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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十章 教育機関創設編

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第一話 まずは陛下へ報告ですわね

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 監査局長室。

 机の上に積まれた書類へ視線を落としながら、アメリアは静かに頁をめくっていた。


 春。

 今年度最初の監査結果報告会。


 局員達の表情は明るい。


 理由は単純だった。

 今年の結果は非常に良い。


 不正案件は減少。

 予算超過も減少。

 地方行政の処理速度も向上。


 監査局が行ってきた業務改善は着実に成果を上げていた。


「以上です」


 若い局員が報告を終える。


「今年度も大きな問題はございません」


「そうですか」


 アメリアは短く答えた。


 局員達の表情が緩む。

 局長が問題ないと言った。


 ならば問題ない。


 それだけで十分だった。


 しかし。

 アメリアだけは資料から目を離さない。


 ぱらり。


 もう一枚。

 さらにもう一枚。


 古い資料。

 五年前の監査結果。

 三年前の改善報告。

 地方別人口推移。

 行政官名簿。

 貴族家後継者一覧。

 昇進候補者資料。

 退職予定者資料。


「局長?」


 不思議そうな声が飛ぶ。


 アメリアは返事をしない。

 代わりに新しい紙を取り出した。


 そして数字を並べる。


 現在の職員数。

 退職予定者数。

 処理件数推移。

 人口増加率。

 行政需要増加率。


 数分後。

 アメリアは静かに呟いた。


「足りなくなりますわね」


 局員達の顔色が変わる。

 嫌な予感しかしない。

 局長がそう言う時は大体当たる。


「何がでしょうか……?」


「人ですわ」


 全員が固まった。


「人材不足が発生します」


「え?」


「現在ではありません」


 アメリアは資料を一枚差し出した。


「三年以内です」


 局員達が慌てて数字を確認する。


 退職者数。

 昇進予定者数。

 補充人数。

 行政需要増加率。


 そして。

 空欄。


 足りない。

 確かに足りない。


「た、確かに不足しています……」


「ですが業務改善は完了しております」


 アメリアは別の資料を取り出した。


 監査局改善記録。

 地方行政改善記録。

 帳票統一計画。

 権限整理計画。

 業務分担最適化計画。


「実施済みですわ」

「はい」


「効果も確認済みです」

「はい」


「無駄も削減済みです」

「はい」


 アメリアは資料を閉じた。


「それでも足りません」


 沈黙。


 誰も反論できなかった。

 数字が示している。

 改善後の予測だ。

 改善しても足りない。


 つまり。

 本当に足りない。


「数年前の粛清が原因でしょうか……」


 誰かが呟く。

 アメリアは首を振った。


「一因ではあります」


 それだけではない。


「人口構造の変化」

「教育機会の不足」

「行政需要増加」

「退職者増加」

「後継者不足」


 一つではない。


 積み重なった結果だった。


 だからなおさら厄介だった。


「どういたしましょう……」


 局員の一人が尋ねる。


 アメリアは少し考え、

 そして当然のように告げた。


「対策を行います」


 一同絶望。


 監査局名物。

 局長の改善計画が始まる。


「あの……」


「はい」


「どのくらいの規模の対策でしょうか……」


 アメリアは視線を落とした。


 机上の資料。

 そこには王国全土の人口統計が並んでいる。


 局員達も気付いた。

 嫌な予感がする。

 とても嫌な予感がする。


 アメリアは淡々と言った。


「王国全体ですわね」


 全員が天を仰いだ。


 また始まる。

 今度は何だ。


 監査局改革か。

 地方改革か。

 それとも貴族制度か。


 そんな局員達を前に、アメリアは一枚の白紙を机へ置いた。


 万年筆を手に取る。

 さらさらと文字を書き始める。


 数秒後。

 紙の上には題名が記されていた。


 『王国人材育成計画』


 局員達は見なかったことにした。


 見てはいけない。

 絶対に面倒なことになる。


 だが。

 アメリアだけは満足そうに頷く。


「まずは陛下へ報告ですわね」


 こうして。

 後に王国の教育制度を一変させることになる計画は、

 一人の監査局長が未来の人材不足を発見したところから始まったのであった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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