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短編11 アラタ騎士団の活動録その1 前編

「オーラーイ、オーラーイ…オッケー!撹拌量調整、すぐにアンカー下ろして!船底に着船台固定するまでそのまま待機で~」


 夕焼けに染まる空、すぐ近くに村が見えている広い原っぱのような場所で俺の声に船が滞空したままピタリと止まる。地面との幅は1m程…俺は手をあげるとすぐに地上にいた人達がすぐに船を地上に置いておくための土台を持ってきた。船のすぐ真横で魔導ブルームに跨りながらその様子を見届けた俺は通信を切りゆっくりと降下し地面に着陸する。船体から階段が現れるとそこから俺の仲間たちが一斉に降りてきた。


「お疲れマアダ、初運転はどうだった?」


「あぁ~、まぁまぁだな。まぁこれからも俺が舵きってやってもいいぜ」


「帆浮船の運転はいいけど、絶対にぶつけたりしないでよね!まだ事業がちゃんと成功するか分かんないんだから…うまくいかなかったら買い替えできないからね!!」


「わぁーってるってフィラーレ…大事に使わせていただきますよ」


 マアダを中心に俺達『アラタ騎士団』の団員メンバー達が次々と降りてくる。


「はぁ~、一か月ぶりの故郷の村か…にしても自分で運転せずに来たのは初めてだな」


 そういいながら降りてきたのは今回の依頼目的地に一番近い村、クザミメの村出身のトレイスだ。約一か月ぶりの帰郷も兼ねているためみんなよりも荷物が多い。そんな様子を見ていた軍の関係者達ではない一般の、クザミメの村の領爵主でもありトレイスの父親であるトーマス先生が出迎えに来ていてくれてたのだ。


「よく帰ってきたなトレイス。今回は運転しないで来てくれたから安心して待っていれたぞ。すぐうちに行くか?」


「今日は仕事で来てんだ親父…悪いけどこのままみんなと一緒にいるよ」


「トレイス!トレイス…ちょっと来なさい」


 トーマス先生がトレイスを呼びながら自分から駆け寄り、トレイスに耳打ちしながらチラチラと他の団員メンバー達を見る…その視線の先には、同じく依頼参加者のホタルやコノハ、フィラーレがいた。


「な、なんだよ親父…」


「…あのお友達は、まだお相手はいない感じなのか?」


「やめろよ親父ぜってー恥ずかしことすんじゃねーよ!!」


 トレイスがトーマス先生と何か話しているのを聞かなかったことにして、俺は船にブルームを置いてきて、降りてきた子供達の点呼を取りながらトレイスに近づく。


「それじゃトレイス、後の事は頼んだぜ」


「あぁ、そっちも気を付けて帰れよ」


 俺達は簡単な挨拶を交わすと、軍のキャンプが立ててある場所から一台の車…八人乗りのレンタカーがこっちに来て停車し、運転した人と俺が入れ替わり、後ろにバーケニーさんとティラ、それから子供達を乗せまだ明るいうちに急いで出発した。


「ん?ミナヅキ君達は一緒じゃないのか?」


「あいつらはクザスの村に行くってさ。子供達も一旦家に帰らせてあげたり、なんか事業の関係でヴィレインさんと打ち合わせするだとか…」


 車が去った後残されたのは、トレイス、マアダ、ホタル、コノハ、ルミナ、フィラーレの6人だ。だがフィラーレはどこか機嫌が悪そうだ。


「だいたいなんで私が依頼に出なきゃならないのよ…私が事業の打ち合わせに顔出さないで依頼に参加って」


「仕方ねーだろフィラーレ…よりによってウルヴァ達が昨晩飲み潰れて今日の依頼すっぽかすことになったんだから」


 機嫌を悪くしたままのフィラーレを慰めていると、一人の女性が歩み寄ってきた。長い槍を手にしている黒いポニーテールの中に狼のような耳が飛び出た、背丈や胸が大きい軍服のようなものを着ている騎士団員達とだいたい同い年くらいの女性。他の国衛兵爵達が深く頭を下げているあたりかなり格式の高い兵爵の人だという事がわかる。


「諸君、よく集まってくれた。私の名はルーヴ。今回の依頼を任されている責任者だ。今回の依頼についてだが」


「あー、それについては依頼主である私から話をしよう」


 ルーヴと名乗った職員の言葉を遮ってトレイスの隣に居たトーマス先生がゆっくりとみんなの前に立つ。


「私はこの近くにあるクザミメの村で領爵主をしているトーマスと申します。今回のご依頼ですが…去年から私のクザミメの村や近隣の村でモアと思わしき野生動物に畑の柵を壊される被害が相次いでいた。これまでは術式罠を使って追い払っていたのだが、ついに一昨日畑が荒らされる被害が出たため今回軍を通して皆様に侵入者の討伐をお依頼したという流れですね」


「一応軍からモアについて説明すると、全長が2~3m程の翼の退化した大型鳥型ゴラドンで比較的人を襲うことが滅多にない性格をしているがその実全身が筋肉の塊でちょっとした衝突で命を落としかねない危険な野生動物の一種でもある。とはいえまだモアの犯行と決まったわけではない…最悪さらに危険な生物や人による犯行の可能性もあるため心して依頼に臨んでくれたまえ」


 一連の説明を受け終わったトレイス達は乗ってきた船から荷物を下ろし依頼の準備をする。少し経った後一同は畑へと向かい調査を行った。地面に残った足跡や破壊された柵の位置からだいたいの侵入方角、そして脱出後に逃走した方角もおおよそ判明した。フィラーレとコノハは自らの翼で上空へと飛び逃げていった方角を眺めるが、ただ森が広がっているだけで何もおかしなものは発見することが出来なかった。


「成程…ならば直接捜索に向かうしかないようだな。…ところでおまえは何をしているんだ?」


 何故か騎士団に同行しているルーヴがトレイスの不審な行動を目にする。


「何って、足型をとってんだろ。あと糞の採取もしときてぇし…あ、コノハそこの壊された柵も写真撮っといてくれ」


「…随分呑気なものだな、そんなお遊びの為に大事なお友達や我々の貴重な時間を無駄にして」


「お遊びなんかじゃねぇよ、調査は大事な事だろ。こういうところから分かる情報もあるんだよ」


「そんな情報など今必要ないだろ!さっきは他の可能性も疑えとは言ったがこの足跡は間違いなくモアのものだ!さっさと討伐に向かえ!!」


 そうこうと言い争っている二人を遠目に戸惑うマアダ達5人。


「…もういい!貴様はそこでそうしているがいい。この男に代わって私が依頼を手伝ってやろう。すぐに討伐に向かうぞ!」


「ま、待ってくださいルーヴ隊長!国衛兵爵である我々が依頼に動くのは原則禁止されています!!」


「わかっている!お前達は引き続きキャンプでの見張りと村の護衛をしていろ!私一人が同行する!!あのバカ以外、他の騎士団員で異論ある奴はいるか」


「えっ、あー…うーん…」「どうするのだー?」「まぁ…いーんじゃない?」


「ならば早速出発するぞ!!」


 半ば強引にルーヴの指示で出発を開始したトレイスを除くアラタ騎士団。6人はすっかり日が沈みそうな薄暗い未開拓の森の中に携帯電灯を手に足跡を辿っていった。森の中は少し湿気のせいなのか日が入りにくいからなのか少しじめっとした地面が続き、そんな足場を歩くのを嫌がっているフィラーレはパタパタと飛んで同行している。


「ふあぁ…ルミナちゃん、眠たくない?だいじょーぶ?」


「えへへ、夜の依頼はティラが元気になるのが面白くていっぱいしてきたから慣れてるのだ~」


「…私はねむいー」


「いやまぁホタル殿は鬼人種故に夜行は苦手なのは分かりますが…くノ一の格好で眠いと言うのはいささかどうかと」


「…お前達、随分仲がいいのだな」


「ん?へへっ、まーな…っとぉ」


 道中6人が楽しそうに話しながら進んでいると、突然前を歩いていたマアダが全員に制止させるため腕をあげる。全員が電灯の光を弱め静かに歩くと、その進行方向の先にはモアの群れが座っているのが見えた。眠っている様子はないが、こちらの様子を発見してもすぐに動こうとはせずじっと座ったままだった。


「…あれが村を襲ったモアで間違いないだろうな。討伐の許可が下りているとはいえ群れを全滅していいという訳ではない。頭の悪いモアでも群れの仲間が数匹斃れればこの村近隣を縄張りにはしなくなるだろう…皆準備はいいか?」


 冷静に突入を促すルーヴに対し、団員達はどこか乗り気でない様子を見せている。


「…ミーはやりたくないのだー」


「はいはい、ルミナちゃんは私と一緒にいましょうねー…マアダ!」


「わーったよぉフィラーレ。コノハ、ホタル、フォローを頼む」


「撮影ですね。お任せあれ!」


 両手にジャマダハルを構えるマアダと苦無などの暗器を手に持つホタル…そして何故かモアにカメラを向け眩しいほどのフラッシュの閃光がモアの群れに飛び込んだ。直後モアたちが激しく飛び上がり驚き群れが一斉に暴れ出した。


「おい!お前何をやっている!!」


「いやぁ~トレイス殿に頼まれてですね。モアの群れの写真を撮っただけですよ~。それと、動いていないモアの群れを襲おうとすると、あんな感じで突然暴れ出し巻き込まれて非常に危険なのでこうして遠くから驚かせておいた方がかえって安全ってトレイス殿が言ってたのですよ」


 コノハの言葉を聞きながらモアたちの様子を眺めると、身体をぶつけた大木がミシリと曲がり、頑丈そうな倒木は簡単に踏み砕かれた。もし至近距離であの大暴動に巻き込まれていたら間違いなくひとたまりもない…とルーヴはごくりとつばを飲み込んだ。そんなルーヴの隣に並び立つホタルは何やら術式を構成し手を地面につけると、2匹のモアだけを分断する土壁が群れの中にそびえ立ったのだ。


「よしご苦労…2匹狩りゃあ充分だろ!」


 マアダがジャマダハルで片方のモアに斬りかかるのを見て、ルーヴも遅れまいともう片方のモアを槍で攻撃した。二人の攻撃は固い筋肉の身体に弾かれつつもなんとかダメージを与えられはするものだった。さらにコノハやホタルの援護もありつつ暴れるモアの攻撃をいなし、40分の激闘の末なんとか2匹を討伐することに成功した。その頃には他の群れのモアは残らず逃げ出していた。


「ふぃ~…何ちゅータフさ。1匹2匹狩るだけでもこんなしんどいのかよ」


「…だがこれで群れは村近くに近づこうとはしなくなる筈だ。皆ご苦労だったな、案外呆気なく終わったが」


 ルーヴの締めの言葉を聞く5人だが、お互いに顔を見合わせどことなく不安そうな表情をしている。するとルーヴの腰につけていたトランシーバーがけたたましく鳴り響く。


「たっ、隊長!!モアが…、…クザ…」


「モアなら問題ない。騎士団と共に数匹ほど討伐し群れを追い払った。依頼完了を見届けた。お前達はキャンプの撤去作業を始め遺体を回収しに来てくれ」


「…それどころじゃ…、………の村が襲われてます!!」


「…村が襲われてる?馬鹿いえ、クザミメの村方面からモアの群れまで真っ直ぐ来たが、その方角に向かうモアは1匹も見ていないぞ?」




「違います!クザスの村です!クザスの村に、モアがっ!!!」

次回投稿は5/10予定

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