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短編13 『不思議の苗木亭』の活動録その2 後編

「うてうてーっ!!うちまくれー!!絶対に近づけさせるなーっ!!」


 地面が遠くに見えるほどの上空、国旗が描かれた帆を張って大空を飛ぶ船の周りには『不思議な苗木亭』に所属している僕ら8人が各々の飛行方法で取り囲みながら銃撃や魔法を打ち込んで応戦していた。船の上ではみずぼらしい恰好をした海賊達…見る限りでは半数が子供や女性で構成された乗組員たちが、フードにローブで全身を隠した一人の男を中心に動き回り大砲で僕等を追い返そうとしていた。


「どうする団長?直接船に乗り込んで戦う?」


「出来ればそうしたいけど…まだオズランドの兵士が一体誰でいつ船員たちを人質にとるかまだ分からない。まずは大砲から順番に船を無力化していこう!」


「あのフード男がそうだと思うけど…オッケー、リルルなんとか出来そう?」


「や、やってみます!!」


 オープンタイプのホバーカーを運転中の胸元や太腿の開いたような白い騎士衣装に身を包んだ白髪の女性ケリーとホバーボードで飛行する僕、ハーレーで軽く会話したのち、後部席に座っていた安全ヘルメットをかぶった水色ショート髪にカッターシャツとミニスカート(その下にジャージのズボン)というまるで学生服のような恰好をした少女リルルがライフル銃を構え正確に大砲を狙い撃つ。が当然丈夫な大砲に銃弾をあてたところでカンッと弾かれるだけで効果はなかった。


「リルル、直接あてたって仕方ないよ。せっかくの狙撃銃なんだから的確に効果の大きい場所を探して狙っていこう!」


「は、はいっ…ごめんなさいハーレー団長」


 僕はリルルにアドバイスをしつつ、なるべくまとまって的になり過ぎないように敵の砲撃を誘うように煽るようにしてホバーカーから離れた。海賊達は的にしやすい大きなホバーカーよりも船の上を飛び回るホバーボードの僕の方を優先的に攻撃した方がいいと判断し大砲の弾がバンバン飛んできた。


「やっば…ちょっと…狙われ過ぎかも…うわぁっ!?」


 なんとかすれすれで弾を回避していたのだが、突然いくつかの大砲の弾が何もない空中で爆破した。その爆風で体勢を崩しかけそうになったもののとりあえず墜落は免れた。というか空中で柔らかいものに受け止められた。


「大丈夫でしょうかマスター」


「え、あ、ありがとうリーシャ…ってかゴメン!?」


「いえマスターが望まれるのでしたら私は喜んで」


「いっ、今は望んでないから!!」


 僕は大きな翼が生えた靴で空を飛び、布面積が殆どなく極限まで身軽にした綺麗な長い青髪を持つ無表情の女性リーシャのその豊満なたわわから急いで顔を離す。そんな様子を遠くから眺める分厚い上着に身を包んだ黒い毛の髪に猫耳と尻尾のついた男リゼアが、ブルームに跨りながら器用にハンドルの上でマスケット銃のような火器を両手でしっかり構えて飛行している。


「…おいおい、俺達には随分言ってきたのにお前達は戦場でやることやるとはな。だったら俺達だっていいだろ」


「ちっ!?違うってリゼア!!ってかそれだってリゼアが砲弾を打ち抜いて爆破したからリーシャとぶつかったからで」


 僕の必死の言い訳をリゼアは全く聞く耳を持たず、ブルームに乗りながら的確に大砲の支えとなっている4輪のタイヤの小さな留め具に命中させると、大砲の自重で撃たれたタイヤ側に倒れ、近くにあった砲弾が足元に散らばり船員たちはパニックを起こしている。まだまだ未熟なリルルと違いリゼアの実力は間違いなく騎士団でも指折りの兵爵だ。


「よし…船上がパニックになってる間に一気に手を打とう。リーシャお願い!!」


「承知しました」


 リーシャがすかさず空中を蹴り出すと一気に船へと飛んでいき、ひらりと甲板の上に着地した。リーシャの両手には二振りのナイフが握られていた。


「私はマスターの刃…マスターの命により敵を排除する」


 リーシャの身軽な動きで船員達の間を高速で駆け抜け、武器を持ったガタイの良い大人だけを通り過ぎ様に切りつけ、女子供には攻撃せずそのままフードの男の元まで駆け付け、一瞬で斬り抜ける。ズタズタに斬られたフードがひらひらと地面に落ちその素顔が晒される。…だがその男は頭に魔人種特有の角などは見当たらずオズランドの特徴らしい特徴が見受けられない。周りの海賊達とそんなに見た目の違わない男だった。


「えっ、どうして…フードを被っていた人がオズランドの兵だと思ったのに」


「落ち着いてハーレー。最初から山を張り過ぎていただけよ。それに…まだあの男が完全に外れって決めつけるのだって早いかもね」


「…そうだね、ありがとうテューリ。一旦リーシャの離脱をフォローしよう、リゼアお願い!」


 僕の言葉にリゼアは黙ったまま船の上に銃を構える。船の上では海賊達に囲まれ孤軍奮闘するリーシャ、海賊達のカトラスナイフをしなやかな動きで華麗に躱し反撃をしているものの数で攻められている状況に苦戦している。そんな時に突如リーシャを中心に船の上で竜巻が発生し海賊達は強風にあおられ身を強張らせる。テューリの風の魔法による援護だった。すぐに好機と見図り三連射するリゼアの弾丸は見事リーシャの正面を遮る三人の海賊達に命中しふらつき倒れる。風魔法による竜巻が切れるとすぐさま走り出し靴の翼を力強くはばたかせて離脱するように飛び上がった。


「とりあえずこれでリーシャは大丈夫だね…だけど、どうやってオズランドの兵を探そうか…」


「ほんなら、私にお任せを」


 砲弾を躱しながら雄々しく飛び回るゴラグーンの背に乗って接近してきた、黒髪ポニーテールで着物姿に胸当てをした手綱を握りながらも和弓を持つ大人びた女性カエデが一気に船に接近した。


「チトセちゃんの嗅覚なら海賊とオズランドの人間を嗅ぎ分けることも可能だと思うんですが」


「分かった。でも嗅ぎ分けてる間チトセちゃんとカエデさんを守っていないと」


「だったら、私も行くぜ!!」


 船へと接近する僕とカエデの背後からぼさぼさの銀髪に赤いライダージャケットにアーマーブラ、デニムのショートパンツの下は鱗でびっしりの足、そして背中に生えた翼竜のような翼膜のある筋骨隆々の女性バーティアが後を追うように飛行し三人と一匹で船へと襲撃に向かった。

 最初にカエデが騎乗しているチトセちゃんが大きな翼の羽搏きで周囲の海賊を一掃し船の上に開けた場所が出来たのでそこに着陸。僕はすぐ飛行に使用していたホバーボードを外しカトラスナイフを手に襲い掛かってくる海賊達を徒手空拳で相手する。バーティアも盾を構え力技で多人数からの攻撃を難なく受け止める。そうこうしているうちにもチトセちゃんは大きな体ですんすんと周りの匂いを嗅いでいるのかきょろきょろしている。


「どうですか!?分かりそうですか?」


「どうかしら…もう少し粘ってもらっていいかしら?」


 カエデは匂いを探るチトセちゃんの邪魔にならない程度に弓で援護する。リーシャが乗っていた時もそうだが船の上での戦闘は敵に囲まれて戦うという単純な話ではなく乱戦になると僕達にもみんなの攻撃が当たってしまう可能性がある。しかも戦っているのが大人の男だけでなくまるで戦いを知らないような女子供ですら僕等に襲い掛かってきている。現にまだ実戦経験の少ないリルル、運転中のケリーは攻撃を中断し、テューリも静観しつつも自身の周囲に風の刃を生成しチャンスがあればいつでも攻撃できるようにしている。


「…っく、おいまだかよ!!大人ならまだしもガキ相手に手加減なんていつまでもしてらんねぇぞ!!」


 なんとか大人数相手に自前の丈夫な身体と盾で対抗しているバーティアも四方を囲まれては殆どリンチ状態だった。そんな時突如集まっていた海賊達の集団は吹き飛ばされ、バーティアはその隙に囲まれている状態から脱出。した直後バーティアは何者かに抱きとめられる。


「…俺の女だ、手荒な真似するってんなら容赦しねぇ」


「り、リゼア!」


 バーティアもリゼアに気付き自分からも首に腕を回しぎゅっと抱きしめる。リゼアは片腕でバーティアを抱いたまま反対の手にはおそらく海賊達を吹き飛ばしたものとされるごつい銃剣を取り付けたマスケット銃を海賊達に向け構える。そんなタイミングでチトセちゃんの方もグオッグオッと野太い鳴き声を上げる。


「見つけたわ!そいつよハーレー君!!」


 カエデは僕に呼び掛けながら懐から瓶を取り出し一人の男に投げつける、瓶は割れ中の液体がたっぷりとその男にかけられた。その男は先ほどフードを被っていた男だった。その後カエデはすぐさま鏃に火をつけ液体まみれの男を射抜くと液体は油だったため男の身体は一気に燃え上がったのだ。その様子に海賊達はパニックになり火を消そうと躍起になる。だがなんと驚くことに燃えている男は全身がまるで着ぐるみを脱ぐかのように背中側が破れ開き人の中から人が出てきて火達磨状態から抜け出たのだ。中から出てきた男にはまるで悪魔のような角や尻尾が生えていたのだ。


「おのれ…せっかくエゾ家の変装能力で完全に潜り込めたというのに…許さんぞぉ!!」


 正体が明らかになったフードの男改めオズランドの兵は僕目掛け真っすぐ襲い掛かった。僕は回避が間に合わないことを悟り咄嗟に防御姿勢を取った。カトラスナイフを振り下ろす腕を咄嗟に受け止める、そのまま取っ組み合いをする二人の様子を周りの海賊達は困惑気味に傍観している。


「くっ…目的は…目的はなんだ!!この海賊達をどこに連れていくつもりだったんだ!?」


「そんなこと貴様らコーランドのゴミ共に喋って何になる!お前達、何をぼーっとしている!さっさとこいつらを始末しろ!!」


 オズランドの兵の命令を聞いてもなお海賊達は動揺し戦えずに狼狽えている。海賊達が戦闘を止めるという事は…当然取っ組み合いしている背後からリゼアの銃剣がオズワルドの兵の背後から襲い掛かる。僕は咄嗟に男から離れる。


「どうやらお前は仲間じゃねぇってさ…いくぞバーティア」


「よっしゃ、任せろ!!」


 リゼアがオズランドの兵を蹴り飛ばすとバーティアが盾で受け止めるだけでなく男の下に潜り込むようにして抱え上げ、そして盾で勢いよく上空へと投げ飛ばした。


「ありがとう2人とも!さぁ、みんな…一気に決めよう!!」


 上空高く打ち上げられたオズランドの兵をホバーカーの上からリルルの銃弾とケリーの手から投げられた炎の槍が、反対からはテューリの風の刃が、そして海賊船からはリゼアの銃とカエデの弓が一斉にその身体を貫き、翼が生えた靴で空中を駆け抜けるリーシャが二本のナイフで切り裂き、カエデを乗せたまま飛び上がったチトセちゃんの強靭な蹴爪が炸裂した。オズランドの兵の身体は見ただけでもわかる程ボロボロになった。


「…かはっ、くそぅ…こうなったら全員道連れにしてくれるわぁ!!」


 男は最期の力を振り絞って真っ黒な魔法陣を空中に展開するのが見え僕は勢いよく走り出し船の縁から高くジャンプした。


「星拳、ビクトリーシード!!」


 僕の拳がオズランドの兵の顔面に深く突き刺さった。そして踏ん張れもしない空中だろうが腰をさらに捻りその力のままに男をぶっ飛ばしたのだ。当然殴り飛ばした先にカエデとチトセちゃんが先回りしており器用に空中でキャッチしたのだ。例え敵であってもキャッチしてあげないと地上に墜落した際に命の保証がしかねないから…。




「不思議な苗木亭の皆様、ご依頼達成を確認しました。後はこちらで対応いたします。ご協力感謝します」


 あの後海賊達は戦意を失い軍のいるキャンプまで同行することとなった。この後の流れだと彼らは他で長年私掠船をやっていて帝国と一応内通しているベテランの海賊グループに引き渡しすることになっている。帝国と敵対する海賊ではあるけど戦いをしたくて海賊になったわけじゃない。普通に人並みに暮らしたい女性や子供達だって混ざっている。そんな彼らの思いを汲んであげなきゃいけない…なんとも大変なことなのである。

 それとオズランドの兵は軍の中でも特に厳しいと言われる刑務組織の人達が拘束し見張りも付け護送されることとなっている。こちらに関しては完全に国からの刺客なため海賊達とは違い意図的な工作を行っているのだ。


「あ、あの…ハーレー団長…まだ私みんなの足を引っ張って…」


 依頼も終わりキャンプで一段落しているとリルルが申し訳なさそうに話しかけてきた。僕はすぐにリルルの思いを分かってあげてそっとヘルメット越しに頭をなでる。


「そんな事無いさリルル。リルルはまだこっちの世界に来て寂しい思いしてるってのに慣れない戦いにも参加してそれだけでも偉いんだから。それにリルルは努力家だからそう遠くないうちに一人前になれるさ」


「団長…あ、ありがとうございます」


 リルルは恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。そんな僕達の元に皆が集まってくる。


「そうねー、少なくとも料理よりかは間違いなく可能性感じるからね~。私達の教え方が良くないのかな?」


「そっ、そんなことは絶対にないです!…ないです、けど、その…ケリーさんと同じようにやっても何故かうまくできなくて…」


「やっぱ愛情の差だよ!ほら、こーやって愛しの団長くんにぎゅーってすればうまくいくかもね」


「ちょっ、け、ケリー!?」


「ふふっ、そうね~ハーレー君に美味しいもん食べてもらいたいなぁ~って気持ち、こうして肌重ねたらわかるんじゃないかしら?」


「か、カエデさんまで!?」


「…お前達、マスターが迷惑しているだろ。その役目は私だけで充分だ」


「りー、リーシャもしれっと!?」


「…ハーレー団長…」


「ちっ、違うってリルル!ぼ、僕はそんな…テューリ!リゼア!助けて~…」


 僕等は相変わらずメンバーのみんなにからかわれ笑い合う。その後夕焼けに照らされながら僕等は車とホバーカーをゆっくりと走らせ帰路についた。疲れて寝ちゃった後部席のみんなと牽引の中で大人しく眠るチトセちゃん。今回の依頼は僕等の他にも同じように海賊達に紛れたオズランドの兵達を無事逮捕出来た騎士団がいくつかあったが…それでもまだ海賊に完璧に変装した奴らが潜んでいる…。海賊達の脅威もさることながら、オズランドの兵達による水面下での活動にもより一層注意していかなければならない…そんなことを思いながら僕は車を走らせるのだった。

次回投稿日未定

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