第三話 それよりもこちらですわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王都。
王国人材育成計画第一期選抜試験会場。
大勢の人々で賑わっていた。
商人の子。
農民の子。
職人の子。
孤児院出身者。
下級貴族の子弟。
王国各地から集まった若者達である。
当初。
貴族達は集まらないだろうと考えていた。
だが結果は逆だった。
募集開始から数日。
予想を大きく上回る応募が集まったのである。
◇
「思ったより多いな」
選抜会場へ視察に来たルーカスが呟く。
受付前には長い列ができていた。
試験開始を待つ受験者達である。
「そうでしょうか?」
隣で資料を確認していたミリアが答える。
「人材不足なのでしょう?」
「まあそうだが……」
「でしたら当然です」
ミリアは受験者達へ視線を向けた。
平民達。
下級貴族達。
年齢も境遇も様々。
だが共通点がある。
皆、自分の未来を変えたいと思っている。
「機会があれば挑戦したい方は多いのですね」
ミリアは少し嬉しそうに呟いた。
◇
試験は数日に渡って行われた。
読み書き。
計算。
記憶力。
論理問題。
観察力。
行政実務を学ぶために必要な基礎能力。
そして。
最終日。
結果が発表された。
◇
王城。
特設会議室。
机の上には大量の答案用紙。
集計結果。
得点表。
順位表。
「応募者総数六百八十七名」
担当官が報告する。
「一次通過百九十四名」
「最終選抜五十名」
ルーカスは軽く目を見開いた。
「そんなに優秀な人材がいたのか」
「はい」
担当官が頷く。
「しかも半数以上が平民出身です」
会議室が静かになった。
予想以上だった。
貴族達も口を開かない。
数字がそう示している。
能力は身分と一致していない。
ただそれだけだった。
◇
翌日。
選抜された五十名が王城に集められた。
緊張している者。
喜んでいる者。
信じられない顔をしている者。
反応は様々だった。
その様子を見ながら、ミリアは小さく頷く。
「皆、良い顔をしていますね」
「そうだな」
ルーカスも答えた。
未来への期待。
不安。
緊張。
全てが見て取れる。
そこには確かに可能性があった。
「ところで」
ルーカスは周囲を見回した。
「アメリアはどうした」
会場にいない。
今回の計画の発案者である。
いるものだと思っていた。
するとミリアは平然と答えた。
「監査局です」
「監査局?」
「通常業務に戻られました」
ルーカスが固まる。
「なぜミリアがやっているんだ?」
当然の疑問だった。
するとミリアは苦笑した。
「希望しました」
「アメリアがか?」
「私がです」
「……は?」
ミリアは五十名の若者達を見る。
「この子達がどう育つのか」
「少し見てみたくなりました」
ルーカスは何となく理解した。
会議で最初に賛成したのもミリアである。
彼女なりに思うところがあったのだろう。
◇
その頃。
監査局。
「局長」
「何でしょう」
「本日は選抜者発表の日ですが」
「そうですわね」
アメリアは書類から目を離さない。
「行かれなくてよろしいので?」
「担当はミリア様ですので」
当然だった。
問題は発見した。
計画も提出した。
実施責任者も決まった。
ならば。
監査局長は監査局の仕事へ戻る。
それだけだった。
「それよりもこちらですわ」
どさっ。
新しい資料が机に置かれる。
局員が青ざめる。
嫌な予感しかしない。
表紙には大きな文字。
『教師候補者一覧』
「局長」
「何でしょう?」
「もう次の段階ですか」
「必要ですので」
即答だった。
どうやら。
王国人材育成計画はまだ始まったばかりらしい。
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