表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十章 教育機関創設編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
115/180

終話 業務量を鑑みた結果です

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王国人材育成機関が設立されて数か月。


 王都は以前と変わらず平和だった。

 少なくとも表面上は。


 監査局も平和。

 王城も平和。

 地方からの苦情も減少傾向。


 実に素晴らしい。


 そのはずだった。



 公爵家。

 執務室。


 公爵は机へ突っ伏していた。


 目の前には書類。

 書類。

 そして書類。


「……」


 疲れていた。

 非常に疲れていた。


 原因は分かっている。


 人材育成機関である。


 王国中から教師が集められ。

 若者達が学び始め。


 話題にもなっている。


 良いことだ。

 間違いなく良いことだ。


 だが。


「何故俺に報告が来る……」


 思わず呟く。

 公爵家が後援している以上当然なのだが、疲れている時の人間は現実を直視したくないのである。


 その時だった。


「失礼いたします」


 聞き慣れた声。

 公爵は顔を上げた。


「アメリアか」


「ご機嫌よう」


 娘は今日も変わらない。


 淡々としている。

 礼儀正しい。

 感情の起伏も少ない。


 そして。

 嫌な予感しかしない。


 アメリアは机の前へ歩いてくる。


 そして。


 どさっ。


 書類を置いた。


 分厚い。

 嫌な厚さだった。


「これは?」


「報告書ですわ」


 まだ良い。

 報告書なら良い。


 読むだけで済む。

 公爵はそう思った。


 だが。

 それで終わらなかった。


 どさっ。


 さらに一冊。


 どさっ。


 もう一冊。


 どさっ。


 また一冊。


「待て」


「はい」


「まだあるのか?」


「ございます」


 即答だった。


 公爵は震える手で表紙を見る。


 第一冊。

 『教育機関監査報告書』


 第二冊。

 『王国人材育成計画進捗報告』


 第三冊。

 『公爵領後継者育成計画』


 第四冊。

 『公爵領行政改善計画』


 第五冊。

 『財政監査報告書』


「……」


 嫌な予感しかしない。

 本当に嫌な予感しかしない。


 そして。

 公爵はふと思った。


 いや。

 前から思っていた。


 だから言った。


「アメリア」


「何でしょう」


「そろそろ俺も引退したいのだが」


 正直な本音だった。


 十分働いた。

 後継者も育っている。


 少し休みたい。

 畑でもやりたい。

 釣りでもしたい。

 静かに人生を送りたい。


 人間として当然の願望だった。


 すると。

 アメリアは頷いた。


「わかりました」


 公爵が固まる。


「……本当か?」


「はい」


 あまりにもあっさりしていた。

 思わず立ち上がる。


「本当に?」


「はい」


 娘が反対しない。

 止めない。

 仕事を増やさない。


 奇跡だった。



 だが。

 その直後。


 アメリアは机の上の書類を整えた。

 そして一冊を前へ出した。


「ではこちらを」

「うん?」


 さらにもう一冊。


「こちらも」

「待て」


 さらにもう一冊。


「こちらも必要です」

「待てと言っている」


 アメリアは首を傾げた。


「……これは何だ?」

「お仕事ですわ」


 即答だった。


 公爵は頭を抱える。


「なぜだ?」


「引退なさるのでしょう?」

「そうだ」


「でしたら後進育成が必要です」

「……」


「教育機関との連携も必要です」

「……」


「公爵領の次世代人材確保も必要です」

「……」


「行政知識の継承も必要です」


 淡々と告げられる。


 正論だった。

 全部正論だった。


 アメリアは続ける。


「業務量を鑑みた結果です」


 そこには悪意がない。

 本当にない。


 心の底から合理的判断をしているだけだった。

 だから余計に質が悪い。


「引退したら仕事が減ると思っていたのだが」

「減りますわ」


 公爵の顔が少し明るくなる。


 だが。

 次の言葉で消えた。


「現状よりは」


 沈黙。


 長い沈黙。


 窓の外では鳥が鳴いている。


 平和だった。

 本当に平和だった。


 執務室以外は。


 やがて。

 公爵は椅子へ深く座った。


 そして遠い目をする。


「……もう少し公爵を続けよう」


「そうですか」


 アメリアは頷いた。


 特に残念そうでもない。

 嬉しそうでもない。


 ただ事実を受け入れただけだった。


「アメリア」


「何でしょう」


「一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「お前は本当に休ませる気がないのか?」


 アメリアは少し考えた。

 本当に少しだけ。


 そして答える。


「ございますわ」


 公爵が期待に満ちた顔をする。


 だが。


「育成完了後でしたら」


「……」


 公爵は静かに天井を見上げた。


 どうやら。

 王国最大の人材育成計画は。

 まだまだ終わりそうになかった。


 そしてそれを始めた張本人だけは。


 最後まで。

 それを単なる人材不足対策だと思っているのであった。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ