第二話 では説明いたしますわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王城。
謁見の間ではなく、定例会議室。
国政に関わる者達が集められていた。
国王。
王妃。
王太子ルーカス。
王太子妃ミリア。
第二王子アルフレッド。
主要貴族達。
そして監査局長アメリア。
全員の前には山のような資料が積まれていた。
見るからに嫌な予感しかしない量だった。
「またか……」
誰かが呟いた。
聞こえなかったことにする。
王国ではよくある光景だった。
資料の山。
犯人は大抵一人しかいない。
「では説明いたしますわ」
アメリアは立ち上がった。
貴族達の表情が曇る。
局員達ほどではないが、彼らも学習していた。
アメリアが説明を始める時はろくなことがない。
「現在、王国の運営に問題はございません」
最初の言葉に周囲が首を傾げる。
「問題がないのか?」
国王が尋ねた。
「ございません」
なら何故集めた。
誰もがそう思った。
アメリアは続ける。
「ただし三年後から問題が発生いたします」
空気が変わった。
「こちらをご覧ください」
資料がめくられる。
人口推移。
退職予定者。
行政官数。
地方役人。
貴族家後継者数。
さらに数十ページ。
会議室が静かになった。
数字が示している。
本当に足りない。
「三年後に一部の地方行政が人員不足となります」
「五年後には複数地域」
「十年後には各所で深刻化します」
アメリアは淡々と告げた。
「業務改善後の予測です」
貴族達が黙る。
改善前なら反論できた。
だが改善後だ。
監査局は既に無駄を削っている。
それでも足りない。
つまり。
本当に足りない。
「原因は?」
国王が尋ねた。
「複数ございます」
アメリアは一枚ずつ資料を示した。
「人口構造」
「教育機会不足」
「行政需要増加」
「退職者増加」
「後継者不足」
「そして数年前の大規模摘発による人材減少」
摘発によって不正は減った。
だが人も減った。
必要だった。
正しかった。
しかし影響は残る。
「結論は?」
今度はルーカスが問う。
アメリアは即答した。
「人材が不足します」
身も蓋もない。
会議室に沈黙が落ちた。
やがて一人の貴族が口を開く。
「ならば子供を増やせばよいではないか」
「時間が足りません」
即答だった。
「では貴族の子弟を重点的に育てればよい」
「不足します」
再び即答。
「何故だ」
「数が足りませんので」
終わりである。
数字は残酷だった。
貴族だけでは補えない。
王国全体が大きくなりすぎている。
「ではどうするのだ?」
今度は別の貴族が尋ねた。
アメリアは不思議そうに首を傾げた。
当然のことを聞かれている。
そんな顔だった。
「優秀な人材を採用します」
「だから誰をだ」
「優秀な平民を」
会議室が停止した。
数秒。
本当に数秒誰も動かなかった。
「……平民を?」
「はい」
「行政へ?」
「はい」
「貴族ではなく?」
「はい」
アメリアは平然としている。
貴族だから。
平民だから。
そんな区別は彼女の中に存在しない。
必要なのは人材。
それだけだった。
「能力さえあれば問題ありませんわ」
言い切った。
貴族達は顔を見合わせる。
反論したい。
しかし数字が反論を許さない。
そもそも代案もない。
すると。
「面白そうですね」
静かな声が響いた。
ミリアだった。
全員の視線が集まる。
「王太子妃殿下?」
「人材不足は本当なのでしょう?」
「はい」
「業務改善後でも?」
「はい」
「でしたら先送りはできませんね」
ミリアは資料を閉じた。
「今の問題ではなくても、将来の問題なのでしょう?」
「はい」
「でしたら今始めるべきです」
昔の彼女なら難しかったかもしれない。
だが今は違う。
アメリアの隣で学び続けてきた。
数字も読める。
計画も理解できる。
「アメリア」
「はい」
「既に案はございますか?」
一瞬だけ沈黙。
そしてアメリア。
どさっ。
分厚い書類を机へ置いた。
ルーカスが頭を抱える。
「やはり作っていたか」
「人材不足が判明いたしましたので」
当然ですわ、と言わんばかりだった。
表紙には題名。
『王国人材育成計画
~十年計画第四項教育改革・第九項必要人員参照~』
全員が嫌な顔をする。
アルフレッドが嫌そうに口を開いた。
「あれを元にしているのか」
その反応を気にも留めず、アメリアは説明する。
「人材を選抜します」
「育成いたします」
「行政へ配置いたします」
「人材不足は解消可能です」
「以上です」
「以上じゃないだろう……」
ルーカスが呟く。
ミリアは小さく笑った。
「面白いと思います」
そして立ち上がる。
「アメリア」
「はい」
「この計画、王国事業として進めましょう」
貴族達がざわつく。
だがミリアの声は揺るがない。
「十年後の問題なのでしょう?」
「はい」
「でしたら今始めなければ間に合いません」
アメリアは頷いた。
「その通りですわ」
ミリアも頷く。
「では決まりですね」
ルーカスは天を仰いだ。
もう止まらない。
アメリアが見つけ。
ミリアが賛同した。
この組み合わせは大抵大事になる。
「国王様」
「なんだ」
「全国規模の選抜試験が必要になります」
「もう決まっているのか」
「十年計画第四項に記載済みです」
沈黙。
アルフレッドが額を押さえた。
「本当に暇な時に作ったんだな……」
国王は深々とため息を吐いた。
会議室の貴族達も同じだった。
こうして。
アメリアが暇な時に作った十年計画は。
王国最大規模の事業として動き始めることになったのである。
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