第三話 やれば出来ますわよ?
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
昼休み。
アメリアは逃げていた。
本気で逃げていた。
「アメリア様ー!」
聞こえない。
「アメリア様、お待ちください!」
聞こえない。
聞こえているが。
聞こえていないことにした。
早歩き。
貴族令嬢としては少々見苦しい速度。
目的地は学園図書館。
そこなら静か。
そう思っていた。
甘かった。
「アメリア様!」
いた。
何故かいた。
図書館にもいた。
侯爵令嬢。
伯爵令嬢。
男爵令嬢。
なぜだ。
なぜいる。
ここは図書館ではないのか。
アメリアは真剣に考えた。
「ご機嫌よう」
条件反射で挨拶する。
「ご機嫌よう!」
三人同時。
元気である。
こちらは元気ではない。
「アメリア様、この本をお勧めいただいたのですが!」
「面白かったです!」
「私も読みました!」
「そう」
良かった。
本当に良かった。
感想を言われても困るけれど。
良かった。
「それでですね!」
嫌な予感。
「今度お茶会を開催する予定なのですが!」
始まった。
仕事が。
増える。
「ぜひアメリア様にも――」
「申し訳ありません」
即答。
「予定がございますので」
断る。
きっぱりと。
迷いなく。
ところが。
「そう仰ると思って日程候補を十通り作って参りました!」
「…………」
アメリアが固まる。
十通り。
なぜ十通り。
普通一つではないのか。
「こちらです!」
紙が差し出される。
本当に十通りあった。
しかもよく整理されている。
日時。
参加者。
会場。
予算。
予備案。
全部ある。
アメリアは思った。
(優秀ですわね)
思った。
思ってしまった。
それが失敗だった。
「アメリア様!」
別の令嬢が来る。
「使用していた勉強計画表を見せていただけないでしょうか!」
「よろしいですけれど」
「ありがとうございます!」
別の令嬢。
「アメリア様の推薦図書一覧を!」
「ありますわよ」
「ぜひ!」
別の令嬢。
「アメリア様!」
また。
また増えた。
なぜだ。
なぜ増える。
アメリアは本気で考えた。
数字を見る時の顔で。
帳簿を見る時の顔で。
不正を見抜く時の顔で。
真剣に。
(原因が分かりませんわ)
本当に分からない。
皆に何か特別なことをした覚えはない。
ただ質問されたから答えた。
本を紹介した。
ノートを貸した。
おすすめの教師を教えた。
それだけ。
それだけなのに。
人が増える。
意味不明である。
「アメリア様は本当にお優しいですね!」
「そうですか?」
「はい!」
「皆そう言います!」
アメリアは首を傾げる。
自覚がない。
全くない。
公爵家の使用人達に聞けば。
たぶんこう言う。
優しい?
どこが?
と。
なぜならアメリアは困っている人を助けたいから助けるのではない。
問題が気になるから解決するだけ。
結果として助かる人がいるだけ。
本人はそう思っている。
「アメリア様?」
「何かしら」
「どうしてそんなに何でも出来るのですか?」
沈黙。
アメリアは数秒考えた。
本気で考えた。
そして。
「やれば出来ますわよ?」
周囲の令嬢達が絶句した。
アメリアも絶句した。
(え?)
今の何かおかしかった?
全く分からない。
だからアメリアは知らない。
学園中の生徒達が既にこう呼び始めていることを。
『完璧な王太子妃』
と。
そして何より知らない。
図書館の窓際から。
そんな光景を見て。
王太子ルーカスが。
今日も不機嫌になっていることを。
アメリアはまだ知らなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




