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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第九章 初体験編

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幕間 助けて局長

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 監査局は平和だった。

 少なくとも。

 局長がいる間は。


◇一日目


 朝。

 監査局。


 局長ことアメリア・フォン・アルフォード公爵令嬢は、いつも通り出勤していた。


 書類を積む。

 帳簿を開く。


 いつもの朝である。


 今日も仕事は進む。

 そう思っていた。

 

 その時だった。

 

 会議室の扉が勢いよく開く。

 

「アメリア様!」

 

 監査局員達が一斉に振り返る。

 

 ミリア様だった。

 

 なぜ未来の王妃様が監査局にいるのだろう。

 

 嫌な予感しかしなかった。

 

「何でしょう」

 

 局長は平然としている。

 

「お休みしましょう!」

 

「はい?」

 

 局員達。

 

(はい?)

 

 完全に同意だった。

 

 何の話だ。

 

「監査局のお仕事があります」

 

「ありません」

 

「あります」

 

「ありません」

 

 言い争いが始まった。

 

 局員達は顔を見合わせる。

 

「局長、休暇ですか?」

 

「知りません」

 

「聞いてません」

 

「俺も」

 

 聞いていない。

 誰も聞いていない。

 

 数分後。

 局長は連行された。

 本当に連行された。

 

 監査局員達は呆然と見送る。

 

「……何だったんだ?」

 

「知らん」

 

「午後の決裁は?」

 

 沈黙。

 

「……局長待つ?」

 

「王妃候補から連行された相手を?」

 

「無理だな」

 

「無理だな」

 

 全員一致だった。

 

 そして。

 会議開始十分で詰んだ。


◇二日目


 朝。

 局長が戻ってきた。

 

 監査局員達は安堵した。

 

 昨日は地獄だった。

 本当に地獄だった。

 

 相談しても答えが出ない。

 確認しても不安が残る。

 

 局長の凄さを嫌というほど実感した。


 そして。

 局長が最初の資料へ手を伸ばした瞬間だった。

 

「やっぱり働こうとしてるな」

 

 聞き慣れない声。

 

 第二王子アルフレッド殿下だった。

 

 局員達。

 

(あっ)

 

 昨日の続きだと理解する。

 

「……」

 

 局長沈黙。

 

 連行。

 再び連行。

 

 局長退室。

 

「……」

 

「昨日の続きをしたい」

 

「俺も」

 

「誰が判断する?」

 

「知らん」

 

 結局。

 また詰んだ。


◇三日目


 朝。

 

 局長出勤。

 局員達歓喜。

 

 お帰りなさい局長。

 

 今日は一日いるはずだ。

 そう思っていた。


「行くぞ」


 局員全員が固まる。

 

「予想はしていましたが」

 

 局長が珍しく溜息を吐く。

 

 嫌な予感。

 

 全員が入口を見る。


 いた。

 

 ルーカス王太子殿下だった。

 

(来た)

 

(刺客だ)

 

(助けて局長)

 

 誰も口には出さない。

 

「今日はあなたですか」

 

「ああ」

「嫌だよな」

 

「いえ」

 

「……え?」

 

 二人のやり取りに。

 局員全員が思考停止した。


(あれだけ追い回された相手を)


(嫌じゃない?)


 固まっている間に。

 局長は連行された。

 

 三日連続である。

 

 前代未聞だった。

 

「局長って」

 

 新人が呟く。

 

「はい」

 

「凄かったんですね」

 

 全員頷いた。

 

 今更だった。


◇四日目


 朝。

 

 監査局員達は落ち着かなかった。

 

 局長が戻ってくる。

 

 戻ってくるはずだ。

 

 たぶん。 

 きっと。

 

 お願いだから戻ってきてほしい。

 

 そんな気持ちだった。

 

 やがて。

 扉が開く。

 

 局長だった。

 

 監査局員達は本気で安堵した。

 救世主を見る目になっていた。

 

 局長はいつも通り席へ座る。

 

 紅茶を飲む。

 

 一口。

 

 そして。


「平和ですわね」

 

 局員達。

 

(帰ってきたぁぁぁぁぁ!!)

 

 心の中で歓声が上がる。

 

 戻った。

 

 いつもの局長だ。

 

 監査局に平和が戻った。

 

 そう思った。

 

 その瞬間だった。

 

「こちらを」

 

 局長が何かを取り出す。

 

 一冊。

 

 さらにもう一冊。

 

 どすん。

 

 どすん。

 

 重い音が響く。

 

 全員嫌な予感がした。

 

「休暇中に思い付きましたので」

 

 表紙を見る。

 

『監査局労働環境十年改善計画書』

 

 全二巻。

 

「……」

 

 沈黙。

 

 長い沈黙。

 

 新人が震える声で尋ねた。

 

「局長」

 

「何でしょう」

 

「本当に休まれたんですか?」

 

 局長は首を傾げる。

 

「はい?」

 

 本気で意味が分からないという顔だった。

 

 局員達は悟った。

 

 この人は。

 休んでいてもアメリア・フォン・アルフォードなのだと。

 

 そして監査局は今日も平和だった。


 局長だけは。

お読み頂き、ありがとうございます。

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