幕間 アメリアは……
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
戦争は終わった。
その報告は夕刻には司令部へ届いていた。
敵軍壊滅。
敵国降伏。
反乱領主制圧。
完全勝利。
誰もが笑っていた。
将軍達も。
文官達も。
兵士達も。
領民達も。
公爵も安堵していた。
長かった。
本当に長かった。
被害は出た。
失われた命もある。
だが。
終わったのだ。
「実行部隊もまもなく帰還するそうです」
臣下が報告する。
公爵は小さく頷いた。
「ああ」
そして立ち上がる。
「出迎えに行く」
自然な行動だった。
此度の最大功労者達だ。
迎えるべきだろう。
◇
城門付近。
遠く。
帰還する一団が見えた。
「帰ってきたぞ!」
歓声が上がる。
「終わった!」
「勝ったぞ!」
領民達が沸く。
兵士達も笑う。
勝利だった。
紛れもない勝利だった。
だから。
最初は気付かなかった。
公爵は目を細める。
実行部隊。
近衛。
騎士達。
志願兵達。
第二王子。
そして。
アメリア。
探す。
探す。
探す。
見つからない。
公爵の表情が変わった。
もう一度見る。
見つからない。
代わりに。
目に入った。
実行部隊の顔。
誰も笑っていない。
勝利した顔ではない。
誰もが俯いている。
第二王子も。
近衛達も。
その顔を見た瞬間。
公爵は理解した。
何かあった。
心臓が嫌な音を立てる。
気付けば走っていた。
「第二王子殿下!」
皆が振り向く。
「アメリアは!」
声が震える。
「アメリアはどうした!?」
その叫びで。
周囲も気付いた。
歓声が止まる。
静寂。
アルフレッドが顔を上げる。
酷い顔だった。
泣いている訳ではない。
だが。
泣きそうだった。
「……アメリアは……」
続きが出ない。
言葉にならない。
公爵の顔から血の気が引く。
「そん……な……」
膝が震える。
「アメリア……」
崩れ落ちた。
その姿に。
誰も声を掛けられない。
アルフレッドが拳を握る。
「申し訳……ありません……」
絞り出すように言う。
「実行部隊に……裏切者が紛れていました」
後方。
騎士達が一人の男を引きずり出した。
縄で縛られている。
抵抗も出来ない。
だが。
その姿を見た瞬間。
公爵は立ち上がった。
「貴様ァァァァァ!!」
激怒。
剣へ手が伸びる。
今にも斬り殺しそうな勢いだった。
臣下達が慌てて飛び付く。
「閣下!!」
「離せ!!」
「殺してはなりません!!」
「離せと言っているだろうが!!」
誰も見た事のない姿だった。
公爵は暴れる。
怒り。
悲しみ。
後悔。
全てが混ざり合っていた。
「アメリアを!」
「私の娘を!!」
怒号が響く。
だが。
臣下達も離さない。
「閣下!!」
「他に裏切者がいるかもしれません!」
「情報を吐かせる方が先です!」
静寂。
公爵の身体から力が抜けた。
剣から手が離れる。
そして。
ぽつりと呟いた。
「……護衛を増やそうなどと」
誰も動けない。
「考えなければ……」
誰も何も言えない。
「アメリアは……」
言葉が続かない。
数分後。
臣下の一人が肩を貸した。
「閣下」
「少しお休み下さい」
返事はない。
公爵はただ立ち上がる。
まるで。
何かを失った老人のように。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
城へ戻っていく。
◇
周囲には勝利の声が残っている。
戦争は終わった。
国は救われた。
誰もが喜んでいる。
それなのに。
公爵の心だけは。
濁流と共に。
川底へ沈んでいた。
お読み頂き、ありがとうございます。




