短編10 ソロ義勇兵爵キーウの活動録その1 前編
午前5時30分、起床。いつもと変わらない1日が始まる…先日の依頼の疲れがまだ回復しきらないまま私はベッドから身体を起き上がらせる。自室を出て同じ起床時間の他の人達に小声で挨拶を交わして男性用シャワー室で軽く身体を洗い流す。個人風呂なんかも考えたが、自分の働き方からしたらそんなもの買っても使わずに痛むだけだと考え結局今の共同シャワーで済ませるだけで充分になった。
脱衣室で鏡に映る自分の姿を確認する…すっかり痩せこけた髭面のおっさんに成り果てたものだ。義勇兵爵として活動を始めたのが17歳だった。あの頃は私自身キラキラと輝いていたが、今ではもはや27歳。私と同じようにソロで活動を始めた同期の義勇兵爵はもう誰一人といない。騎士団からのスカウト、結婚、あとは酒の飲み過ぎのやんちゃ…まぁ色々あるが10年という歳月は私からの全てを失うには充分な時間だった。そう思いながらすっかりガタのする身体に仕事着として使っている軽装鎧を着込む。
午前6時30分、私は軍所有の共同宿舎から飛び出し都内市電に乗り込む。中は既に他の客が座っており他に空席がないため仕方なく立ちながら街中を通り過ぎるのを電車の中からぼーっと眺める。まだ朝飯を食べていないからぐぅ~と腹の音が鳴り響く…とはいえこの歳では食べたいという気がわかないのだが…
午前7時、軍の集会場に到着。空腹のまま私はまっすぐ受付に向かう。受付をしていた職員は私の姿を見るなり大慌てで山積みの書類をどかし準備を済ませる。
「おはようございますキーウ様!今日もお越しいただきありがとうございます。…差し出がましい事かと思いますが、そろそろお休みされてはいかがかと…」
「あぁ、いえ…気にしないでくれ。もう休みあっても休めれない身体になってしまいましたから…仕事をしていないと」
「いえいえ、そんな。よろしければご結婚などはどうですか?キーウ様となら是非と言う女性うちの職員の中だけでも何人もいます。あ、新居とかもどうですか!?キーウ様の貯金額とお休みを含めた今後の稼ぎからしても奥方2~3人子供部屋ある立派なお宅こちらで準備致しますよ!!」
…すっかりうきうきな受付嬢とは反対に苦笑いをしてしまうたじたじな私…私のようなおっさんがそんなモテるわけない。これは私の貯金と、そして私の今の仕事をやめさせないために縛り付けさせるための軍の指針だと思っている。
「あぁ…ま、また今度考えるよ。今日の仕事は?」
私の返事にどこか残念そうな受付嬢は数枚の書類を取り出し手渡す。
「本日の開始予定依頼と、おそらく不足人数分がある依頼です。今日もいつも通りで?」
「はぃ…ありがとうございます」
私は依頼書を受け取り近くに空いていた席に座る、依頼書の内容は報酬が旨くないか重労働と思われる所謂不人気な物ばかりだった。
それもそのはずで帝国の依頼システムは軍が依頼を作成したらまず先に騎士団へと打診されるのだ。騎士団は団員数が最低16人以上いなければ正式に結成出来ないというルールがあるが逆を言えばそこに16人もメンバーが揃っているという事だ。お互いの力量なども把握し騎士団ならではの動きも確立している。移動手段も物資なども騎士団が把握しているため個々人での力量や物資の差を考慮せずに軍は準備が出来るのだ。
そうなると必然的に人気の高い内容の依頼は騎士団にとられ、残り物依頼を私みたいなソロの義勇兵爵が掴まされることになるという訳だ…そのため依頼を積極的に受ける義勇兵爵数十万人のうち騎士団に所属しないで活動する人は1万人いるかどうかといったところだろう…。そりゃあ軍も私のようなそんな残り物ばかりを10年もやり続ける変わり者は縛り付けておくに限るだろうな…。
「あの、私達ドン将荘のグループなのですが!6人分の入団希望の書類を」
「も、申し訳ございません…ここは依頼管理の窓口でして、騎士団の事についてはこの地図の案内にあります窓口でお願いします」
なんとなく声に釣られ周りを見渡したら今日もまた野良の義勇兵爵グループが騎士団への入団を決めているのが見えた。他にも怪我で依頼に行けずに燻ってそうな人もいる…そのうちあの人もこの集会場に来なくなり他で稼ぐのかもしれない。そう思いながら周りを眺めていると、なにやら揉めている一団を見かけた。
「だーかーらー、俺達はみんな平等、みんなリーダーみたいなもんだって言ってるだろ。俺は戦闘リーダー、ミカやカナは魔法と会計、みんなにもそれぞれ役割があって、んでお前は雑用リーダーってわけだ。だからお前が責任もって雑用全部するんだよ」
「そ、そんなこと言ったって…僕の仕事が多すぎるよ。それに買い足したい物資があるのに報酬分少なくて…」
「平等だからしかたねーだろ。それより早く出発準備を済ませておけよ」
…あまり深入りするつもりはないが、彼らみたいな責任を人に押し付け合っている構図のチームでうまくいったケースを私は見たことがない。騎士団は必ず団長という最高責任者を立てているし、非正式なグループだとしても誰かしらまとめるためのリーダーは存在する。そして最終的な責任はそのリーダーなりトップが受け持つものだが、彼らの様子は面倒を人に押し付けて任せきりにして、何かあれば雑用リーダーと呼ばれた人に責任を押し付けるようにしかみえない…まぁ私には何の関係もない話だが…
「俺達は騎士団なんかにはなる必要なんかねぇ、俺達は最強だ!兵爵ランキング首位を俺達で独占してやろうぜ!!」
そんな風に見ていた彼らだったが職員に呼ばれて10人程のメンバーで出発していった。それとほぼ同時くらいのタイミングで別の職員が私の朝食を運んでくれた。一口サイズに切り分けられた硬めのパンに芋のポタージュ。私はパンを温かいポタージュに浸して食べるのが朝のルーティーン。価格はだいたい一日の稼ぎの2割前後といったところだ。
ランキング首位の独占…私が若い頃は同じように目指していた仲間もいたが、どだい無理な話だった。そもそもソロで活動してランキングに載っているのが10人前後…今なおソロで活動してランキングに載ったことがある人だけでも50人もいないだろう。義勇兵爵ランキングの殆どが騎士団に所属している人で埋まっている。その理由は騎士団にいた方が軍は管理しやすいだの、何かあった時の責任を請け負う人が居てくれる為なるべく騎士団に入って欲しくて騎士団に所属している人を贔屓してるなど、そんな邪推からいつの間にか私はランキングを見なくなったものだ…。
午前8時30分、朝食も食べ終え充分消化し、そして私が参加する依頼も受理されてからだいたい一時間後。同じ依頼参加者たちと一緒に軍の送迎車に乗り込む。車の中には私含め六人の依頼参加者と運転手が乗っており、荷物はトランクか車の上に乗せる…もしくは特殊な魔法道具で車体横に固定して走るそうだ…そんな大きな武器をソロで持ち歩いて使っている人は指の数程の人しか見たことがないが。
今回の依頼は輸送トラックの護衛…ではあるが予測護衛時間は2時間もかからず襲撃リスクはかなり低い。つまり二時間ただトラックに乗って運ばれるだけの暇な仕事。さらに依頼主によっては襲撃されてないなら体力有り余っているだろうって事で積み荷下ろしも手伝わされることもあったりもする…こういった不人気な依頼も引き受けなきゃいけないのがソロの辛い所だ…
「キーウさん!これ食べます~?」
「え、あぁ…ははは、いいのかい?それじゃあ一つだけ…」
今回一緒に参加してるメンバーは私の年齢の半分くらいとも見える若い子たちばかりだ。彼らもきっと兵爵として輝かしい未来への渇望を持って依頼を受けているのか、それとも暇を持て余していたから依頼を受けてくれたのか…それは分からないが行きの車の中で楽しそうにお菓子を配り回して楽しそうに談笑をしている。気さくに私にも声をかけてくれたが、私が若い子の話題にぐいぐい首を突っ込むわけにもいかないので、程々の熱意で会話に混じる。
午前11時…依頼完了。案の定護衛は無駄に終わったと言っていいほどの安全な旅。そして積み荷下ろしも手伝わされた。行きの車の中では楽しそうにしていた若い子たちも終わる頃にはすっかり話す話題も尽きてやっと終わったかというようなぐったり感を出していた。トラックに乗っているだけなのは楽な仕事を通り越してただただ苦痛な時間そのものだからな、彼らの気持ちは痛いほどわかる…こんな仕事が何日も何年も続く、そう考えただけでソロ活動するより騎士団に入った方がいい、他の爵位としての生き方の方がいい…だから野良の義勇兵爵は長続きはしないのだと…。私は若い子達に代わり軍への報告に向かい、全員分の報酬の振込も済ませる。それから軽めの昼食を挟みながら午後の依頼の為に軍が出してくれる車に乗り込む。
午後1時30分、これだけでは稼ぎが渋いので場所を移して次の依頼に参加。今度は帝国領内の帝都郊外パトロールだ。都市から都市へ物資を運搬する舗装された道沿いから不審な人や物を探すという内容…とは言ってもこちらもただ道沿いに沿って歩くだけ、午前中のメンバーの子達とは別れ今度はとある中堅の騎士団メンバーと一緒に活動をしている。見かけるのは帝国の住民がトラックで物資を運んでいる所か、もしくは軍の車両が走っているくらい。野生動物もジェリーやタツノイミゴ、大きめの虫ばかり…こんなのでも無闇に討伐すれば罰則金が発生するので見かけた数を数えて報告するだけ、数が多い時しか狩ることが出来ないのだ。ごくたまに上空をゴラドンが通過したり、未開拓地に珍しい生き物がいたりすると少しばかり楽しい気分になれる。
だが、今日に限り見たくないものまで見えてしまった。今朝揉めていた一団が未開拓地に入っていくのが見えた。本来なら依頼形式として軍のキャンプが設営されていてもおかしくない筈なのに、そのようなキャンプはどこにも見当たらなかった。私と一緒にいた騎士団のメンバーも彼らの行動には不審に思った。そこで私は急遽単独で彼らの後を追い、騎士団にはすぐ軍に連絡を入れてもらうことにした。
今日はとんだ厄日になりそうな予感がする———…
次回投稿は5/2予定




