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短編12 アラタ騎士団の活動録その2 前編

 どぉぉぉん…と激しい衝撃音が響き、激しい砂埃が舞う。ここではすでに激しい戦闘が繰り広げられていた。一方の陣営は洗礼された戦闘集団でもう片方の少数陣営を一方的に追い込むだけの実力があった。そんな戦いを遠く…離れた場所でキャンプを設営した帝国の軍と、2人の高貴そうな衣装を身に纏った父娘が優雅にその様子を眺めていた。


「まったく…ラセツ様とビヨンドは何をしているのですの!?さっさと倒して、お父様に私の騎士団の強さを知らしめていただきたいのに」


「いやいやカトレナよ。パーパはお前がついていかなくて安心したぞ。あんな苦戦するような騎士団なんかにいるよりお家に帰ってきた方がいいに決まっている」


 父親らしき紫の短髪男は娘と一緒にお洒落なテーブルに座りお茶を飲みながら談笑する。そんな父とは対照的に明らかに不機嫌な態度を見せる同じ髪色をした紫で長い髪をいっぱい縦ロールしており、格好もまるでお嬢様かのような重たそうなドレスを着た娘…アラタ騎士団のカトレナであった。何故今戦闘をしているであろうアラタ騎士団と一緒にいないのか…




 ———…話はさかのぼる事3時間ほど前、同じ日にミナヅキやトレイス達が依頼や子供達の帰郷の付き添いとかでクザミメの村に向かうこの日、ラセツ達もまたとある依頼に参加していたのだ。今回の依頼は帝都と鉱山都市『ビストリタルノフスティア・グルィツァ』との間に位置するとある村、リーナリア。その村から少し離れた場所に軍がキャンプを設営し今回の依頼参加者である野良の義勇兵爵や騎士団が集合しており、アラタ騎士団もまた同じように合流する…筈だったのだが。


「お———っほっほっほっほ。下々の者達よご機嫌だったかしら?この私、カトレナ・キャメロット・リーナリアが帰ってきましたわよ~」


 なんとカトレナがわざわざ今回依頼参加するアラタ騎士団の面々を連れて村の中に来ていたのだ。カトレナは村では人気者だったらしく村の人達はカトレナの帰郷を快く歓迎し賑わいを見せていた。そんな村の雰囲気にカトレナはすっかり上機嫌だった。


「あんた…一応ちゃんとお嬢様だったのね」


「一応とか、ちゃんとってどういう意味ですのフェリス様」


 そんな楽しげな雰囲気の中で突如一人の男が騎士団に歩み寄ってきた。その服装はいかにもな豪華そうなお洒落な貴族風の服を着ているが所々宝石がガラスだったり安物っぽいような装飾が気になる男だった。


「やぁお帰りカトレナ。噂では聞いているよ、義勇兵爵を無事叙爵して今では一流の騎士団で好待遇役員になったらしいじゃないか。私も鼻が高いよ。今日は長期休暇かい?」


「あらお父様、今日はお仕事出来たのですわ。ここに寄ったのは顔だけ出していこうと思いまして、仕事が終わりましたら改めて家まで帰りますわ…それじゃあ行きますわよ。ドロフィー!ネム!ちゃんとついて来なさい!」


 それだけ言い残しアラタ騎士団の面々は唖然とする村人やカトレナの父を背に村を出て軍のキャンプにまで向かったのだ。

 軍のキャンプには既に今回の依頼参加者である義勇兵爵達がずらりと集まっていた。アラタ騎士団からの参加者であるラセツ、ビヨンド、フェリス、トモエ、カトレナ、ドロフィー、そして最近アラタに入団したばかりのネムを加えた7人。その7人を合わせて合計で30人以上も集まっており、3騎士団が合同で行う今回の依頼の内容…それは、現在帝国と戦争をしているティストレイ連邦からの密偵兵の逮捕である。

 ビストリタルノフスティア・グルィツァを拠点に活動をしているとある騎士団が、先日近隣の都市外地域調査を行ったところティストレイ連邦の人間が不法で滞在していると思われる隠されたアジトを発見、軍に報告後本日突入する運びとなったのだ。

 作戦は主に3つの騎士団が中心となり、3方向からの同時突入作戦とすることになった。野良の義勇兵爵を振り分け10人程度で力量バランスが取れるように組むことにした。1番強い騎士団はランキング上位常連で有名な拳法を伝授する『羊醍山』から8名、ここには新米の義勇兵爵を配置。次にアラタ騎士団にはベテランの中堅兵爵を、そして最後の一番不安がある騎士団には過去にランキングに載った事のある実力者兵爵が面倒を見る事となった。

 そして突入までの間全員が出撃準備を進める中で一人の男がキャンプに近寄ってきたのだ。周りの人々は疑問に様子を見て、軍の職員達は関係者以外は近づかないよう制止を促すがそれでもヅカヅカと入ってくると


「カトレナーっ!カトレナはいるのかーっ!!」


「お、お父様!?」


 なんと先ほどアラタ騎士団が顔を見せに行ったリーナリアの村で出会ったカトレナの父が追いかけてきていたのだ。カトレナの反応に軍は渋々カトレナの父をキャンプ内に入れることにした。


「カトレナ、お前まさか…仕事というのは敵国のいるとかいう野蛮な事に首を突っ込むことじゃないだろうな」


「勿論ですわよ、まぁこの私に掛かればこのような依頼ささっと終わらせて見せますとも。お父様も是非この私の勇姿を」


「駄目だ駄目だ駄目だ———っ!!お前の身に何かあったらどうするつもりだ?怪我したら痛いのだぞ?パパンは心配で心配で…とにかく、そんな危険な事、パパンは絶対に許可しません!!」


 行く!行かない!と父娘が激しく平行線な言い争いがいつまでも続くのに呆れたラセツはカトレナをキャンプに置いて行く事を決め、アラタ騎士団6名と野良の義勇兵爵のチームも他チームから遅れながらも突入すべく出発した。




「…とはいっても、カトレナ無しってのは…正直きついところはあるのだけどね」


 アジトからまだ1㎞以上も離れた場所で突入のタイミングを伺うアラタ騎士団率いるチーム。アジトは混凝土でかっちり作られた丈夫な建物そのもので、帝国領土内の未開拓地域のさらに深い場所、荒れ果て乾いた砂岩の渓谷に作られておりその規模はちょっとした軍事基地にも匹敵するレベルにまで発展していたのだ。


「あぁ、実際あいつはこの騎士団での依頼活動に嫌々ながらも出撃させたお陰で、今ではすっかり一人前の最前衛タンクだ。ドロフィーやネムのような攻撃に専念するクラージーとの連携だってかなり上達したからな」


「…っつーか、カトレナ以外は全員地に足つけて戦わねぇだろどーせ。後ろのおんぶ組も一緒にキャンプに置いてきた方が良かったんじゃねーか?」


「ビヨンド!いっていい事と悪い事くらいの選別を…」


「いちいちビヨンドに突っかかってたらそれだけで疲れるわよトモエ。…ラセツ、どうする?」


「…どうもこうもしない、ドロフィーとネムはソロのメンバーに加わって後方で支援、俺達は各個敵を討伐する。カトレナが敵の注目を引き付けていた分は俺が引き受ける」


 ラセツの指示に全員がこくりと頷くと、一斉にアラタ騎士団率いるチームがアジトに向けて走り出した。この突撃に敵側も黙って見過ごすなんてことはなくけたたましく鳴り響くアラーム音と共に相手も迎え撃つべくアジトの外壁につけられた足場に数十人が並び銃撃や魔法を射出した。

 まず最初は高機動を誇るトモエとビヨンドが敵の集中砲火を回避しながら強引に突入し、ビヨンドが振り向き両手を前に出すとすかさずトモエがビヨンドの手に乗り、そのままビヨンドは勢いよくトモエを投げ飛ばし高くジャンプすると敵のいる外壁の足場までたどり着きすぐさま二刀流の刀で切り倒す。だがまだ敵は狼狽えることはなく武器を近接用に持ち替えトモエに襲い掛かる。だが次は外壁をよじ登ってきたビヨンドが太い腕でなぎ倒す。

 トモエとビヨンドが背中合わせに敵兵を相手取っている間もフェリスとラセツは攻撃の雨を掻い潜って接近する。そして前線で暴れる4人に注意を引き付けられ過ぎてさらに後方にいる他のメンバー達が完全に無警戒になってしまい、ドロフィーやネムを中心とした後方火力要員が一斉に魔法や重火器を射出しアジトの外壁にいた敵兵は撤退せざるを得ないほどに瓦解した。


「っは!大層な人数を集めた依頼にしちゃ歯応えのねぇ奴らだったな」


「…油断するなビヨンド!どうやら味のある連中がお出ましみたいだ」


 外壁にいた連中は撤退をしたが、今度はアジトの正門扉が開き、地上に敵兵が展開した。その数はアラタ騎士団率いるチームの数倍にも及ぶ数十人規模もの数だ。その全員が地上にいたフェリスやラセツ、さらには後方にいたドロフィー達野良の兵爵達にも襲い掛かった。

 フェリスとラセツは即座に交戦し敵の力量を図る。二人とも数人掛かりでも問題はない様子だが、フェリスは防戦を強いられラセツは複数相手している中にかなりの実力者がおり戦いは拮抗していた。だが野良の兵爵達は人数差に苦戦を強いられ徐々に追い詰められていく。


「…出し惜しみをしているつもりではないが、もはや取っておくことも出来ぬか!」


 ラセツは戦いの最中で突如として全身から魔力を噴出させ全ての力を解放させた。その力を解放した今得物である棍棒を全力で1振りするだけで実力者である敵兵を薙ぎ飛ばし、多くのラセツを取り囲む敵達を呆気なく次々と薙ぎ倒し、まさに悪鬼羅刹を思わせる圧倒ぶりを披露した。そしてあっという間に苦戦する野良の兵爵の元に辿り着きフォローした。


「…あの時のミナヅキと同じ力…」


「ぼーっと見ている暇はないぞ!我々もこの地の利を活かし援護を」


 未だアジトの外壁の足場に立ち全力を解放させた姿をじっと見つめるビヨンドと、フェリスを取り囲む敵兵に遠距離攻撃を仕掛けようとするトモエ。だが次の瞬間、2人のいる足場のすぐ真横の外壁が突如爆発し二人は黒い爆炎に包まれる。


「っっ!!トモエ!ビヨンド!!」


 フェリスはその一瞬の出来事に目を奪われた。その視線の先には…おそらく咄嗟に助けてくれたのだろうトモエを抱えたまま身体を黒焦げにされて飛ばされている意識があるビヨンドの姿だ。地面に打ち転がりはしたもののビヨンドは痛そうな反応を見せる辺りまだ大丈夫だろう。


「きゃあああああっっっ!!」


 だが今度はラセツがフォローに行った野良の兵爵達がいる方から大きな悲鳴が上がったのだ。そちらも振り向くと信じられないことに…なんと仲間であるはずの野良の兵爵のうちの一人が背後からラセツの身体を剣で貫いていたのだ。


「…まさか…義勇兵爵の中に…スパイがいたとはな…」


 咄嗟にラセツが反撃をするがそのスパイの兵爵はひらりと躱し敵の一団に加わった。突き刺さる痛みに耐えながら解放した魔力が乱れながらもなお後方のメンバーを守るべく戦い続けるラセツ。未だ倒れているトモエを守るべく応戦するが人数差に圧倒されているビヨンド…この状況で打開することが出来る人物は、打開できる方法を持ち合わせているのは…フェリス1人しかいなかった。


「…やるしかない!!」


 覚悟を決めたフェリスは敵の攻撃をひらりとかわしながら、ポーチの中からゼリー飲料を取り出した。それはかつて過去の依頼で固く頑丈な扉をぶち破るために莫大なエネルギーを放射するために使用したものだった。だがあの時とは明確に違う事がある。なんとその手には3本もの飲料が握られていたのだ。


「っま、まてっ!ダメだフェリス!!そんなことをしたら…!!」


 いつの間にか意識が戻ったトモエが倒れたまま、ビヨンドに守られながらフェリスの行動に気付き叫ぶ。だがその声は間に合わなかった。フェリスは飲料を三本まとめて握りつぶし一度に全て喉奥に流し込む…次の瞬間フェリスは突如苦しみだし悶えるが、その全身からはまるで白い魔力が溢れ自らの衣服すら切り裂く程危険な威力に敵は近づくことも出来なかった。そしてしばらく苦しんだのちに、魔力の放出が安定したのかフェリスの両肩から魔力が溢れ続けまるで竜の翼のような形となり、姿形は違えど先ほどまでラセツが身に纏っていた全力の雰囲気を湧きだたせながら、フェリスはファイティングポーズを決める。




「…あれが、あれさえあれば俺もあれだけの力が…」


 ビヨンドの瞳には苦しむフェリスなど見えていなかった。ただ無造作に捨てられた空の飲料ケースと、フェリスの腰につけられたポーチをじっと睨み続けるのだった。

次回投稿は5/17予定

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