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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十五章 諸国戦争編計略

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第一話 我らの国を

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王都には静かな朝が訪れていた。


 空は晴れている。

 風も穏やかだった。


 だが誰一人として平和だと思っていない。



 王城大会議室。

 地図が広げられている。


 王国全土。

 北方諸国。

 西方諸国。


 そして各主要街道。


 室内には重い空気が満ちていた。


「北方連合軍、国境線を越えました」


 報告官が告げる。


「西方諸国軍も進軍を開始しております」


 沈黙。


 誰も驚かない。


 予測していた。

 知っていた。


 だからこそ重い。


「規模は」


 国王が尋ねる。


「北方約六万」

「西方約四万」

「合計十万です」


 数字が告げられる。


 会議室がさらに静かになった。


 決して勝てない数字ではない。

 だが楽観できる数字でもない。


 前回の戦争による疲弊も残っている。


 王国はまだ完全には立ち直っていないのだ。


「東方連盟は」


 ルーカスが尋ねる。


「返答待ちです」


 間に合わないかもしれない。


 誰も口にはしない。

 だが全員が理解していた。


 今、この場にいる者達だけで戦わなければならない可能性が高い。



 会議が続く。


 兵站。

 動員。

 避難計画。

 防衛線。


 議題は山ほどある。


 だが。


 ふと。

 ミリアの視線が止まる。


 会議卓。


 その一角。


 誰も座っていない席。


 以前ならそこにいた。


 大量の資料を抱えながら。


 紅茶を飲みながら。


 面倒そうな顔で。


 けれど誰よりも早く問題点を見つけていた人。


 アメリア。


「ミリア」


 ルーカスの声で我に返る。


「大丈夫か」


「はい」


 大丈夫ではなかった。


 だが言わない。

 言えるはずもない。


 王太子妃として。

 この会議に出席しているのだから。


 そして何より。

 自分が崩れれば。

 もっと多くの人が崩れる。


 それだけは理解していた。


「次の議題です」


 文官が資料をめくる。


「北部防衛線についてになります」


 地図が示される。


 各拠点。

 補給路。

 備蓄倉庫。


 それらを見ていたミリアの目が止まった。


 書かれている文字。


『北部緊急補給網試案』


 見覚えがあった。


 アメリアの筆跡。


 以前まとめられた資料。

 戦争のためではない。


 災害対応のために作られたもの。


 だが今も使える。


 自然と指先が紙に触れる。


 温もりなど残っているはずがない。


 それでも。

 少しだけ。


 勇気をもらった気がした。


「ミリア?」


「……いえ」


 首を振る。


 そして資料を見つめる。


 アメリアはもういない。

 その事実は変わらない。


 戻ってもこない。

 奇跡でも起きない限り。


 それでも。

 この国には残っている。


 アメリアが書いた書類が。


 アメリアが作った制度が。


 アメリアが繋いだ人々が。


 残っている。



 その時だった。

 扉が開く。


 伝令が駆け込んできた。


「緊急報告!」


 全員が振り向く。


「北方軍先遣隊が防衛線へ接触!」

「予定より三日早い進軍速度です!」


 会議室の空気が変わった。


 ついに始まった。


 報復戦争。


 王国存亡の戦い。


 アメリアが守ろうとした国を守る戦いが。


 始まった。


 誰も口にしない。


 だが全員が心のどこかで思っていた。


 もし今。


 ここにアメリアがいたら。


 そしてその願いは。


 叶わない。


 ルーカスは地図に視線を落とす。

 国王は静かに立ち上がる。

 アルフレッドは剣の柄に手を置く。

 ミリアは資料を握りしめる。


 アメリアはもういない。


 だから。

 自分達でやるしかない。


「各部署へ通達」


 国王が告げる。


「王国はこれより戦時体制へ移行する」


「守るぞ」


 静かな声だった。


 だが誰よりも強い声だった。


「我らの国を」


 会議室の全員が立ち上がる。



 そして戦争が始まった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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