第七話 効率的ですね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
軍議が終わった後も。
司令部の空気は重かった。
防波堤解放作戦。
成功すれば戦争は終わる。
だが。
失敗すれば。
前線に出た者達が敵軍に包囲される。
危険な任務だった。
◇
公爵は腕を組んだまま黙っている。
納得していない。
当然だ。
だが。
作戦の必要性も理解していた。
沈黙を破ったのは老将軍だった。
「ならば護衛を増やしましょう」
全員が振り向く。
「防波堤解放中は無防備になります」
「近衛だけでは足りません」
「志願兵を募るべきです」
数名の将軍が頷いた。
「確かに」
「人手は多い方が良い」
「撤退時の護衛も必要だ」
公爵は苦い顔のまま頷く。
「分かった」
「志願者を募れ」
命令は即座に伝わった。
◇
その日の午後。
前線駐屯地。
即席の説明会が開かれた。
内容は簡単だった。
危険任務。
生還保証なし。
敵主力付近。
撤退困難。
沈黙が落ちる。
断っても問題ない。
誰も責めない。
本来ならそうなるはずだった。
だが。
「俺が行きます」
一人。
手が上がった。
若い騎士だった。
「俺も」
「志願します」
「公爵領軍として参加いたします」
次々と手が上がる。
アルフレッドが驚いた顔をした。
「お前達……」
騎士の一人が笑う。
「局長殿が命懸けで行くんでしょう」
「だったら守るのが俺達の仕事です」
別の兵士も頷いた。
「戦争が終わるなら安いもんです」
「俺達だって早く終わってほしいですからね」
笑いが起きる。
重苦しかった空気が少しだけ和らいだ。
アメリアは小さく目を瞬いた。
予想していなかったのかもしれない。
だが。
誰も迷っていなかった。
公爵領を守るため。
王国を守るため。
その為の危険任務だと理解していた。
結果として。
十数名が選抜された。
王国近衛。
公爵領騎士。
そして志願した兵士達。
いずれも実力者ばかりだった。
◇
夕方。
出発前の最終確認。
近衛達が装備を確認している。
騎士達も同様だ。
緊張感はある。
だが恐怖はない。
誰もがやるべき仕事だと思っていた。
「本当に行くんですね」
アメリアが聞く。
アルフレッドは笑った。
「今さらだろう」
「ですが第二王子殿下です」
「だからだ」
即答だった。
「危険です」
「知っている」
「帰れない可能性もあります」
「知っている」
それでも迷わない。
アルフレッドはアメリアを見る。
「アメリア」
「はい」
「防波堤解放は任せる」
一拍。
「その代わり」
「あなたは必ず守る」
当然のように言った。
監査局長として。
作戦実行者として。
王国に必要な人材として。
その言葉だった。
アメリアは少し考える。
「効率的ですね」
言った。
近くにいた近衛が噴き出した。
アルフレッドは額を押さえる。
「そういう話じゃない」
「違うのですか?」
「違う」
「なるほど」
全く分かっていない顔だった。
だが。
いつものアメリアだった。
それを見ていた騎士達が苦笑する。
「局長殿は局長殿ですね」
「そこが安心できます」
「戦争中なのに変わらない」
そんな声まで聞こえた。
アメリアはなぜ笑われているのか分からないらしい。
首を傾げている。
さらに笑いが起こった。
「とにかく」
アルフレッドが言う。
「全員で帰るぞ」
護衛達が頷く。
「はっ!」
力強い返事だった。
公爵は少し離れた場所からそれを見ていた。
娘。
第二王子。
護衛達。
皆が前を向いている。
だからこそ。
胸の奥に残る不安を押し込める。
必要な作戦だ。
理解している。
だが。
父親としては。
理解と納得は別だった。
アメリアは地図を抱える。
アルフレッドは剣を下げる。
護衛達は装備を整える。
明日。
戦争を終わらせる為の作戦が始まる。
夕暮れの空にはまだ雲が残っていた。
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