第五話 人材不足対策です
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王都郊外。
新しく整備された建物の前に、多くの人々が集まっていた。
第一期生五十名。
教師陣。
王城の関係者。
そして王族達。
王国人材育成計画。
その第一歩である。
◇
「本当に形になるものだな」
ルーカスが建物を眺めながら呟いた。
数か月前。
監査局長が人材不足を発見した。
そこから始まった計画である。
それが今。
目の前に存在していた。
「私も少し驚いております」
ミリアが苦笑する。
王太子妃になってから様々な仕事を経験した。
だが。
ここまで大規模な事業は初めてだった。
予算。
人員。
土地。
教師。
運営規則。
一つでも欠ければ成立しない。
だからこそ。
完成した今、不思議な達成感があった。
「お疲れ様でした」
後ろから声がする。
アメリアだった。
いつも通りである。
まるで自分は関係ないかのような顔だった。
「アメリア」
ミリアが振り返る。
「ありがとうございます」
「何がでしょう」
本気で分からないらしい。
「この計画です」
「計画書を作成しただけですわ」
即答だった。
「実施されたのはミリア様です」
ミリアは苦笑する。
本当にこの人らしい。
設計図を書き。
問題を発見し。
解決策を提示しておいて。
完成したら他人事である。
◇
開校式が始まった。
選抜された五十名が並ぶ。
緊張した顔。
期待に満ちた顔。
様々だった。
ミリアはその姿を見る。
そして思い出した。
男爵家の娘だった頃のことを。
勉強が苦手な子。
得意な子。
領地で遊んでいた子供達。
同じ年頃だった。
もし機会があれば。
もっと違う未来があったかもしれない。
そんな子もいた。
◇
「王太子妃殿下」
一人の少女が声をかけてきた。
農家出身。
第一期生の一人だった。
「何でしょう?」
「本当に私達でも大丈夫でしょうか」
不安そうだった。
当然である。
貴族ではない。
特別な教育も受けていない。
それでも。
ここへ来た。
ミリアは微笑む。
「大丈夫ですよ」
少女が顔を上げる。
「皆さんは選ばれたのではありません」
「……え?」
「自分の力でここまで来たのです」
少女が目を見開く。
そして少しだけ笑った。
緊張が解けたらしかった。
◇
その様子を少し離れた場所から見ていたアメリアが首を傾げる。
「何をお話しされていたのですか?」
「少し励ましていました」
「必要なのでしょうか」
本気で聞いている。
「必要ですよ」
「そうなのですね」
納得したらしい。
アメリアは手帳へ何かを書き込んだ。
ミリアは少し嫌な予感がした。
◇
式典終了後。
ルーカスがその手帳を覗き込む。
そして固まった。
「……何を書いている?」
「運営改善案です」
「嫌な予感しかしないな」
そこには。
『定期面談制度』
『卒業後追跡調査』
『教師評価制度』
『監査実施計画』
と書かれている。
ルーカスは天を仰いだ。
「お前にとってこれは何なんだ」
アメリアは不思議そうな顔をした。
そして当然のように答えた。
「人材不足対策ですが?」
◇
その後。
夕暮れの校舎を見ながらミリアは小さく笑った。
「学校ですよね」
アメリアが首を傾げる。
「人材不足対策です」
「学校です」
「人材不足対策です」
「学校です」
「人材不足対策です」
二人の会話を聞いていたルーカスがため息を吐いた。
「もうどちらでもいい」
完成した建物には、子供達の声が響いている。
王国初の人材育成機関。
アメリアにとっては人材不足対策。
ミリアにとっては未来への投資。
だが一つだけ確かなことがあった。
この日。
王国は一つの新しい仕組みを手に入れたのである。
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