短編13 『不思議の苗木亭』の活動録その2 前編
ドオオ―――ン…と、突然前触れもなく静かだった森に激しい爆撃音が響き渡った。それと同時に森からは悪魔的な角と尻尾が特徴的なピッチリスーツに仮面をつけた三人組が全身ボロボロになりながら猛ダッシュで逃げ出していた。
「あーん、もぅ…どーしてこーなったのよぅ~。今回の作戦は完璧って言ったわよねトラッP!!」
「勿論ですとも『コーランドの強くて美人な女兵士をとっ捕まえるために倒れたイケメンを使って一網打尽でゲッチュッチュ大作戦』は結果的に二回も成功した実績ある作戦だったじゃないですか~」
「んだけど、その捕まえた兵士みーんな…三回目に来た、不思議ななんとかって連中に逃がされちまった上にこーして袋にされてるってわけでんがな」
「今このタイミングでここまでの流れをわざわざ言わなくていーから!!まるで私達の出番丸々カットされてるみたいじゃない~!!」
喚きながら叫ぶ豹のマスクをつけた女とそれぞれ蝙蝠のマスクと象のマスクをつけた男二人…三人合わせてノイスジー一味を翼や羽の生えた三人の女性達が上空から迫ってきた。
「くそっ…ちょこまかと逃げ足のはえー奴らめ!」
「バーティア、先走らないで!フォーメーション組んで仕掛けるの。アルラウス」
「オッケー任せて」
妖精のような透き通る羽で飛ぶテューリの指示で、綺麗な鳥のような翼を持つアルラウスがごつごつとした翼竜の皮膜に似た翼を持つバーティアに並び、左右上空から逃げ走る三人に一気に迫る。
「あかん、もう追いつく…もうこれが最後の魔法弾でっせ!」
蝙蝠マスクのトラッPが走りながら後方に魔法の弾をばら撒きバーティアたちの接近を邪魔するが、即座に二人の後方にいたテューリの魔法弾が全て相殺させすぐに二人は再接近した。
「ストロン号!あんたも逃げてないで足止めの一つくらいしなさいっ!!」
「んがっ!わっかりましたぁー!!」
象のマスクのストロン号が逃げる足を止め、3mものある巨体からまるで大砲のようなパンチを放つが、バーティアが盾を構え空中でその拳を受け止めるとごっっ…と鈍い音を響かせ空中にいるバーティアよりも地上で踏ん張っているストロン号の方が退き手を痛がる。
「パド様ぁ~…やっぱりだめでげす…」
「このでくの坊のダチカンナス!!ほんっとあんたら使えないわね!!」
「そんな人の事ばっか言ってて大丈夫ですか~?」
先を逃げるパドをようやく追い抜かし、パドの足元に潤滑性の高い液体を地面に撒いたアルラウス。その液体で足を滑らせパドが転び、続いてトラッPが、最後に一番の巨体であるストロン号が二人まとめて押しつぶすように滑り転げた。
「ぐえぇ…おもい…」
「さっさと、どきなさいよぉ…」
「っへ、随分私達の国で好き勝手してたそうだが…これでついに年貢の納め時だな」
「…今連絡来たけどリゼア達の方も無事制圧は終了したってさ」
「んじゃぁこれで仕事は終わりだね。良かったじゃない早く愛しのダーリンのところに戻ってあげないとねバーティア♪」
「…っば、馬鹿…まだ仕事中だっての…」
身動きの取れなくなったノイスジー一味を拘束しながらからかい合う三人。だがそんな一仕事を終えたという穏やかな雰囲気は一瞬にして空気がひりついた。薄暗いとはいえまだ昼の明るい場所だったのにもかかわらず突如まるで真夜中のように真っ暗闇に包まれたのだ。三人は不審に思い上空を見上げると、なんとそこには巨大な帆浮船が迫ってきていたのだ。
「…なんだ、軍の迎え…ってわけではなさそうだよな?」
「まさか…海賊!?けどどうして今ここに?」
驚く間もなく帆浮船から降下されたロープから人が降りてくるのが見えた。その数、十人はゆうに超えているのが遠目に一瞬見ただけでも分かった。
「…ふふふ…っほーっほっほっほっほ。そろそろこんなこともあるかと思い、事前に海賊共に助け舟をお願いしておいてあるのよーっ!!」
「その助け舟あっしら3人の2か月分のバイト代全部つぎ込みましたからねぇ~…」
「くそっ…オズランドの連中が海賊と手を組んでいるなんて聞いたことねぇぞ…」
「バーティア!アルラウス!戦っちゃダメよ!連行は諦めてすぐ逃げるわよ!!」
それだけ言い残し三人は拘束途中のノイスジー一味をその場に残し全速力で飛び去って行った…———
………———
…ってな感じだったってわけよ。とりあえず捕まったよその義勇兵爵は全員解放は出来たが、肝心の主犯格であるノイスジー一味の逮捕は失敗ってわけ」
「そっか…大変だったね。ありがとうみんな、ご苦労様」
依頼を終えたバーティア達は自分達が所属する拠点『酒場兼遊撃騎士団【不思議な苗木亭】』で団長であるハーレーや他メンバー達に事の顛末を報告していた。
「それにしても…グレート・ウィンチェストローズとオズランド帝国もまた敵対関係…私達の国も含めてそれぞれ敵対し合う三角関係の筈のグレート・ウィンチェストローズの私掠船がどうして魔人種の一団に肩入れを…」
「私掠船と言ってもあっちの国のお偉いさん方が勝手に決めてること、国家間の敵対関係だって海賊をやってる本人達からしてみれば知ったこっちゃない話。あいつらは今生きるための金とか食料を奪うために帝国を攻撃してるだけ…オイスターだかって一味と利害が一致するなら末端同士仲良くしてもおかしくはないって事よ」
「…どちらにしても今後はオイスター一味と海賊が一緒に活動している可能性も十分考えられるのね」
「それどころか他のオズランド帝国からの刺客も同様に海賊達と手を組む可能性が出てきているわ。これを見て」
団員達全員の前の机の上に一枚の依頼書を広げるテューリ。
「軍からの直接依頼…?」
「なになに…普通の海賊の討伐依頼、じゃねーな。これ魔人種もいるって事か?」
「ちょっと…フライドチキン手掴みした手で依頼書触らないでよバーティア。ギトギトになるじゃない」
「まだ右も左も分からない若手の海賊達の船にオズランドの兵が介入しているらしいの。ただ手解きをしてる程度ならいいけど、最悪海賊船ごと帝都に落っことして船員皆道連れにしたり、オズランド帝国に船ごと拉致する可能性もあって緊急性の高い依頼なのよ」
「…そうだね、拉致されることは僕等からしたら関係ない話かもしれないけど…でもだからって何も知らないまま悪い人に利用されるのを聞いて黙って見過ごすのは…かっこ悪いもんね。海賊達の為にも、勿論帝国に住む人たちの為にも、参加しようこの依頼!」
ハーレーの言葉にそこにいたメンバー達はニッと笑い、それぞれが簡単な準備や行動を再開する。依頼書を持ってきたテューリは早速軍に参加の打診を送る。
「とは言っても…すぐに出発しないとだけど、そうなると今ここにいるメンバー全員じゃないときついかな…」
ハーレーが周りを見渡すと料理の仕込みをしているカエデにケリー、床掃除中のリルルにマリエット、そして先ほど依頼を終え肉や酒を飲み食いしているリーシャとバーティア…それから軍に打診中のテューリしか残っていない。リサやアルラウス達は依頼が終わって各自休息を取っている。自分含めて8人しかいない。リーシャやバーティア、テューリは結構疲れているだろう。
「…マスターの杞憂でしたら心配にはございません。私はマスターの刃として共に参りますし、この筋肉馬鹿も馬鹿過ぎて疲れという言葉を知らないので」
「んだとてめぇ!リーシャ!…まぁ私も同行するけど!てめぇは仕事終わったらぶっ飛ばす!」
相変わらず仲がいいのか悪いのか…2人の参加を聞きくすりと笑いながら安堵するハーレー。最悪テューリ除いた7人だとしてもなんとかはなりそう…そんな風に考えていると地下蔵の階段から誰かが上がってくる足音が聞こえた。
「…話は地下にいても聞こえた。俺も行く」
「リゼア!?」
「バーティア一人行かせたりなんかしないからな」
この騎士団では数少ない男仲間のリゼアが黒く細長い尻尾をバーティアの腕に巻きつける。さも当然のことをしてるとばかりに無表情なリゼアとは対照的に黙り込んでバツが悪そうに顔を真っ赤にするバーティア。
「あ、勿論私も一緒に行くよ」
「テューリ…でも大丈夫?テューリは皆よりかは身体が…」
「流石にもう少しだけは頑張れるわ。それにたまにはハーレーと一緒に行きたいしね」
そんなこんなでテューリも行くことになり、代わりにお店のお留守番としてマリエットを置いて行く事とし8人で依頼予定地である軍が展開したキャンプに向かう。拠点から2時間ほど通常の車とホバーカーの2台+牽引で移動をし軍と合流、打ち合わせと出撃準備を済ませる。ちなみに『不思議な苗木亭』も海賊達が使っているのと似たような帆浮船…空を飛ぶ帆船を所有をしているのだが…主にリサやミーシャ、他ここまで目立つことなく出番として登場していない船の管理担当の裏方メンバー達が軒並み不参加の為今回は使用が断念となった。
「…っ!海賊船探知しました!!ここから北西に4㎞先の未開拓地域上空、深い崖の真上を航空中です!!」
軍の報告と共に『不思議な苗木亭』の8人はお互いこくりと見合い、すぐに車に乗り込み直し可能な限り敵船の近くまで走らせた。
「…見えました!」
後部席に座るリルルの声で車を止めると少し離れたところに海賊船が飛んでいるのが見つかった。だがその距離はまだ銃でも魔法でも届きそうもない距離。そして翼が生えている団員は8人中二人しかいなかった。とてもじゃないが全員が海賊船を攻撃するには難しい…なんてこともなく。
「はいはいチトセちゃん。狭いとこで我慢して偉い子ですね」
カエデが牽引の中から引き連れだしたのは、全長が3m程もある翼の生えたゴラグーンだったのだ。カエデはチトセと呼んだゴラグーンに跨り手綱を握るとチトセも長い事狭い所に押し込められていたためか早く動きたいとばかりにうずうずしている。
そして残るメンバー達も、ケリーはホバーカーを運転しその後部席にはリルルが乗り、リゼアはブルームに、リーシャは大きな翼が生えた靴『タラリア』に履き替え、そしてハーレーはまるでスノーボードのような丈夫な板と一体となった靴『ホバーボード』を履きふわりと浮き上がることを確認した。
「…な、なぁ…リゼア…っべ、別に、んなもんなくったって…私がさ…乗せて飛んでやることだって出来るんだけど…」
「ん、わかった。じゃあブルームいらね」
「いらね、じゃねーのよ。惚気の為に余計な戦力低下してんじゃねぇよ」
バーティア達のやりとりに皆が笑い、それぞれが得物を手に最終チェックを済ませ、ハーレーがボードで浮き上がってゴーグルを着用する。
「さぁ、みんな…いこう!!」
ハーレーを先頭にみんなが勢いよく飛び上がり、敵の海賊船へと向かって飛翔し始めたのだった。
次回投稿は6/17頃予定




