第三話 奴ら自身がまだ理解していない
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
北方・西方連合軍本営。
巨大な天幕。
地図を囲みながら各国の将軍達が集まっている。
「王国軍は予想通りだな」
一人が笑う。
「補給線を狙う気か」
「前回と同じだ」
「芸がない」
軽い笑い。
しかし。
その場で一人だけ笑っていない男がいた。
老人。
元宰相。
本来なら既にこの世にいないはずの男。
だが西方領主の手引きにより難を免れていた。
そして。
今回の戦争の立役者でもあった。
「笑うな」
低い声。
会議室が静まる。
一人の将軍が顔をしかめる。
「何だ」
元宰相は地図を見る。
「お前達は何も分かっていない」
静かな声だった。
「王国軍を見ているのではない」
「アメリア・フォン・アルフォードを見ろ」
空気が変わる。
知らない者もいる。
だが知る者はいる。
前回戦争。
王国を勝利へ導いた人物。
「死んだのだろう?」
北方将軍が言う。
元宰相は鼻で笑った。
「死んだ」
「だから厄介なのだ」
意味が分からない。
将軍達は顔を見合わせる。
元宰相は続けた。
「お前達は勘違いしている」
「前回勝ったのは王国軍ではない」
「アメリアだ」
「兵で勝ったのではない」
「物流で勝った」
「情報で勝った」
「経済で勝った」
「制度で勝った」
その場にいた何人かが黙る。
実際。
記録を調べればそうなっている。
補給線。
街道整備。
備蓄管理。
兵站効率。
どれも異常だった。
「だから私は潰した」
会議室が静まり返る。
元宰相は平然と言う。
「あの女は危険だった」
「王国を変えてしまう」
「私の全てを壊した」
そこに恨みが見える。
だが同時に。
誰よりも高い評価も混ざっていた。
「あれは怪物だ」
誰も反論しない。
反論できない。
元宰相自身が敗北者だからだ。
その元宰相が言う。
「だが死んだ」
将軍達が頷く。
「だから勝てる」
一人が笑う。
だが元宰相は首を振る。
「違う」
全員が見る。
「アメリア本人はいない」
「だが資料は残った」
「制度も残った」
「部下も残った」
「だから奴らは同じことをする」
そう言って地図の上へ駒を置く。
偽補給線。
囮倉庫。
偽情報。
二重補給路。
偽装輸送隊。
「王国軍はこれを狙う」
「なぜ断言できる」
元宰相は笑った。
「私が育てた馬鹿共だからだ」
冷たい笑み。
「アメリアの残した答えを真似する」
「だがアメリアの思考は真似できない」
会議室が静まる。
「だから負ける」
そして最後に。
元宰相は地図の王都へ視線を落とした。
「今の王国には」
「アメリアがいない」
「その事実を」
「奴ら自身がまだ理解していない」
その言葉で会議は終わる。
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