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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十五章 諸国戦争編計略

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第二話 ただ……

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 開戦から三日後。

 王城大会議室。


 机の上には大量の地図と報告書が並んでいた。


「敵軍の進行速度は想定内です」


 軍務大臣が報告する。


「補給線も現時点では維持できています」

「避難も順調です」


 会議室の空気は重い。

 しかし絶望的ではなかった。


 むしろ。

 戦争開始直後としては良い。


 かなり良い。


 それが問題だった。


「北部街道は?」


 ルーカスが尋ねる。


「予定通りです」


「備蓄倉庫も安全圏に移しております」


 報告が続く。


 どれも悪くない。


 その時だった。


「アメリア様の計画通りですね」


 文官の一人が言った。


 会議室が静かになる。


 だが否定する者はいなかった。


「そうだな」


 軍務大臣が頷く。


「非常時補給網も機能している」

「地方備蓄もだ」

「監査局の統計資料も役立っている」


 一つずつ名前が挙がる。


 そしてどれもアメリアが作ったものだった。


 地図を見る。


 補給経路。

 避難経路。

 備蓄拠点。


 ほとんどに見覚えがある。


 かつてアメリアが残した資料だ。


 戦争のためではない。


 災害。

 飢饉。

 事故。


 そういった非常時対策だったはずなのに。


 今は戦争でも役立っている。


「やはり先を見ていましたか」


 重鎮の一人が呟く。


「どこまで見えていたのか……」


 誰かが苦笑する。


 答えはない。

 本人がいないのだから。


 その時。

 ミリアの手が資料へ伸びた。


 そこには見慣れた文字。


 アメリアの筆跡。

 几帳面な文字だった。


 無駄がない。

 必要なことしか書いていない。

 それなのに不思議と読みやすい。


 何度も見た字だった。


 王太子教育。

 監査局。

 お茶会。

 様々な場所で。


 何度も。


 ミリアは指先で筆跡をなぞる。


 そして思う。


 アメリアなら。


 今、この場にいたら。


 どうするだろう。

 どこを見るだろう。

 どんな指摘をするだろう。


「ミリア」


 ルーカスが声をかける。


「何か気付いたか?」


 全員の視線が集まる。


 ミリアは我に返った。


「いえ」


 小さく首を振る。


「ただ……」


 一度言葉を止める。


「アメリアなら、どこを見るだろうと思いまして」


 再び静寂。


 そして。

 誰もが同じことを考えていたと気付く。


「私もです」


 文官が言った。


「アメリア様なら、と」


「私もだ」


 軍務大臣が頷く。


「敵補給線の位置を見るたびに考える」


「私もですね」


「俺もだな」


 会議室に小さな苦笑が広がる。


 皆同じだった。


 そして。

 それが自然なことだとも思っていた。


 アメリアは優秀だった。


 誰も否定しない。


 だから答えを探してしまう。


 アメリアの中に。


 するとルーカスが地図へ視線を落とす。


「敵軍補給線についてだが」


 新たな資料が広げられる。


 敵主力。

 補給拠点。

 街道。


 分析の結果。


 アメリアの遺した資料と同じ配置。


 それを見た軍務大臣が言う。


「前回と同じですな」


「補給線を叩けば崩れるでしょう」


「ええ」


 別の文官も頷く。


「アメリア様も同じ判断をされたはずです」


 誰も反論しなかった。


 それは合理的に見えた。

 正しく見えた。


 アメリアも選びそうな選択に見えた。


 だから。

 疑わなかった。


 誰一人として。



 会議終了後。

 人の減った会議室。


 ミリアは一人資料を見ていた。


 そこにはアメリアの文字。


 思わず呟く。


「アメリアなら……」


 返事はない。


 当然だった。


 もういないのだから。


 それでも。

 ミリアは資料を握り締める。


 きっと大丈夫。


 アメリアが残したものがある。


 アメリアの考えがある。


 その道を辿れば。

 間違えないはずだ。


 誰もがそう思っていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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