資料。


 全員が固まった。


 そこに記されていた題名。


『王国非常時統制計画』

『戦時物流移行手順』

『大規模災害発生時行動指針』

『地方統治維持計画』

『王国機能継続計画』



 会議室が静まり返る。


 誰も言葉を失っていた。


 戦争準備ではない。

 クーデター対策でもない。


 王国そのものが機能不全に陥った場合の復旧計画。


 王国という組織の。

 取扱説明書だった。



「馬鹿ですわね……」


 気付けば。

 ミリアが呟いていた。


 皆が振り向く。


 だが否定する者はいない。


「仕事を減らしたいと」

「ずっと言っていたのに」


 アメリアの席を見る。


 空席。

 もういない席。


 それでも。

 まるで今もそこに座り、


『当然でしょう?』


 と言っている気がした。



 ミリアは一冊の資料を手に取る。

 表紙を撫でる。


 そして静かに言った。


「やはり」


 全員が見る。


 ミリアは少しだけ笑った。


 寂しく。

 誇らしく。

 泣きそうな顔で。


「アメリアは必ず残していました」


 静かな声だった。


「自分がいなくても」

「誰かが使えるように」


 誰も何も言わなかった。

 言えなかった。


 だって。

 机の上に積まれた資料全てが。


 その言葉の証明だったから。



 その夜。

 王国中の文官達が呼び集められる。


 軍も。

 監査局も。

 地方官も。

 商会も。


 全てが動き始める。


 アメリアの残した資料を中心として。

 巨大な歯車が。

 ゆっくりと回り始めていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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