短編11 アラタ騎士団の活動録その1 後編
「おいっ!一体どういうことだ!!何故追い払ったはずのモアがクザミメの村ではなくクザスの村を襲撃しているのだ!!」
「知らねーよ!とにかく急いで向かうしかねぇ!!」
「向かうったって!!クザミメとクザスは10㎞以上も離れてるって!!走っていったって1時間以上はかかるわよ!!」
「この未開拓地をつっきりゃ30分で着く!」
クザミメの村の畑荒らし犯と思われる野生動物モアの討伐を引き受けたアラタ騎士団の5人と国衛兵爵のルーヴはモアの群れを追い払い依頼を完了したと思われた矢先、キャンプに待機を命じていたルーヴの部下から隣村であるクザスの村がモアに襲われているという知らせを受け、一行はその足でクザスの村へと向かっているのだ。
だが6人揃って向かっているわけではなく、なんと知らせを聞いたルミナが真っ先に走り出してしまい、その後を5人が追いかける形となったのだ。
「ルミナ…お姉ちゃんぶって子供達が心配だからってこんな危険なとこを一人で走っていくなんて…」
「マアダ殿!このまま向かうより、自分とフィラーレ殿が飛べるような開けた場所を!!」
「それはそう、だがいちいち探すよりこのまま向かいながら開けた場所に行きつくのを祈った方がいい」
そうこうと言い合いながら道なき道をかき分けながら走り続けていると、視界の先に広々とした小高い段差が現れた。先ほどまで上空を遮るほど鬱蒼としていた森の中に比べコノハ達が飛び出すには十分開けていた。だがそれは野生動物たちにとっても見通しのいい狩場である事には変わりなかった。上空を覆い隠すほどのカラスのような野生動物の群れがけたたましく旋回飛行していた。
「レイブンゴラドンっ!!まさか…」
ルーヴ達はすぐに周囲を見回すと、段差を降りた先に先行するルミナの姿があった。
「いた、ルミナだ。どうやら大丈夫そうだが…ってかホタル!」
「いるよー」
「いるよじゃねーって!わりーが先行ってルミナに追いついてくれ!それとフィラーレとコノハはそこの職員のねーちゃんを連れて上空から先に村に向かってくれ」
「だけどレイブンゴラドンの群れが」
「俺がやる!!」
マアダの周りから黒い靄のようなものがいくつも飛び出し、レイブンゴラドンと呼ばれた鳥の群れは大きく避け、群れの真ん中に大きな通り穴が出来た。すかさずルーヴの腕を掴んだコノハがフィラーレと一緒に自身の背中の翼で飛び上がりゴラドンの群れの通り穴をくぐると、フィラーレがコノハの後ろから強風を発生させる魔法を放ち、猛スピードでコノハが夜の空を滑空していった。
「なんだ、一緒に行けばよかったじゃねーかフィラーレ」
「…ふん、あんたはうちの稼ぎ要員の一人なんだからこんなところでへばられたら堪ったもんじゃないの。融資の返済たっぷりあるんだから」
「へへっ、言われなくっても…ハニーを悲しませねーようにくたばるわけにはいかねーんだよ!!」
マアダ達の助力により上空から一気にクザスの村へと向かっているコノハとルーヴ、2人からはまだ村は見えても殆ど点が動いているだけにしか見えなかった。だがそれでも夜にもなったってのに村の点…人が慌ただしく動いているのが分かった。
「おっ、おもいー…」
「踏ん張れ!まだ村までは結構な距離だ」
「およよよよ~…」
ぶら下がっているルーヴに応援されながら、必死ではばたき続けるコノハ。そしてようやく未開拓地域の上空を抜けるとルーヴは手を離し地上に降り立つと走って村へと駆け出し、コノハは力尽きてそのまま地面に墜落した。
走り続けたルーヴが村に辿り着きその目で見た光景は…なんと暴れていた1匹のモアをクザミメの村に置いてきたはずのトレイスが対応に当たっていたのだ。
「っんな、き…貴様!なぜここにいる!」
「くっ…、あぁ?お前か、今手が離せないんだ!口出すくらいなら手伝ってくれよ」
モアの屈強な蹴りがトレイスに何度も襲い掛かるのをトレイスは全速力で走って離れ、魔法弾で応戦するものの強靭な肉体に弾かれ大したダメージに繋がらなかった。そしてモアがさらに嘴で追撃をしようとしたところをルーヴが間に割って入り槍で攻撃を弾いて難を逃れた。だがそのルーヴの表情は驚きを隠しきれてなかった。
「…なぜだ?何故モアが明確に村を襲い、攻撃の意志を見せているのだ?こいつらは身体は頑丈でも、戦いをしたりはしないはずではないのか?」
ルーヴは戸惑いながらもモアに応戦する。だが本来戦わない筈の敵を相手にする厄介さにうまく立ち回れず、それどころか強靭な肉体を前に弾き飛ばされてしまう。だが狙いから外れたトレイスがルーヴの後ろから呪文を唱えると、複数の鎖が現れモアを拘束した。その隙にトレイスは鞄からあるものを取り出した。
「その答えは…これだ」
「…なんだそれは…?」「モアのウ●コだ」「そんなもの近づけるな!!!」
「…俺はクザミメの村でただ呑気に足型を取ったり、糞の採取をしていただけじゃない。ちゃんと依頼の調査に則った仕事をしていたんだ。そもそもモアは相当特別な理由がない限りは村の畑を襲ったりなんかしない生き物だ」
「だが現に村を襲撃した犯人はモアで間違いないだろ」
「あぁ、だから調べたんだ…何故村を襲ったその理由が何か。その答えこそこの糞なんだ。そもそも今の時期モアは産卵の時期でもあるんだ」
「…なるほど、つまり産卵するための栄養が足りないからこうして畑の野菜を食べて栄養を取ろうとしたわけだな?」
「いや違うが?」
「違うのか!?」
「まぁ確かに栄養は足りていないのもあるだろうが…そもそも群れ全体が同じものを食べてるからその場合群れ全体が栄養不足に陥っていないとおかしいんだ。そして群れ全体が栄養不足になっても畑を襲う事はあまりない…つまりこの個体だけが畑の襲撃犯なんだ。その正体は…」
「…その正体は?」
「その正体は!産卵期に番が作れず群れからはぐれ、ストレスから過度な産卵周期に突入し攻撃性が増したいわばモテない雌の個体による腹いせで意味もなく村を何度も襲撃していたのが今回の依頼の答えだ!!」
クエエェェ———ッと雄たけびを上げて鎖を引きちぎるモア、そんなモアとは対照的に呆れとは違う、こいつ何を言っているんだと言わんばかりの何とも言えない表情のまま固まるルーヴ。そしてどこか嬉しそうなトレイスの2人を無視して村の方へと走り出していった。
「いやー、つい先日発売された『なぜ生き物は番を作るのか』の論書を読んでから実態調査したいなぁって思ってたんだよ。そしたら糞と一緒に排出されている不完全な卵を見た時から、もしやと確信したんだよねぇ~。出来ればこのままもう少し生きたままのデータを取って論文を書きたいんだが…」
「なにを…何を呑気なことを!!この阿呆!!そこまで分かってるなら私らが出発する前に一言くらい先に言え!!さっさと討伐するぞ!!」
ルーヴが街中に行こうとするモアを追いかけようとするもその足の速さはモアの方が圧倒的に速くどんどん突き放されていく。だが街の中には既にルーヴの部下が護衛に待機しておりモアをすぐに取り囲んだ。
「にゃあああああ!!」
取り囲まれたモアの元に全速力で駆け付け、通り過ぎざまに鉄の爪で切りつける。その正体はルミナだった。さらにそのルミナの攻撃の直後、巨大な土壁が上空からモアを押しつぶすようにして降ってきた。その土塊の上にはホタルが立っていた。
「…オリベ流忍法、土岩潰しの術~」
巨大とは言わないもののある程度の大きさを持つ土塊が上から降ってきたとなれば丈夫とはいえモアの長い首はへしゃげ地面に座り込まされるように潰される。さらに追い打ちをかけるかの如く、ルミナの手に闇の魔法で巨大な爪を作り出し、その爪でホタルの土魔法ごと切り裂きつぶした。
「ガキンチョ達のお家がある村なのだー!入るなー!!」
だがルミナの攻撃も虚しくモアはルミナの魔法の爪も、ホタルの土魔法も振り払い立ち上がると怒りのままにさらに激しく暴れる。その姿はこれまでモアをよく知っている軍の人間ですら見たこともない凶暴さに身震いしている。
「分かってるよ。こんな街中まで暴れているんだ。討伐しなきゃならないのはな!」
暴れるモアの背中にトレイスが跨り自分が持っていたレイピアを突き刺し、突き刺さったレイピアをまるで手綱のようにして振り落とされないように掴まる。そして背中に乗ったままトレイスは魔力を全開放し、モアに電撃を流しさらに黒い手のような影で縛り上げ完全に身動きを取れなくした。
「今だ!ホタル、ルミナ!!」
ホタルとルミナの2人がそれぞれ爪と苦無、そして高機動を駆使した連続攻撃で何度も何度もモアを攻撃し続けた。大したダメージでなくとも何度も何度も攻撃をし続けついに弱り、ゆっくりと膝が崩れ落ち、トレイスが急ぎ飛び降りるとそのままドスンと横たわったのだ。
「…今回の依頼、勝手に出しゃばった行動をしたこと、心から反省している。大変申し訳ございませんでした」
モアが討伐され今度こそ依頼が完了したことを確認し軍が事後処理に当たっている中、アラタ騎士団の面々に深々と頭を下げるルーヴの姿があった。ちなみにマアダとフィラーレはモアが討伐されてしばらくしてから地面に寝転がっていたコノハを回収し自力でクザスの村に辿り着いたのだ。そしてこれだけ大騒ぎになっていたら当然クザスの村を訪れていたミナヅキ達も気付いており、最終的な結末を見届けたタイミングで顔を出しに来たのだ。
「我々軍の役目は義勇兵爵が快適な依頼活動を勤しむためにサポートをする事。それなのにあろうことか部下達の指示役を任されている責任者の私が自分勝手な行動で部下の元を離れるなど…本来あってはならぬこと、この1件は自らの戒めとして自分から嘘偽りなく報告することを約束する。完成した報告書もちゃんと送付させていただく」
「生真面目ね~。まぁそりゃトレイスの調査を待てばこんな遠回りは必要なかっただろうしね」
「…返す言葉もない。お詫びとなるならどんなことでもやる覚悟だって」
「マジか、ならまずは俺達アラタ騎士団の宣伝と評価をっっあいて!何すんだよミナヅキ!!」
「こーゆー時そんな真に受けた発言すんなトレイス。世辞だぞ」
「…いや、クザスの村に部下達を派遣したのもトレイス、お前の指示だと聞いた。その洞察眼と判断力、それとモアを討伐した実力はしっかりと高い評価として報告しよう」
まさか自分がこれだけ褒められることに照れるように戸惑い、周りからもからかうようにちょっかいを出す。すると徐にトレイスはみんなから離れて荷物から何かを取り出し、布に包まれたようなものを持ってくる。それをルーヴに突きつける。
「…ほ、ほら、これやるよ。落ち込んでいる時は旨いもん食うと元気になるって言うしな?」
「…すまないな、感謝する。案外気の利くことも出来ると追加しておかないとな。…ところでこれはなんだ?なんだか冷たいような、加工したものとかじゃなさそうだが…」
「あぁ、それペガサスの〔ピ——〕だ。滅多に出回らない代物で滅茶苦茶貴重なんだ。勿論食用品だから安心してくれ。火さえ通せば普通の肉みたいな調理法で構わない。意外にも味は淡泊って話で滋養回復効果もあるんだってさ。それでな…って、どうしたみんな?」
「………お、…お前…おまえぇぇ
「「「「「「お ま え っ て や つ は ————— っ ! ! !」」」」」」
次回投稿は5/13予定




