終話 行きましょう
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
王城大会議室。
重い空気だった。
第四補給拠点陥落。
補給物資焼失。
避難計画遅延。
敗北の傷跡はまだ生々しい。
会議室に集まった面々も疲れていた。
国王。
ルーカス。
アルフレッド。
軍務大臣。
文官達。
監査局幹部。
誰もが同じだった。
失敗した。
その事実から逃げられない。
◇
だが。
今日は少しだけ違った。
ルーカスが気付く。
会議室へ入ってきたミリアを見て。
昨日までと違う。
ほんの僅かに。
本当に僅かに。
だが違う。
何かを決めた人間の顔だった。
「では始めましょう」
国王が告げる。
会議が始まる。
最初に出されたのは避難計画修正版だった。
「北部三地域の移送遅延です」
文官が報告する。
「現在不足している輸送能力は約二割」
「新規荷馬車の調達を――」
「待ってください」
ミリアが口を開いた。
全員が振り向く。
◇
ミリアは資料を見る。
昨日までなら。
ここで考えていた。
アメリア様なら。
どうするだろう。
何を見るだろう。
何に気付くだろう。
だが今は違う。
「地方領主の協力は得られませんか?」
会議室が静かになる。
「協力?」
軍務大臣が首を傾げる。
「はい」
ミリアは頷いた。
「荷馬車を増やすのではなく」
「既に存在している荷馬車を借りるのです」
資料を広げる。
「北部周辺の有力領地」
「商業都市」
「流通拠点」
「全てへ支援要請を出しましょう」
文官達が資料を確認する。
「可能かもしれません」
「確かに調達より早い」
「現地対応にもなりますな」
少しずつ声が上がる。
◇
ミリアは黙って聞く。
以前なら。
自分一人で答えを探していた。
だが今は違う。
「軍の意見はどうでしょう」
軍務大臣を見る。
「現地輸送網の確保が優先ですな」
「監査局は?」
今度は監査局副局長。
「予算は問題ありません」
「地方備蓄との併用も可能でしょう」
「文官は?」
「即日対応可能です」
各部署の回答が返ってくる。
ミリアは頷いた。
アメリアなら。
たぶんもっと早かった。
もっと効率的だった。
もっと正確だった。
だが。
それはアメリアだ。
自分ではない。
◇
ルーカスはその様子を見ていた。
そして気付く。
ミリアは変わった。
違う。
戻ったのだ。
元々のミリアに。
人の話を聞く。
人を繋ぐ。
人を動かす。
アメリアには出来ないこと。
ミリアだから出来ること。
それを始めている。
ルーカスは少しだけ笑った。
◇
会議は続く。
補給計画。
避難計画。
防衛ライン再構築。
意見が飛び交う。
以前より多かった。
誰か一人の答えを待つのではない。
全員で考えている。
全員で作っている。
それはアメリア流ではない。
しかし。
それでいいのだと。
少しずつ皆も理解し始めていた。
◇
やがて会議終盤。
議題が終わる。
皆疲れていた。
だが。
昨日とは違う。
敗北で終わる空気ではない。
前を見る空気だった。
そこで。
ミリアが立ち上がった。
「皆様」
会議室が静かになる。
「先日の敗北は私達の失敗です」
誰も否定しない。
事実だからだ。
「私も責任があります」
一呼吸。
「次は間違えません」
そこで止まる。
そして。
ゆっくり首を振った。
「いいえ」
会議室が静まる。
「間違えるかもしれません」
重臣達が顔を上げる。
「失敗するかもしれません」
「また見落とすかもしれません」
誰も言葉を挟まない。
「ですが」
ミリアは前を見る。
真っ直ぐに。
「それでも止まりません」
静かな声だった。
「守るために」
「前へ進みます」
国を。
民を。
皆を。
「だから」
「お力を貸してください」
沈黙。
そして。
最初に立ち上がったのは軍務大臣だった。
「当然ですな」
続いて文官達。
「お任せください」
「最後までやり遂げます」
「共に戦いましょう」
次々に声が上がる。
会議室の空気が変わった。
敗北の空気ではない。
前へ進む空気だ。
その時だった。
扉が勢いよく開く。
伝令兵だった。
「報告!」
全員が振り向く。
「東方連盟より使者到着!」
会議室が静まり返る。
「援軍に関する正式回答です!」
ルーカスが立ち上がる。
「入れ!」
伝令兵は深く頭を下げた。
「東方連盟軍」
「既に国境を越えました!」
一瞬。
誰も言葉を失った。
そして。
小さな歓声が上がる。
希望だった。
すぐに逆転できる訳ではない。
苦しい戦いも続く。
敗北も消えない。
だが。
もう一人ではない。
ミリアは窓の外を見る。
夜明けの光が差し込んでいた。
まだ勝っていない。
まだ苦しい。
それでも。
前を向ける。
「行きましょう」
その言葉に。
会議室全員が頷いた。
王国はまだ戦える。
そう思えた朝だった。
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