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短編10 ソロ義勇兵爵キーウの活動録その1 後編

 午後3時、私は依頼中不審な行動をしている義勇兵爵の一団を見かけ、同じ依頼で同行していた騎士団に軍への報告を任せ単独で後を追うことにした。未開拓エリアである森の奥に入っていくところまでは見えていたが、森の中では姿が見えなくなった。私は10人程のメンバーで動いている彼らが通った形跡だけを頼りに、見つからないよう気付かれないようゆっくりとその後を追い続けた。

 とはいえ姿が見えなければ正確な距離感も分からない。そもそも後を追っていると思っていた道を間違えて自分一人が迷子になっている不安、そして既に仕事をこなしている故の疲労感、極めつけは肉体的ピークが過ぎた年齢からくる心身の限界…私が後を追うなんて託けたが、騎士団の人達に任せるべきだったと、倒木に腰を下ろし激しく後悔している。


「うわああああぁぁぁ————っ!!」


 突如森の中に響く声に、驚きはしないもののゆっくりと重たい腰をあげる。どうやら私が迷子になっていないみたいで安心した。私は荷物の中から随分年季の入った刃こぼれだらけの剣と虫食い穴の開いた盾を取り出し構える。遠くの木々の陰からゆっくりと人影が見えた。こちらに向かって慌てて走るその姿が徐々にくっきり見えるとその姿は…今朝言い争いをしていた一団のうち雑用リーダーと呼ばれていた男だった。


「う、うわぁ!ひぃぃぃ!!」


「あ、ちょっ…」


 その男は私の顔を見るなりすかさず別の方向へと曲がり逃げ出した。その様子からいくつか考えられることは出来る。私を他国からの侵入者か野盗とかの先ほど戦っていた敵と見間違えただの、私すらも敵と認識してしまうほどの錯乱状態だっただの…まぁ、一番しっくりくる答えとしては私を軍の人間…追手だと勘違いした事だと思う。だとしたら彼らのしていることはおそらく後ろめたい行為…違法行為の可能性が高く、そこで彼が逃げ出したのだろう。

 するとガサゴソと茂みが揺れるのが見えた。その揺れはまるで男を追いかけるように動いて見えた。私は魔法弾を茂みに放つと、キャゥンと鳴き声があがった。そしてゆっくりと茂みの揺れが私の方に向かって歩いてくると、茂みから犬のような姿の野生動物が姿を現した。


「まさか、スカベンジャー…狩りをしていたという事でしょうか?」


 スカベンジャー…貧弱な身体のせいで群れから追い出されたウルフであり、他の野生動物の食い残しを漁る野生動物。とはいえ元はウルフ、本来怯えた様子をしている筈のスカベンジャーが興奮状態であの男を狩ろうとしていたため彼は走って逃げていたのだろう。

 だが、そんな考えている余裕もないだろう。茂みから次々とスカベンジャーが姿を現し、4匹の群れとなった。4匹とも興奮した状態で私をじっと睨み今にも食い殺そうと震えていた。


「やれやれ…戦闘はあまり得意ではないのですがね」




 午後4時30分、スカベンジャーとの戦闘から30分費やしてなんとか2匹を討伐。残りの2匹はすっかり怯えた性格に戻り私から逃げていった。私も永い戦闘ですっかりくたくただが…それでもあの一団を追いかけなければならない。スカベンジャーがあれだけ興奮状態になっていただけの理由が彼らにはきっとあるはずだ。私は荷物の中から発煙筒を取り出し発火させるとモクモクととても自然色とは思えないカラフルな煙が立ち上った。時間的にもまだ遠くからも見つけてもらえるだろう。私はスカベンジャーの遺体に私の名前の入った討伐証明書を書置きと一緒に紐で括り付け先を急いだ。




 午後5時、ついに彼らに追いついた。…追いついてしまった。それは目を覆いたくなるような悲惨な惨劇だった。その場所だけがまるで何かと戦った後かのように異様に木々がなぎ倒され、数人がその現場に倒れていた。その中には…既に手遅れのものもいた。私はこのソロとしての義勇兵爵活動を10年もやってきてそれは何度も見てきてはいたが…今でも慣れることはない。幸いと言っていいかは分からないがスカベンジャーが彼らを襲っていなかったのが不幸中の幸いだっただろう。ここに居残るより一足先に逃げ出した男を標的にしてくれたおかげなのかもしれない。

 だがそれよりも、私が最初に彼らを見た時の人数と、ここにいる倒れた人の数…逃げていた男を加えても数が合わない。そして何よりも、ここで戦っていた相手の正体が分からない。仮にスカベンジャーだとして並の戦闘が出来る兵爵が負けるようなことは考えにくい。それなのにこれだけの被害を出した相手がここにいないとなると…


「うっ…」


 すると一人の男の小さなうめき声が聞こえ、私はすぐに駆け寄って彼を介抱した。


「大丈夫ですか…何が、いえ…何と戦っていたのですか…?」


 酷く負傷をしている男はダメージから目を見開くことなく唸り声のような、まるで独り言のような小言を発する程度だ。私は必死にその男の言葉を聞こうと耳を近づける。


「…り、リーダーが…まだ、……マストドンと…」


 それだけ言い残し男の身体から力が抜けるのが感じられた。それ以上に私はその言葉に旋律を覚えた。

 マストドン…それは体長が5mをも超える巨大な野生動物、その皮膚はいかなる武器や魔法、攻撃を通すことのない天然の鎧、その巨体から繰り出されるただ身体を振り回すだけの行動すらも命を簡単に奪い去る強力な攻撃と化す。そんな恐ろしいまさに怪物と呼ばざるを得ない存在を相手に、私はまだ戦闘が行われているというリーダーと呼ばれた人物の救出を模索しなければならなかった。…いや、戦闘とも呼べるかも怪しい。一刻も早く救助に向かう必要すらあった。




「いよぉうキーウ大先生、まさかあんたからの救援要請とはな…いつぶりだけひゃひゃ」


「やぁダチュラさん…ふた月くらいの間隔でお願いしていると思いますが、今回もお願いします」


「あーん、そーだったかなぁ~?けっひゃっひゃっひゃっひゃぁ」


 午後5時30分、私の元に応援隊が私に追いついた。応援隊は6人の騎士団と2人のソロ義勇兵爵で構成されていたが、その応援隊の中に1人紛れる異様な存在感を醸し出す男が一人いた。彼はダチュラ、義勇兵爵ランキング57位でありソロで活動している中では間違いなくトップランカー。私が1日に2つの依頼をひぃひぃ言いながらこなしているのに対し、彼は参加者が少なく失敗するだろう依頼に急遽飛び込んでは5つも6つも依頼を解決する。こう表現するのもなんだが残り物処理の大ベテランだ。彼くらい依頼を大量にこなせれるとなると軍からは最高待遇を受けれるし私生活だって楽しいものだろうな…ソロの義勇兵爵の手本のような人なのだ。

 とはいえ日没までの時間もあまりない。私は騎士団の半数にこの場に倒れている人達を任せつつ、ダチュラさんと残りの騎士団のメンバーにマストドンと戦っているという事実を伝えると全員が顔を引きつったような反応を示した。


「…マストドンか…、今ここにいるメンツでも倒すのは無理だな。俺様も依頼で疲れてなきゃ…やれなくもないだろうが」


「マストドンを倒す必要はありません。目的はマストドンと戦闘をしている人の早期救出…全員の保護さえ済めば対処しない方針で問題は無いのです」


「そーいやぁ別に討伐依頼とかじゃなかったかぁ…けひゃひゃ、つい倒す算段で考えちまったぜぇ」


 そんな受け答えするダチュラや騎士団と救助の策を考えつつ走っていると、突然騒がしかったダチュラが黙り進行を止める。全員が茂みに身を隠しながら向かう先を警戒すると…その先には一匹の興奮状態のマストドンが、長い鼻を駆使して人間を捕まえ振り回している姿が発見された。マストドンはその人間をとにかく振り回して暴れている…生死の確認などしている様場合でもなかった、一刻も早く救助してやらねばならない状態であった。


「…ダチュラさん。私が囮をやります。その間に救助を」


「オッケーだ。全員よく聞け…救助時間は1分だ。1分後に全員撤退しろ!どんな状況でも、だ…いくぞっ!!」


 ついてきた全員が頷き即散開を始める。私の見立てではおそらく並の兵爵ではない、凄腕の人材達が揃っているのがわかる。とはいえ私だって実力で劣っても経験で負けるわけにはいかない。武器を手にマストドンの正面に立つ。まさに怪物と言わしめるマストドンのその恐ろしい姿に私は委縮してしまいそうな気持ちをぐっと奮い立て、その動きをじっと凝視する。

 マストドンの最初の動きは、まずは一番の特徴である長い鼻を振り回し薙ぎ払う攻撃。その攻撃は見てからでは絶対に間に合わないものを、私は先んじでそう来るだろうと予測し回避に徹する。案の定マストドンは人を捕まえたままの長い鼻で攻撃をしてきた。

 2撃3撃目は鼻だけでなくその大きな牙すらも振り回し襲い掛かる。他の仲間達も左右から攻撃を仕掛けるがマストドンの厚い皮膚にはほとんど無傷と言ったところ…私は剣と盾で何とか攻撃を凌ぐ…残り30秒、まだ救助が出来る感じではない。

 4撃目はその巨体を最大限にまで活かし全身での突進…を予見した。ただの憶測でないにしろ一度走り出せば防ぐことも躱すことも不可能な即死攻撃。だが私はその攻撃にこそ活路を見出していた。私は即座に剣も盾も身を守るための壁として使いマストドンに直進した。性格には真正面ではなく横に逸れて…マストドンと衝突した。真横に弾かれ激痛は走るものの被害は最小に抑えたつもり、剣は曲がり盾もへしゃげたが私はマストドンの強烈な一撃をやり過ごすことに成功した。これが10年間騎士団に所属することなく、ただひたすら一人で仕事してきた…戦い続けてきた。誇りなどではない…私のあがきなのだ。


「ひゃはぁ!今だぁ!!」


 標的を見失ったマストドンが突撃を止めた直後ダチュラさんが即座に手にしている処刑鎌による分厚い皮膚をぶち破る強烈な一撃を叩き込むことによってマストドンの鼻に囚われていた男が解放され、即座に他の応援隊メンバーによって回収が完了した。1分経過するまで残り2秒しかなかった。

 すぐさま全員が走り出し逃げ出すが怒り狂っているマストドンが逃がすわけなかった。すぐさま近くのダチュラさんに襲い掛かろうとするが…攻撃が命中したダチュラさんの姿はまるで塵のように霧散しその姿は消えた。そ一瞬の隙に全員が戦場の離脱に成功していたのだ…




「けっひゃっひゃっひゃっひゃぁ。さっすが大先生、やっぱ信頼できる大人ってのは偉大なんだなぁ~」


「ははは…ダチュラさん程ではないですよ…」


 午後7時…あたりもすっかり真っ暗になったがなんとか無事全員未開拓地から脱出し、軍の携帯電灯の明かりに照らされながら保護された。…残念ながら全員が生きてという訳ではないが…。

 軍は既に逃げてた男を取り押さえ先に事情聴取を済ませており、案の定というか不審な行動をしていた一団は依頼を通さず無断での狩りを行おうとしていたのだ。実力不相応であるにもかかわらずマストドンを討伐することで自分達の実力のアピールをするのが目的だったらしい。生き残ったメンバーは今後ソロでの兵爵活動をするのは難しいだろう。引退か騎士団に所属し活動が制限されるか…。いやもう私にとってはどうでもいい事なのかもしれない。後の事は全て軍に任せることとした。騎士団の団員達と別れすっかり疲れ切った私は軍の送迎車の椅子でうとうととする。すぐ隣でダチュラさんは女性をはべらせながら酒を飲んでいる。一緒にどうだと誘ってくるダチュラさんには申し訳ないが、この歳で仕事終わりに酒を飲むのが辛くなってきたので遠慮させてもらうことにした。




 午後8時…私の長い1日がようやく終わった。私は軍の宿泊施設に到着後私と同じようなソロの義勇兵爵達と一緒に疲弊しきった体を布団へと投げ捨てた。…晩飯もシャワーも目が覚めたら全部済まそう。

 こんな大変な生活を毎日して、どうして私はソロ活動をやめないのか…何度も何度も考えたが、きっと人が居なくてはいけない大事な立ち位置。ダチュラさんや他の一流ソロ兵爵達だけでは人の数が足らない、その一人分を補っている…頼られ断れない私がいる…多分今後も幸せになることはないだろうが、この帝国の為に、幸せになりたい人たちの為に私は明日も頑張る…そう考えながら今日も眠りにつくのであった…

次回投稿は5/7予定

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