表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第八章 王妃教育編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/137

終話 予定通りですので

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王妃教育開始から一年。

 監査局の一室。

 アメリアは静かに書類へ視線を落としていた。


 一枚。

 二枚。

 三枚。


 内容を確認し、最後の頁を閉じる。


「問題ありませんわね」


 向かい側に座るミリアの背筋が伸びる。


「ありがとうございます!」


 以前なら飛び上がって喜んでいただろう。


 今は違う。

 落ち着いている。

 必要以上に興奮しない。

 質問されれば答える。

 分からなければ確認する。


 一年前とは別人だった。

 アメリアは頷いた。


「王妃として必要な知識は習得しております」


 ミリアが目を丸くした。


「それは……」


 少し震える声。


「合格ということでしょうか」


「はい」


 あっさりだった。

 あまりにもあっさりだった。


 だがミリアは理解している。


 アメリアの「はい」は重い。


 適当な評価ではない。


 積み上げた一年間の結論だ。


 じわりと目が潤んだ。


「本当に……ありがとうございました」


「当然ですわね」


 アメリアは淡々と答えた。


「依頼された業務でしたので」


 やはり最後までそれだった。

 ミリアは思わず笑ってしまう。


「アメリア様らしいです」


「そうでしょうか」


「そうです」


 間違いなくそうだった。



 その翌日。

 王城。

 執務室。


 ルーカスの前にアメリアが立っていた。


「珍しいな」


 ルーカスが言う。


「君から来るとは」


「確認をお願いしたいことがあります」


「確認?」


「はい」


 アメリアは頷く。


「ミリア様の教育が完了いたしました」


 ルーカスが固まった。


「完了?」


「完了です」


「もう?」


「一年経っております」


「一年で終わったのか……」


 ルーカスは遠い目になった。


 普通の王妃教育はもっと長い。


 だが相手がアメリアである。

 何か嫌な予感しかしない。


「それで?」


「確認をお願いします」


「つまり最終試験か」


「そのようなものです」



 数日後。

 王城の会議室。


 ルーカス。

 教育係。

 数名の重臣。


 そしてミリア。


 アメリアは壁際に立っていた。


「始めましょう」


 アメリアが言う。

 重臣が質問する。


「地方税率引き上げによる影響は」


 ミリアは即答した。


「短期的には税収増加が見込めます」


 全員頷く。


「しかし長期的には生産性低下の可能性があります」


「理由は」


「投資余力を失うためです」


 淀みがない。


「代替案は」


「段階的導入と補助制度の併用です」


 重臣が黙る。


 十分だった。

 別の重臣が質問する。


「不作が発生した場合の対応は」


「備蓄の放出を行います」


「終了後は」


「原因分析を実施します」


 ルーカスが首を傾げる。

 なんだか聞き覚えがある。


「原因分析?」


「再発防止策を策定します」


「……」


「仕組み化します」


 ルーカスがアメリアを見た。


 アメリアは無表情だった。


 さらに質問。


「不正を発見した場合は」

「証拠を確保します」


「その後は」

「影響範囲を調査します」


「その後は」

「再発防止策を実施します」


「その後は」

「定着確認です」


 会議室が静かになる。

 誰かが呟いた。


「監査官では……?」


 気のせいではなかった。



 一時間後。

 質問終了。


 誰も文句を言わない。

 言えない。


 完璧だった。


 知識だけではない。


 考え方が完成している。


 王妃として必要な能力は十分以上だった。


 ルーカスは呆れたように笑う。


「本当に仕上げたんだな」


「はい」


 アメリアは頷いた。


「依頼でしたので」


 やはりそれだった。



 一ヶ月後。

 王都。

 大広間。


 貴族たちが集まっている。


 今日の主役は二人。

 王太子ルーカス。

 そしてミリア。


 正式な婚約発表の日だった。


 ざわめく会場。


 緊張するミリア。

 その隣でルーカスが小さく笑った。


「大丈夫だ」


「はい」


「一年前のお前なら心配だった」


「ひどいです」


「事実だ」


 ミリアも笑う。


 少しだけ。

 緊張が解けた。


 やがて発表が始まる。


 紹介。

 挨拶。

 質疑応答。

 貴族たちとの会話。


 全てが滞りなく進む。


 堂々としている。

 落ち着いている。


 誰もが認めざるを得なかった。


 未来の王妃として相応しいと。


 会場の片隅。

 アメリアは紅茶を飲んでいた。


 監査局長として招待されているだけ。

 それ以上でも以下でもない。


 そこへルーカスがやって来た。


「見事だったな」


「そうですか」


「そうですか、じゃない」


 ルーカスは笑う。


「ありがとう」


 珍しい言葉だった。


 心からの感謝。


 アメリアは少し考えた。

 そして。


「問題ありません」


 と言った。


「予定通りですので」


 ルーカスは吹き出した。

 本当に変わらない。


 その時。

 会場の中央でミリアがこちらを見た。


 そして小さく頭を下げる。


 感謝を込めて。

 尊敬を込めて。


 アメリアは軽く会釈を返した。

 それだけだった。


 窓の外では穏やかな風が吹いている。


 事件もない。

 不正もない。

 革命もない。

 監査報告書も増えていない。


 実に珍しいことだった。


 アメリアは紅茶を一口飲む。

 そして静かに呟いた。


「平和ですわね」


 その言葉に。

 ルーカスとミリアは顔を見合わせる。


 そして同時に苦笑した。


 きっとこの平和は。

 誰よりも働いた彼女だけが、気付いていないのである。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ