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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十五章 諸国戦争編計略

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幕間 仕事だな

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王城。

 軍事執務室。


 アルフレッドは机に突っ伏していた。


 目の前には地図。


 報告書。

 補給計画。

 避難計画。

 増援調整。

 東方連盟との連絡記録。


 そして。

 未処理書類の山。


「……」


 疲れていた。


 本当に。

 心の底から。



 今回の戦争で。

 アルフレッドは調整役になっていた。


 王国軍。

 監査局。

 地方領主。

 東方連盟。


 それらを繋ぐ役目。


 誰かがやらなければならない。

 だから引き受けた。


 だが。

 難しい。


 本当に難しい。


「東方連盟の進軍速度は」

「北部防衛線の再編は」

「避難民輸送は」

「補給倉庫再配置は」 


 やることが終わらない。

 次から次へと問題が出てくる。


 資料を処理しても。

 翌日には増えている。


 また増える。


 さらに増える。


「なるほどな……」


 思わず苦笑が漏れる。


「そりゃ仕事減らしたくもなる」


 アメリアの口癖が少しだけ理解できた。


 しかし。

 その笑いは長く続かなかった。


 机の端。


 戦死者報告書。

 そこへ視線が向く。


 第四補給拠点。


 死者三十七名。

 負傷九十一名。


 失敗だった。


 自分達の。


 そして思い出す。


「アメリアなら」


 会議で何度も聞いた言葉。


「アメリアなら見抜いた」


「アメリアなら防げた」


「アメリアなら」


「……」


 大きく息を吐く。


「分かってる」


 そんなことは。

 皆分かっている。


 アメリアがいたら違ったかもしれない。


 だが。

 もういない。


 そこで考えを止める。


 意味がない。

 死人は戻らない。


 少なくとも。

 自分達はそう思っている。


 その時だった。

 扉が叩かれる。


「失礼する」


 聞き覚えのある声。


「公爵閣下」


 アルフレッドは立ち上がる。


 入ってきたのはアメリアの父だった。


 以前より老けて見える。

 だが背筋は伸びていた。


「忙しそうですな」


「ええ」


 苦笑しか出ない。


「終わりません」


「そうでしょうな」


 公爵も苦笑した。


 しばらく沈黙。


「報告は聞いております」


 公爵が言う。


「第四補給拠点」


「申し訳ありません」


 反射的に頭を下げる。


「何故謝るのですか」


「それは……」


 言葉が詰まる。


 失敗したからだ。

 守れなかったからだ。


 だが。

 公爵は首を振った。


「殿下達だけの責任ではない」


 静かな声。


「戦争だ」


「失敗もする」


「死者も出る」


「犠牲も出る」


 一拍。


「それでも前へ進まねばなりません」


 重みのある言葉だった。


「公爵閣下」


「何ですかな」


「アメリアなら」


 口にしてしまった。


「アメリアなら防げたと思いますか」


 沈黙。


 少しだけ。

 本当に少しだけ。


 公爵は笑った。


「難しい質問ですな」


 そして椅子へ腰掛ける。


「恐らく」

「防げたかもしれません」


 アルフレッドが顔を伏せる。


 やはりそうか。

 そう思った。


 だが。


「だが」


 続きがあった。


「それはアメリアだからです」


 顔を上げる。


「どういう意味でしょう」


「簡単です」


 公爵は笑う。


「あの子はおかしい」


 即答だった。


 アルフレッドも頷いた。

 そこは否定できない。


「私でも真似出来ません」


「母親でも無理です」


「ルーカス殿下でもできません」


「ミリア殿下でもできません」


 静かな声。


「だから比較する意味はない」


 そこで公爵は窓を見る。


「だがな」


 一拍。 


「アメリアは一人で王国を変えた訳ではない」


 アルフレッドが目を瞬く。


「皆そう思っていますが」


「違います」


 公爵は首を振った。


「アメリアがやったのは仕組み作りです」


「人を繋ぐことです」

「土台を作ることです」


「一人で全部やれる人間なら」


 少しだけ笑う。


「監査局など作りません」


 確かにそうだった。


 一人でやるなら部下はいらない。

 制度もいらない。


 だがアメリアは違った。


 監査局を作った。

 部下を育てた。

 制度を整えた。


 王国に仕組みを残した。


「なら」


 公爵はアルフレッドを見る。


「今殿下達が使っているものは何でしょう?」


 補給制度。

 監査局。

 備蓄網。

 物流網。

 地方協力体制。


 全部。


 アメリアが残したものだった。


「……ああ」


 アルフレッドはようやく気付く。


 いない。


 確かにいない。


 だが。

 何も残していない訳ではない。


 むしろ逆だ。

 残し過ぎている。


 本当に。

 呆れるほど。


 公爵は立ち上がる。


「殿下達は勘違いしておられる」

「アメリアがいなくなったから戦えないのではない」


 一拍。


「アメリアが残したものを、まだ使い切れておらんだけです」


 静かな声だった。


 だが力強かった。



 部屋を出る直前。

 公爵は振り返る。


「アルフレッド殿下」


「はい」


「娘ならこう言うでしょう」


 少し笑う。


「失敗したなら改善いたしましょう」


 アルフレッドは吹き出した。


「言いそうですね」


「言うでしょうな」


 即答だった。



 扉が閉まる。

 静かな部屋。


 アルフレッドは机の資料へ視線を落とす。


 補給計画。

 避難計画。

 東方連盟との連携案。


 全部。


 まだ終わっていない。

 まだやれる。


 やらなければならない。


「改善か」


 ぽつりと呟く。


「確かにな」


 負けた。

 だが終わっていない。


 失敗した。

 だがまだ戦える。


 そして。


 王国にはまだ残っている。

 アメリアが遺したものが。


 アルフレッドは新しい報告書を開いた。


「さて」


 小さく笑う。


「仕事だな」


 そしてその数日後。

 東方連盟軍は王国へ到着する。

お読み頂き、ありがとうございます。

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