第一話 ……
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
最近、監査局の空気がおかしい。
「気付きましたか?」
「気付いた」
書類の整理をしながら、私は小さく頷いた。
「最近、局長が平和ですねと言わない」
「言わないな」
「お仕事ですわね、も聞いていません」
「聞いてない」
全員が沈黙する。
これは由々しき事態だった。
局長ことアメリア・フォン・アルフォード公爵令嬢は、何かあると必ず言う。
『平和ですわね』
または。
『お仕事ですわね』
だが、ここ最近は聞いていない。
もちろん仕事はしている。
むしろ以前よりしている。
だから問題だった。
「最近の局長、ずっと何か読んでませんか?」
「読んでるな」
「帳簿も見てる」
「地図も見てる」
「統計資料も見てる」
「怖いな」
「怖いな」
全員が頷いた。
一方その頃。
王城。
「次の議題です」
重鎮の報告が終わる。
「監査局についてです」
「問題は?」
国王が尋ねる。
「ありません」
「そうか」
いつもならこれで終わる。
だが。
「……アメリア様の様子がおかしくありませんか?」
ミリアの一言で空気が変わった。
「何かあったのか?」
ルーカスが眉をひそめる。
「わかりません」
ミリアは首を振った。
「ただ……」
一度迷い。
それでも口にする。
「アメリア様って、いつお休みされているのでしょう?」
会議室が静まり返った。
国王。
ルーカス。
アルフレッド。
重鎮達。
そして宰相。
全員が考える。
監査局。
王太子教育。
外交問題。
王妃教育。
全部知っている。
「……休んでいないな」
アルフレッドが呟いた。
「休んでないな」
ルーカスも頷く。
「休んでおらんな」
国王まで同意した。
再び沈黙。
「では休ませましょう」
ミリアが言った。
「どうやって?」
ルーカスが即座に聞く。
沈黙。
全員の脳裏に同じ光景が浮かぶ。
『仕事があります』
『必要ですので』
『問題ありません』
理詰めで押し切るアメリア。
「……無理ではないか?」
国王が呟く。
「強制的に休ませよう」
アルフレッドが言った。
「だからどうやって」
ルーカスが言った。
全員。
「……」
思いつかない。
その時だった。
「それでは監視を付けましょう」
ミリアが微笑んだ。
「監視?」
「私と、ルーカス様と、アルフレッド様で」
「私達が?」
国王がなぜか反応した。
「三日間です」
ミリアは断言した。
「三日間、アメリア様をお休みさせます」
重鎮の一人が手を挙げる。
「殿下方の政務は……」
「三日」
現宰相が口を開いた。
全員が振り向く。
「日替わりにしましょう」
静かな声。
「ミリア様」
「ルーカス様」
「アルフレッド様」
「三人で一日ずつ」
「それですわ!」
ミリアが笑顔になる。
「……俺もか」
ルーカスが顔をしかめた。
「頑張りましょうね」
「……」
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