短編15 『We love petanimals』の活動録その1 前編
飼育動物、家畜やペットや軍用など帝国にとって有益で密接な関係を持つ動物達。時に仕事として、時に癒しのために、そして時には戦いの相棒として様々な場面で活躍している。だがそういった動物達もまた生きている。動物達は人間と同じような意志疎通が出来ない。だからこそ動物達を理解し動物達の思いを汲み取れるエキスパートの方々が帝国には必要なのだ。
「…ゴラグーンは温度変化に弱いですからね。最近昼夜の温度差が激しい季節になってきたのが原因の消化不良なんだと思います。しばらくは餌に薬と栄養剤を混ぜて食べさせて…それと寝床に毛布とか暖まれるものを増やした方がいいかなと」
「ありがとうございますニア先生。ごめんねチトセちゃん寒い思いさせちゃったのね…」
「えへ…私まだ先生って程でもないんだけど…」
ルーマルコーランド帝都の都内にある少し広めの大きなお店の一室。こじんまりとしつつも部屋の壁には本棚や器具棚、紙がびっしりと貼られたまるで診察室にも似ているようで少し違う店内個室の中心に、1匹の翼が立派なゴラグーンと取り囲むように立つ2人の女性、1人は『不思議の苗木亭』に所属している和服姿の黒髪の女性、カエデ・コノハナ。そしてもう1人がニアと呼ばれた綺麗なショートのピンク髪をしたエプロン姿の少女だった。
しばらくニアによる診察が続き、一段落するとゴラグーンのチトセが通れるほどの大きなシャッター扉が開きチトセはカエデに引かれのっしのっしと部屋の外に出る。部屋を出るとまるで待ち合い室…と言うよりお洒落なカフェ空間のようなちょっとしたティーテーブルを中心に、壁際にはペットショップのように様々なペットがケージの中にいたり商品棚が並んでいたりと少々要素がごちゃついている店内があった。そしてテーブルには数人のお客と、おそらくお客のペットと思われる様々な動物達が落ち着いた様子で佇んでいる。
「あら、診察が終わったみたいね」
「あっ、ユリコさん!」
ニアがユリコと呼んだまるで絵本に登場しそうなお姫様みたいな素敵な水色のドレスを着た金髪の女性が机に大人しく猫を座らせたまま優雅にティーカップを机に置いた。
「ユリコさん、すぐ健診の準備しますね!」
「あら駄目よニアさん、私は最後に来たんだから順番だって最後でいいわよ。それよりもそちらのカッコいいお姉さんの子を見てあげた方がよろしくて?」
そういうとユリコの横に座っていた黒い軍服にも似たような服装に身を包んだ銀髪で綺麗な長髪の女性が腕や足を汲んだまま座っていた。そしてその女性の隣には立派な一本の角が長くまっすぐに伸びている白い毛の駒…『ユニコーン』が大人しく立っていた。
「…いや、私の用事は時間がかかる。それこそ最後でいい…早く用件が済むなら先に済ませたらどうだ?」
「あらそう…?確かに私はみぃちゃんの定期健診だから異常が無ければすぐ終わるけど、でも一番最後に来たのに…でしたらプラノさんが一番でもいいかしら?」
今度はユリコの対面に座っていた二人と比べたらよく言えば落ち着いている、悪く言えば貧相な作業着のような恰好をした朱色のロングストレートな髪、立派で真っ赤な翼と鱗を持つ二人よりも幼めな女性…『最強!Knights of Strongest』に所属するプラノが声をかけられあわあわと反応する。
「ふえぁっ!?いいいいやいやいやわわわ私なんかそんな!身分も隷爵だし兵爵としてもベテランのお2人と比べてもまだペーペーなのに」
「御託はいい、さっさと用件を済ませてこい!」
「ひゃいぃ!!」
プラノは銀髪の女性に睨まれたかのように慌ただしく椅子から転げ落ちすぐにニアの元へと駆け寄りニアと二人で話し始めた。代わりにプラノが座っていた席にはカエデが座った。
「私もお邪魔してもいいかしら?」
「えぇ是非」
ユリコはカエデの為に机に置かれている新しいティーカップにお茶を入れて差し出す。
「ニア先生とは随分仲が良さそうでしたけど、もしかして先生の常連さんですか?」
「ふふっそうなの。ニアさんとは元々同じソロで活動しているよしみでフリーランスでやっていくためのアドバイスをしていたの、その時からみぃちゃんの定期健診をお願いしているの」
「…まぁ当の本人は結局経営難で同業をしている騎士団に吸収されることになったがな」
「それは仕方なかったわ、ニアさんは動物の知識とか接し方はすっごく上手なんですけど経営学はからっきしだったから…むしろこうして『We love petanimals』騎士団でも獣医の仕事をやらせてもらってて私もほっとしてるわ」
「確かに。カエデちゃんも先生にすっかり心を許しててびっくりしちゃったもの。…そう言えば自己紹介がまだでしたわね。私はカエデ・コノハナ。『不思議の苗木亭』騎士団に所属していますの、こっちはフライトライドゴラグーンのチトセちゃん」
「私はユリコ・ラージュムーン・ベルシュタイン。ソロの義勇兵爵で活動しててインテリアコーディネーターもしていますわ」
「ユリコさんのご活躍はよく知っていますよ。なにせソロなのに兵爵ランキング63位を記録している凄腕の実力者ですから」
「あらお恥ずかしい」
お互い楽しそうに話すカエデとユリコ、その2人に挟まれながら静かにティーカップを口元に運び視界がカップに遮られる銀髪の女性。だがカップから視線を戻すと二人は静かにじっと銀髪の女性に視線を送っていたのだ。女性は呆れたように溜息をつく。
「…『槍サー騎士団』のベルレラだ。このユニコーンは騎士団の所有であって私のペットとかではない、手が空いていたのが私だけだったから連れてきただけだ」
そんなこんなで三人でおしゃべりしていると用事を済ませたのか手荷物いっぱいのプラノがニアと共に戻ってきた。続いてユリコがペットの猫と一緒にニアと診察室に向かい、そして戻ってきたら最後にベルレラがユニコーンを連れて中に入っていき、しばらくの時間がたってようやく全員の診察が終わった。診察室からへとへとになったニアがベルレラと一緒に戻ってきた。
「お疲れニアさん」
「あれ、皆さん…まだ何か御用でしたか?」
「別に用はあらへんよ。こうしてみんなでお喋りしてたのが楽しくて時間を忘れてただけよ。けどちょっと盛り上がりすぎたかしら?これ以上はそちらの迷惑にもなるしそろそろお暇しましょうか」
カエデの一言で二人も同意したように一斉に机の上を軽く片付けて立ち上がり、それぞれのペットを引き連れ、プラノは大きな紙袋を両手で抱えて店を出ようとした…その時だった。店の出入り口付近で何やら人だかりが出来ているのが見えた。一緒に来ていたニアもその様子に気付きみんなよりもいち早く同じ団員と思われる店側の人間に話を聞きに行った。
「どうかしたんですか?」
「ニア君!今外に出ちゃダメだよ!…どうも異界人が野生動物をすぐそこまで連れ込んできたみたいだ」
「や、野生動物が!?」
「あぁ…なんでもていむ?したとかで無害だとか…ただ餌を買いに来ただけだから安心してくれとか言っているみたいだが…野生動物が完全に無力化出来た事の証明なんてできやしないのに何故信用できると思うんだか。っと、とりあえず今団長が戦闘出来る団員と一緒に対応にあたっているけど…どうみても一触即発の雰囲気だ。とにかく国衛兵爵に至急来てもらわないと」
透けガラスを通して見える外の様子は数人規模の武装した騎士団員達に囲まれた、まるで巨大な金色の鷹のような姿をしたゴラドンが明らかに昂った様子で団員達を睨みつけている。そして何より…そのゴラドンの背には小汚い恰好をした中年の男が跨っていたのだ。その様子はユリコ達四人も見ていた。
「…これはいけませんね。ニアさんの為にも私達もお手伝いしましょう。皆さんも手伝えますか?」
「ゆ、ユリコさん!ダメです!ユリコさん達はお客様なんですから…」
「客だのなんだのと言っている場合か。我々も義勇とはいえ兵爵だ、有事の際は依頼でなかろうと国衛兵爵が到着するまで対処にあたるべきは我らの矜持だ」
「うおぉーっ!ライオネット様~っ!私の頑張り見守っていてくださいーっ!!」
「まだあなたのとこの団長さんはご存命でしょ?」
「あ、皆さん!待ってくださいっ!!」
ニアやお店にいた騎士団員の制止を振り切りユリコ達4人はペットと共に店を飛び出し、戦闘態勢を取っていた団員達と共に並び立った。ゴラドンはさらに唸り声を大きくし、その上に乗っていた男はしっかりしがみついたまま何か喚いているようだった。
「おいっ!これ以上刺激するようなことはするな!!このモンスターは俺が『テイム』した使役獣だ。お、お前達が刺激するようなことをするからこいつは怯えているんだ!!そっとすればこいつは誰も襲わない、こいつは俺の相棒なんだよ…なんで誰も分かってくれねぇんだ!!」
男の空虚な訴えは誰の耳にも届く気配はなく、ただ『We love petanimals』騎士団とユリコ含めた4人の義勇兵爵達は国衛兵爵が来るまでの間ゴラドンの被害を抑えるべく自らの得物を構えるのだった。
次回投稿日未定




