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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二章 学園入学編

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第四話 何故、私が答えておりますの?

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 図書館


(また増えておりますわ……)


 アメリアは本の文字を追いながら思う。


 隣。

 向かい。

 後ろ。


 気付けば席が埋まっている。


 別に指定席ではない。

 座りたいなら座ればいい。

 

 そこに不満はない。

 問題は。


「アメリア様、この本はいかがでした?」

「面白かったですわよ」

「まあ!」


 増える。


「アメリア様、この問題が解けなくて」

「そこは前提条件が違いますわ」

「本当ですわ!」


 増える。


「アメリア様、こちらの先生はどのような方ですか?」

「授業は分かりやすいですわね」

「ありがとうございます!」


 増える。


(何故ですの?)


 本気で分からない。


 アメリアはふと考える。

 領地改革の時もそうだった。


 問題を見つける。

 原因を調べる。

 解決する。

 

 ならば、今回も同じだ。


 まず現状把握。


人が集まる。

 ↓

質問される。

 ↓

答える。

 ↓

喜ばれる。

 ↓

さらに人が集まる。


(そこまでは分かりますわ)


 問題はその先である。


(何故喜ばれるのです?)


 本当に分からない。


 歴史学のノートを貸した。

 勉強方法を教えた。

 教師の特徴を伝えた。


 ただそれだけ。


 公爵家では普通だった。


「分からないところがあります」

 ↓

「教える」

 ↓

終わり。


 それである。


 なのに。


「アメリア様は優しいですね」


 と言われる。


(優しい……?)


 首を傾げる。


 優しいとは何だろう。


 困っている人を助けることだろうか。


 ならば違う。


 自分はそんな立派な人間ではない。


 質問された。

 答えられる。

 だから答えた。


 それだけ。


 実際、


「アメリア様は素敵です!」


 と言われても。


(そうですの?)


 としか思わない。


 なぜなら。


 アメリアから見れば、

 周囲も十分優秀だからだ。


 自分で勉強している。

 努力している。

 悩んでいる。

 相談してくる。


 皆頑張っている。


 だから。


(何故、私に集まるのです?)


 となる。


 そしてもっと困るのが、


「アメリア様は頼りになります!」


 という言葉だった。


 頼る。


 つまり。


 仕事が増える。


(それはいけませんわ)


  真顔になる。

 非常にいけない。


 学園へ来た理由を思い出す。


 勉強。

 王妃教育。

 社交。


 それだけで十分忙しい。


 実際。


 朝から予定表を見ただけで眩暈がする。


 なのに。


 侯爵令嬢のお茶会相談。

 伯爵令嬢の進路相談。

 男爵令嬢の勉強相談。


 増える。


 どんどん増える。


(これは何かがおかしいですわ)


 アメリアは本気でそう思う。


 領地経営なら原因が分かった。

 不正なら原因が分かった。

 税収減少も原因が分かった。


 なのに。


 人だけは分からない。


 何故集まるのか。

 何故懐くのか。

 何故慕われるのか。


 理解できない。


 そして理解できないまま、

 また一人。


「アメリア様!」


 呼ばれる。


(また増えましたわ……)


 心の中で天を仰ぐ。


 本当に。

 心の底から。


 私は静かに勉強したいだけですのに。


◇夜の自室


(何故ですの?)


 本気で分からない。

 公爵家では普通だった。


 質問される。

 ↓

 答える。

 ↓

 終わり。


 それだけである。


 なのに学園では終わらない。

 どんどん増える。

 非常によろしくない。


 そこでアメリアは考えた。


 一、人が集まる。

 ↓

 二、質問される。

 ↓

 三、私が答える。

 ↓

 四、さらに人が集まる。


 ここまでは分かる。


 問題は三だった。


(何故、私が答えておりますの?)


 アメリアは首を傾げた。


 そして。


「そうですわ」


 小さく呟く。


 原因は簡単だった。


 質問された人間が答えている。

 だから自分へ集まる。


 ならば。

 別の人間が答えれば良い。


 実に簡単な話だった。


◇翌日。


「アメリア様、この問題が――」


「隣の方はどう思います?」


「え?」


 令嬢が固まる。

 突然振られた隣の令嬢も固まった。


「わ、私ですか?」


「ええ」


 アメリアは微笑む。


「私はこう考えますが、別の考え方もございますわ」


 令嬢は問題を見る。

 少し考える。


「こちらの前提条件が違うのではありませんか?」


「まあ!」


 質問した令嬢が目を丸くした。


「確かにそうですわ!」


「でしたら私はこう思います」


 今度は別の令嬢が口を開く。


「その解釈もございますわね」


 議論が始まる。

 自然に。


 アメリアは紅茶を飲んだ。


(なるほど)


 質問する。

 ↓

 皆で考える。

 ↓

 皆で答えを出す。


 良いことだった。


 互いに学べる。

 互いに高め合える。



 そして何より。

 自分が説明しなくて済む。



 素晴らしい。

 本当に素晴らしい。


 アメリアは満足そうに頷き、誰にも聞こえない声でつぶやく。


「これで人が集まらなくなるはずですわね」

お読み頂き、ありがとうございます。

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