終話 それまで守ります
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
朝だった
王都の港は慌ただしかった。
東方連盟との正式交渉。
同盟締結。
軍事支援。
交易協定。
そのための使節団が出発する。
埠頭には人が集まっていた。
外交官。
護衛騎士。
商人。
文官。
皆忙しく動いている。
王国も動いていた。
軍の再編。
補給路整備。
要塞強化。
徴発。
兵站。
戦争が近い。
誰もが知っていた。
東方連盟から援軍が来ても。
戦争そのものが消えるわけではない。
むしろこれから始まる。
だから皆が動いていた。
アメリアのいない王国で。
それぞれの役目を果たすために。
「出航準備完了しました」
報告が上がる。
アルフレッドが頷いた。
「頼むぞ」
外交使節へ向けた言葉。
「必ず同盟を成立させます」
使節団代表が頭を下げる。
船がゆっくりと動き始める。
港から離れていく。
東方連盟へ向けて。
王国の未来を乗せて。
◇
一方。
監査局も忙しかった。
「こちらを財務局へ」
「こちらは軍務省へ」
「優先順位を変更してください」
局員達が走り回る。
戦争になれば金が動く。
金が動けば不正が増える。
だから監査局も戦場だった。
誰も口にはしない。
だが時折。
視線が向く場所がある。
局長室。
その机。
空席。
今も誰も座っていない。
誰も座ろうとしない。
まるで。
いつか戻ってくると信じているように。
◇
夕方。
王城。
執務室。
ミリアは一人だった。
書類仕事を終えた後だった。
机の上には資料。
東方連盟関連。
全部見覚えがある。
全部アメリアの字だった。
今日も助けられた。
昨日も。
その前も。
いなくなった今でも。
助けられている。
そう思うと。
胸が苦しくなる。
気付けば。
足は勝手に動いていた。
廊下を歩く。
曲がる。
階段を上がる。
扉の前で止まる。
監査局長室。
アメリアの部屋。
静かだった。
誰もいない。
もう何週間も。
それでも。
ミリアは扉を開いた。
中はそのままだった。
机。
椅子。
書棚。
資料。
帳簿。
未処理書類。
全部そのまま。
まるで明日。
本人が戻ってくるみたいに。
ミリアはゆっくり近付く。
机へ触れる。
そこには羽ペンが置かれていた。
最後に使ったままなのだろう。
資料も残っている。
未完成の報告書も。
手を伸ばせば。
「ミリア様」
そう呼ばれそうだった。
涙が滲む。
まだ駄目だった。
まだ苦しい。
まだ会いたい。
まだ信じたくない。
今でも。
今でもだ。
それでも。
ミリアは机へ手を置く。
そして小さく言った。
「待っています」
静かな部屋。
返事はない。
当然だった。
それでも。
「だから」
涙が落ちる。
ぽたりと。
机の上へ。
「それまで守ります」
声が震える。
涙も止まらない。
それでも。
もう立ち止まらない。
泣きながらでもいい。
苦しみながらでもいい。
前へ進む。
帰ってくる場所を守るために。
アメリアが守ったものを守るために。
王国を守るために。
◇
窓の外。
東へ向かう船。
王都へ集まる軍勢。
響く工事音。
走る伝令。
慌ただしく動き出した王国。
皆が。
運命に翻弄されていた。
戦争はまだ終わらない。
喪失も癒えていない。
それでも。
アメリアのいない王国は。
少しずつ。
本当に少しずつ。
前へ進み始めていた。
こうして。
第二の戦争へ向かう物語が始まる。
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