短編12 アラタ騎士団の活動録その2 後編
『聖ルーマルコーランド帝国』領土内、帝都と鉱山都市ビストリタルノフスティア・グルィツァの中間程に位置する未開拓地域の深い場所、人の目などめったにつかない荒れ果て乾いた砂岩の渓谷に建てられた混凝土でかっちり作られた丈夫な建物…そこは現在帝国が戦争をしている敵国であるティストレイ連邦の人間が不法で滞在していると思われる隠されたアジトだった。帝国は本依頼にてそのアジト内にいるティストレイ連邦からの密偵兵を逮捕するべく多くの人材が集められた。
今回の作戦は作戦に参加している3つの騎士団を軸に野良の参加者を各チームに割り振り、10人程度の3チームで3方向からの一斉突撃を決行したのだ。一つは実力的には3つの騎士団の中でも一番低いと思われる騎士団と過去に義勇兵爵ランキングに載った事のある実力者の野良兵爵のチーム、一つはアラタ騎士団率いるチーム。そして最後の一つが騎士団ランキング上位を常にキープする本作戦で最も強力な騎士団『羊醍山』率いる強力なチーム…なのだが。
「…どういうことだこれは一体」
『羊醍山』の団員達はみな徒手空拳で武装する相手をなぎ倒すがその実力は一方的…にしても敵の数が少なければ相手としても実力不相応な者ばかりだった。だが決してその程度の規模のアジトという訳ではない。アジトの大きさから数十人はいてもおかしくはない大きさをしている。アジト内の物資の量も数十人が居るであろう量があった。だが敵の数はまだ10人程度しか戦っていない。アジトの内部はトラップが仕組まれているだけでまるでもぬけの殻のようだった。
「まさか…、他のチームが危ない!」
「フェリスウウウゥゥゥ!!」
時を同じくしてアラタ騎士団率いるチームは窮地に立たされていた。アジトの外壁にある足場の敵を討つべく先行したビヨンドとトモエは敵の爆撃にあい、ラセツは苦戦するドロフィー含めた野良の義勇兵爵達をフォローしにいったが驚くことに義勇兵爵の中にスパイが紛れ込んでおり不意打ちを食らい、まともに戦えるのがフェリスだけの状況に陥ってしまっていたのだ。
だがそんな状況下でフェリスは生命エネルギーを瞬間補給する飲料ゼリーを三本も一気に飲み込むと言う過剰ドーピングによって体を壊しながらも自らの魔力を大解放し強力な力を無理やり引き出したのだ。
「はああぁ!!」
両肩から白い炎のように噴き出す生体エネルギーがまるで竜の翼のようにはためきながら猛スピードで駆け抜け、拳を振るえばその一撃で敵をノックアウトする威力だ。さらにフットワークも軽くなり複数の敵からの攻撃も難なく躱して見せるその動きは先ほどまで防戦を強いられていた相手とは思えない余裕すらも感じられるだけの身のこなし。覚醒したフェリスにとってもはや敵は目の前の相手ではなかった。
「くっっ…ぐうぅ…」
攻撃するたび、戦うたびに痛みから声が漏れ出ている。振るった腕の皮膚が裂け血が噴き出る。攻撃を躱す動きも徐々に鈍りを見せ、いつの間にか攻撃が皮膚を掠ってしまうほどに。
「…もう、時間がない…」
フェリスはさらに吐血している口を歯が砕けるほどに噛みしめペースを上げる。残る敵の数は20人程、遠くでは腹に剣が刺さったまま他の兵爵達と共に敵やスパイ兵爵と戦うラセツの姿が見えた。ビヨンドとトモエは体勢を立て直し持ち堪えていた。少なくともまだ15人…せめて10人は斃さないとと奮起する。残り少ないタイムリミットの中一打で一人を確実に斃す。一人、また一人…5人斃した。あと半分、その瞬間フェリスの拳はガツンっと鈍い音と共にそのテンポ良く敵をしずめていた攻撃は動きを止めた。フェリスの攻撃が敵兵にガードされたのだ。その瞬間フェリスの身体から溢れていた生体エネルギーがふと噴出が止まり、全身から血が噴き出した。
「がっ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!」
「フェリスぅぅううう!!!」
トモエの悲鳴とフェリスの絶叫がこだまする、フェリスはがくりと膝から崩れ落ちバタリと俯せに倒れた。トモエはフェリスを救出すべく敵の中を押し入り、そんなトモエをフォローすべくビヨンドも敵をなぎ倒し2人でフェリスの傍へ駆け寄った。
「フェリス、しっかりしろ!フェリス!!」
トモエは必死にフェリスを呼び掛けるが、深刻なダメージで意識を失ったフェリスは何の反応も示さなくなった。そんな乱心するトモエをよそにビヨンドは応戦しつつもフェリスの腰から外れたポーチの中から顔を出すドーピングに使われた新品の飲料ゼリーをじっと見つめた。
そしてラセツ側のチームもまた消耗からついに応戦するだけの気力を失い、ラセツも膝をつき痛みに堪えられなくなった。
「…もはや、これまでか…、皆…依頼は失敗だ。俺だけ置いて…」
ラセツが指示を出しているタイミングで敵がラセツに一気に迫り剣を振り下ろした、だがその攻撃はラセツには届かなかった。なんとラセツを覆う程の大きな盾にラセツは護られたのだ。
「あなた達、何を不甲斐ない事をしているのですの!?」
その盾の持ち主である紫色の縦ロール髪をなびかせ、ラセツの前に立つのは…軍のキャンプにいる筈のカトレナだったのだ。
「てめっ!今さら何しに来たんだよ!!」
「何を言ってるのですのビヨンド!私がいないくらいでこの程度の相手に苦戦なんてして、何が帝国で最強になるですの」
「ぐっ…い、今から全員ぶっ飛ばすところだ!」
カトレナの挑発にのったビヨンドは不機嫌そうに自身の生体エネルギーを全て放出して見せるが、その輝きはラセツやフェリスには遠く及ばない程度。ビヨンドは怒りのまま力任せに敵と対峙するが2人ほど複数の敵を圧倒するだけの力量はなかった。苦戦するビヨンドは突如フェリスのポーチから飲料ゼリーを盗み取る。
「ドロフィーとネムも!いつも通り私のサポートをするのですわ!!」
一方カトレナはドロフィー達後衛クラージーに発破をかける。2人はこくりと頷くとカトレナの盾の後ろから強力な魔法を何発も放つ。それはカトレナすらも巻き込みかねないものであったにも関わらずドロフィー達は魔法を使い続け、カトレナはドロフィー達の魔法を盾で凌ぎ被弾しないように気を付けていた。
「そうよ!あなた達は遠慮なく魔法を撃ちなさい!私は大丈夫ですわよ!!」
カトレナが敵の攻撃を引き受けながら味方を鼓舞すると、奮起したドロフィー達につられ他の野良兵爵達も残りあと少しな体力を振り絞って立ち上がり戦闘に加わる。カトレナが来たことによって生まれた空気が逆境を覆そうとしているのだ。
「…ビヨンド!カトレナ達のところにフェリスを運んでくれ!」
戦況が変わった様子を見たトモエはすぐにビヨンドに声をかけるが、それが逆にビヨンドの怒りにさらに燃料を投下する事となった。
「…ざけんじゃねぇ!この俺が…この俺が頼りねぇって言うのか!!」
「そんな話をしてるんじゃない!!だからフェリスを」
「俺からしたら一緒の事だ!!俺なんかよりもカトレナの方が頼りになるってのか!?限界突破出来るラセツやフェリスが戦えねぇと逃げるしかねぇってのか!!…ふざけんじゃねぇ。俺は…俺はアイツらに頼りゃあしねぇ!こんなもんにも縋りゃあしねぇ!!頼れよ…俺を頼りやがれトモエぇ!!」
怒りのままに飲料ゼリーを握りつぶし叫ぶビヨンド。そんなビヨンドの内をぶつけられたトモエは唖然とし、そして自然と涙がこぼれた。
「…なんとかして、…なんとかしてよビヨンド!!助けてっ!!」
トモエの嗚咽混じりな叫びを受けビヨンドは2人を背にする。そしてまるで猛獣の咆哮のような雄叫びをあげるとついにラセツやフェリスと同じ、全身から紫のオーラに黄色い稲妻を模した生体エネルギーを噴出させた限界突破の姿になったのだ。そしてなによりビヨンドはまるで分っていたかのようにその姿に驚くことも誇張する事もなくすぐに戦いを始めた。ビヨンドの巨体からは到底想像もつかない程俊敏で敵はビヨンドが動く一瞬を見逃してしまった。その一瞬で敵の一人が宙へと舞い上がっていたのだ。すかさず敵兵は各自防御を固めたが…
「さっさと終わらせてやるよっっ!!」
超高速で勢いをつけたままのビヨンドの蹴りが敵に直撃するとその身体は他の敵を巻き込みながら吹っ飛びアジトの外壁に叩きつけられる程の威力となった。そのまま次々と敵をなぎ倒しその隙にトモエはフェリスを抱えビヨンドの陰に隠れて少しずつカトレナ達がいる方向へと向かっていった。
「全く、何勝手に目立ってますの…主役である私の活躍が霞むじゃないの!」
一方敵戦力がビヨンドに大きく向いたため相手が減り不満げになるカトレナ。
「そう言う事でしたら…ドロフィー!ネム!秘密の特訓の成果をお見せしますわよ!貴女達のありったけの魔力を私に撃ち込みなさい!!」
カトレナの指示にドロフィーとネムは困惑気味にお互いの顔を見合うが、言われるがままに二人同時にありったけの魔力を…生体エネルギーを放出し、カトレナがその生体エネルギーを盾で受け止めた。魔力を放出しきった二人はそのまま疲れ果てたように座り込み、そしてカトレナは二人から受け取った魔力を盾に宿しその魔力が体へと漏れ移り、まるでビヨンド達と同じ限界突破の姿に似た状態となった。
ビヨンドの高速アタッカーで暴れ回り、カトレナは盾の天辺から溢れ出る魔力で生成した刀身を力任せに振り回す重戦車ファイターとして残った実力ある敵兵を残らず蹴散らし、最後の一人も足掻きとばかりに抵抗するも巨体であるはずのビヨンドには攻撃をあてられずあっさりと投げ飛ばされ、その飛ばされた先にいるカトレナが横薙ぎに斬り伏せ、最後の敵兵が倒されたことでこの戦いに終止符が打たれたのだった。
「…ん、んぅ…?」
「フェリスっ!目が覚めたか…よかった…」
フェリスが目を覚ました頃には既に軍の人間も突入しアジトの完全掌握で動き、一番早く担当方面の制圧が完了した羊醍山率いるチームが各チームに応援を送ったこともあり敵兵はおよそほぼ全員を捕縛し制圧率も90%ほど完了し、戦闘不能となったラセツやフェリスの応急措置も間に合ったのだ。今は軍の医療班とアラタ騎士団の団員達だけ軍のキャンプに戻ってきている。
「…そうだ、ラセツが刺されて、それでまだ戦いが」
「まだ動かないで!…戦いは無事終わった。依頼は無事完遂したわ」
「本来ならランキング常連である羊醍山がいるチームが相手するレベルの連中揃いってとこだったんだろうが…俺らのとこに紛れていたスパイがどのタイミングかは分からんが情報を流し他2チームは足止めだけして俺達のところに戦力を集中させてアジトと少数の囮役を捨て逃亡を図ろうとしたみたいだ」
フェリスは全身が悲鳴を上げる体を無理やり起こそうとしたのをトモエの一言で安心しゆっくりと柔らかい布地に身体を預け、そんなフェリスとは対照的にフェリスと同じほど無茶したうえに腹に剣を突き刺されたはずのラセツは何故かぴんぴんと立っていた。
「うぁぁ~…目が回る~…きもちわるぃぃ…」
「ああぁ~…しっかりするんだカトレナ。こんな悪い人達に付き合わされて可哀相に…パーパがきつくいっておくからね」
「んだとぉおっさん!そもそもそいつの自業自得だろ」
「ひぃぃ…」
そんなラセツやフェリスとは違い、途中で戦いに加わるくらいにはあまり戦闘せず、かつほぼ無傷であるはずのカトレナが何故か一番重症そうに寝転がり、そのすぐそばでまだキャンプに残っていたカトレナの父親が騒々しそうにしているのを隣で胡坐掻いて座るビヨンドが鬱陶しそうにドスのきいた声で脅す。ちなみにドロフィーとネムは疲れて眠り込んでいる。そんなカトレナの様子をラセツは呆れながら口を開く。
「盾を媒体に使ったとしてももろに他人の魔力と混ざり合ったんだ、拒絶反応や自身の魔力循環に乱れが起きているんだ。フェリス以上に滅茶苦茶なことしているという事は覚えておけ。それとちゃんとミナヅキに伝えておけ」
「きゅうぅぅ…」
「…カトレナやフェリスでの『無双態』では今後どこかで体を壊しかねない。ビヨンドも今回がまだ初での使用でミナヅキと同じくまだ安定はしていない。課題だらけではあるが…それでも団員で無双態が使えるのは5人になったか」
「…あの力ってそんな名前なのか?」
「いや、俺はそう名付けているだけでみんな呼び方はバラバラですきに呼んでいるらしい。『バースト』だとか、『限界突破』だとか、『リミッター解除』だとか、…『スーパーなんちゃらとか…まぁあれだけの力を使える奴の特権だから各々が個性ある呼び方するもんだし、まだ解明されていない部分が多すぎて総称らしいもんがないみたいだ」
「はーん…んじゃあトモエ、俺のあの全力形態、名前考えておけ」
「っんな!?何故私が!?」
「おめーがこんなかで一番ぴんぴんしてっからだろ」
「だからって貴様の技だろ!」「俺はちゃんと助けてやっただろ」「それとこれとは話が違う!」
落ち着いてゆっくり休むフェリスやうなされるカトレナを気遣いながら口喧嘩するトモエとビヨンド。ボロボロになりながらも無茶して育っていく団員達を一歩離れた場所から一通り眺めるラセツ。
「…キヨミツ達も心身ともにまだまだもっと育つことが出来るし、限界を超えた力を使える人材が4人も揃った。…そろそろ俺も帰る時が来たみたいだな」
ゆっくりと、彼らは着実に強くなるのを確信した男は自分の角を擦り、ゆっくりと覚悟を固めつつ…なお少しだけ寂しい瞳でみんなを見るのだった。
次回投稿は未定




