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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十三章 侵略編攻略

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第一話 始まりますね

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王城へ届けられた報告は、朝の静寂を容易く破壊した。


 西部諸侯の一角。

 その一領主が反旗を翻した。


 さらに。

 それだけでは終わらない。


 同日。

 西部国境の国家より正式な宣戦布告。


 もはや局地的な反乱ではない。


 戦争だった。



 王城会議室。

 重苦しい空気の中、王国首脳が集められていた。


 国王。

 王太子ルーカス。

 王太子妃ミリア。

 第二王子アルフレッド。

 宰相以下、重臣達。


 机上には報告書が並ぶ。


 敵兵力。

 補給線。

 侵攻予測。


 そして。

 公爵領から送られてきた詳細な分析資料。


 そのほとんどがアメリアの手によるものだった。


 沈黙。


 最初に口を開いたのはミリアだった。


「私が向かいます」


 会議室が静まる。


 だが。

 即座に異論が飛んだ。


「なりません」


 政務官の一人が頭を下げる。


「あなた様は王太子妃でございます」


「しかし」


「王都を空けられませぬ」


 当然だった。


 戦争が始まる。

 王太子と王太子妃は王都に残り、政務を支える立場だ。


 理解している。


 理解していても。

 ミリアは唇を噛んだ。


 その姿を見て。

 一人の男が椅子から立ち上がった。


「なら、俺が行く」


 アルフレッドだった。

 周囲が息を呑む。


「アルフレッド様」


「あなたは第二王子で」


 重臣の言葉を遮るように。

 アルフレッドは続けた。


「戦時下に王家が誰一人動かなければ」


 一度。

 会議室を見回す。


「仕えてくれている臣下に示しがつかない」


 静寂。


 誰も反論できない。


 王家が率先して責任を負う。

 それは貴族社会において何よりの意味を持つ。


 沈黙が流れた。


 そして。

 今度はルーカスが立ち上がる。


「なら、俺が」


 アルフレッドの目が僅かに揺れた。


「王太子殿下」


 一拍。


 そして。


「……いや、兄さん」


 ルーカスが目を見開く。


 公的な場で。

 アルフレッドがそう呼ぶのは珍しかった。


「あなたは王太子だ」


 真っ直ぐ見据える。


「国に必要な人間だ」


「ここは俺が行く」


 ルーカスの拳が強く握られる。


「……っ」


 言い返せない。


 分かっている。

 理解している。


 王太子は前線には出られない。

 王都を守る責任がある。


 だが。

 それでも。


 臣下を。


 弟を。


 危険な最前線へ放り込みたくはなかった。


 長い沈黙。


 やがて。

 国王が口を開いた。


「……アルフレッド」


 静かな声だった。


「行ってくれるか?」


 王としての言葉。


 父としてではなく。

 国家を背負う人間としての言葉。


 アルフレッドは跪いた。


「その命、拝命いたします」


 顔を上げる。

 迷いは無い。


 国王は頷いた。


「頼んだ」


「はっ」


 そこで会議は終わった。


 誰も気付かなかった。


 いや。

 気付いていても口にしなかった。


 国王は表情を変えていない。

 変えていないつもりだった。


 だが。

 その顔はどこか悲痛に満ちていた。


 王として正しい判断。


 だが。

 父としては。


 決して嬉しい命令ではなかった。



 同時刻。

 アルファード公爵領。


 公爵家会議室。

 こちらの空気もまた重い。


「侵攻予測はこちらです」


 アメリアが資料を机へ広げる。


 敵主力。

 補給線。

 兵力推移。

 進軍可能経路。

 避難計画。

 物資在庫。


 全て整理されていた。


 公爵は資料へ目を通す。


 最後に。

 一枚の報告書へ視線が止まった。


「裏切った領主だが」


 低い声。


「宰相派と繋がりがあるらしいな」


「ええ」


 アメリアが頷く。


「確認済みです」


「厄介な相手だな」


 公爵は小さく息を吐いた。


 敵は国外だけではない。

 国内にもいる。


 面倒極まりない状況だ。


 だが。

 アメリアは表情を変えない。


「ですが」


 資料を閉じる。


「やることは変わりません」


 全員の視線が集まる。


「敵を分析し」

「補給を管理し」

「住民を避難させ」

「戦力を最大限活用する」


 淡々と言う。


「それだけです」


 簡単に聞こえる。


 だが。

 それは最も難しいことでもある。


 会議室に緊張が走る。


 そして。

 公爵が立ち上がった。


「全軍へ通達」


 誰もが姿勢を正す。


「これより公爵領防衛戦を開始する」


 短い言葉。


 それだけだった。

 だが充分だった。


 将校達が動き出す。

 文官達が走る。

 伝令が飛び出す。

 会議室から人が消えていく。


 戦争が始まる。


 その中で。

 アメリアだけは最後まで地図を見ていた。


 敵の侵攻経路。

 河川。

 山岳。

 街道。

 数字。

 帳簿。

 物流。

 補給。


 全てが頭の中で繋がる。


 戦争もまた。

 巨大な業務だった。


 違うのは一つだけ。


 失敗した時に失われるのが。

 金ではなく。


 人の命だということ。


 アメリアは資料を閉じた。


「始まりますね」


 小さな呟き。

 それに答えたのは公爵だった。


「ああ」


 短い言葉。

 重い言葉。


 そして。

 西部の空には。


 既に戦雲が立ち込めていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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