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短編7 『白翼騎士団』の活動録その1 後編

 「うおおおおおぉぉぉぉおーっ!!」


 16名の兵爵達が一小隊となって陣形を組み、自分達の倍以上もある猪に似た野生動物『ボア』5匹を相手取る。単純な話一匹に掛けられる戦力は3人、ボス個体には4人で対応しなければならない。当然お互いの個々の能力差や相性で結果は変わるだろうがそれでもそもそもボア一匹に対して3人というのは人間側の戦力が足りていないのが一般的だ。

 だがそんな力の差を後方で支える力が、歌がそこにはあった。背中に白い翼を持つ男女8人で構成された『白翼騎士団』による洗練された聖歌による『歌魔法』だ。この歌魔法は16人全員が各々の出せる全力以上のパフォーマンスを発揮させ人数による不利を覆し対等に戦うことが出来るのだ。

 盾を構えるストライダー兵爵やサポーター兵爵は本来受け止めきれず突き飛ばされてしまうボアの突進をなんとか受け止め、強力な一打を打ち込むグラップラー兵爵やクラージー兵爵はその分厚い筋肉の身体に弾かれることなく貫き確実にダメージを与えていた。

 だがボア達も決してそんなやられっぱなしで終わる生き物でもなかった、闇雲に突進しては盾で攻撃を受け止められる攻撃を繰り返すと、一人の兵爵の女性がついに突進に耐えかね尻もちをつく形で体勢を崩してしまう。そこをボス個体のボアは見逃すことはなかった。ボスの雄叫び一つで全てのボアがその女性に狙いを定めたのだ。


「マズイ!彼女をフォローするんだ!」


 1人の男の指示で一斉に彼女を取り囲むように前衛職が盾になりボアの突進から何とか守った。だがそれが良くなかった。彼女を守ったせいで陣形が完全に崩れてしまったのだ。ボアの攻撃を受ける盾持ちが一か所に集まってしまい。後衛がガラ空きの状態になってしまったのだ。


「う、うわー!こっちくるなー!!」


「きゃあぁ!!助けて~!!」


 陣形が崩れたところをボアは見逃すことはなく即座に後衛に突進する。身軽なグラップラー兵爵は回避は容易だったが、クラージー兵爵や攻撃特化な戦い方をする後衛兵爵にとっては必死に逃げ惑わないと突き飛ばされてしまう。そのためせっかくの陣形が完全に崩壊してしまい、完全に個々での動きを強制されてしまっている。


「っまずい!」


 この様子を見ていたラフィラはすぐに援護に向かうべく走り出そうとするが、シノがラフィラの腕を掴み行かせるのを拒む。ラフィラが歌う事をやめたためハーモニーが乱れ…戦っている16人全員の動きが一斉に、急激に悪くなったのが目に見えた。強力な歌魔法は16人全員の内なる力を引き出すことが出来るのだが、そこまでの力を発揮するためには8人全員が乱れることないハーモニーで歌い続けなければならないのだ。


「ラフィラ、私達の仕事は…みんなを信じて歌い続ける事なの。戦えない私達に出来る戦い方なの!」


 シノの言葉にラフィラはグッとこぶしを握り締め、また白翼騎士団8人全員の聖歌のハーモニーが揃う。ラフィラはさっきよりも力強い歌声で歌い兵爵全員を奮い立たせる。全員が冷静な判断で態勢を立て直し陣形を組み直す。そしてついに5匹中2匹のボアを討伐することに成功したのだ。16人の兵爵達はその勢いづいたままに一番大きな個体の討伐に本腰を入れる。残りの二匹を少数で引き受けながら10人程の戦力で一気に押し込もうとした。白翼騎士団も一気呵成に聖歌を歌おうと奮起した。

 だが少数で押さえていた二匹のボアのうち一匹がマークをかいくぐり、よりによって白翼騎士団をぎらりと睨み狙いを定め突撃してきたのだ。突撃するボアに怯えた白翼騎士団のメンバーは聖歌を歌うのを止めてしまい戸惑ってしまった。


「はあぁっ!!」


 こればかりは流石にと即座にラフィラが自身の盾を構え白い翼を大きく広げ、仁王立ちして受け止める。真正面からの衝撃に踏ん張りながら後ろの同じ騎士団の仲間達を守るが勢いを止めれず押されてしまう。それでも必死に歯を食いしばって踏ん張る。

 そんな時、ラフィラの背後から歌が聞こえてきた。いつも聞いているその歌声に心が落ち着き無駄な力が抜ける。だけど自然とボアの突撃を止めることが出来た。


「ラフィラ、歌うんだよ。さぁ一緒に!」


 ラフィラの上空を影が通り過ぎると、そこには大きな白い翼を広げたシノが煌びやかな装飾が施された青銀色の片手剣を振るいボアに深い切り傷を与えた。その姿はまさに聖騎士や聖女と言った美しく気高い白翼の天使そのもので、ラフィラの胸がとくんとときめいたのだ。そしてボアが痛がっている隙にシノは歌いながら剣を持たない手をラフィラに差し出し、ラフィラは戸惑いこそしたものの一瞬で吹っ切れて差し出されたその手を、盾を持たない手でぎゅっと握りシノの歌に合わせ一緒に歌い始める。二人は手を繋いだままお互いの翼をはばたかせ空を舞うとゆっくりとボアを見下ろす。


「いくよラフィラ!」


「任せて!シノ!!」


 二人は手を離すと歌いながらそのメロディーに合わせ、ボアの周りを飛び回りながらシノが攻撃しラフィラがボアの攻撃を受け止める見事なコンビネーションで圧倒する。そんな様子を見ていた白翼騎士団もすぐにまた歌いだし二人のメロディーに合わせ、他の兵爵達もその戦いっぷりにあてられずっと戦い続けているへとへとな身体を最大限奮い立たせ最後の力を振り絞って戦いだした。シノとラフィラの歌が、メロディーがみんなに勇気と力を与えているのだ。


「いくよっ!ホーリーランス!!」


「ブレイズランス!!」


 二人が同時にそれぞれの呪文を唱えるとシノの手には光の槍が、ラフィラの手には炎の槍が魔法によって生成され、二人同時に放たれた槍は見事ボアの身体を十字を描くように貫き一匹のボアは二人の白翼少女によって討伐することが出来たのだ。その後16人の兵爵達の頑張りもあって無事ボス個体含めた2匹の討伐が完了し、なんとか5匹全部の討伐依頼が終了したのだ。


「お疲れ様です。すぐお怪我の治療をします」


 ラフィラとシノを除く白翼騎士団の6人はすぐに直接戦闘していた兵爵達を労わり、6人に治療を任されたラフィラはごろりと地面に寝転がった。そこに二人分のコップを持ってきたシノが歩み寄った。


「お疲れラフィラ。初めての騎士団での依頼はどうだった?」


 ラフィラはすぐに起き上がってコップを受け取る。


「ありがとうございます先輩、ちょっと必死過ぎて…ちゃんとお役に立てたかよく覚えてなくて…」


「シノでいーよ。戦ってる時私の事呼び捨てで呼んでたんだしさ。それにしてもラフィラってすごいんだね。白翼騎士団で戦える人材って少なくて、私もいざって時にはこうして戦闘に参加するんだけど…私と一緒に歌って戦えるってこれまでいなかったから」


シノはラフィラの横に座りながら自分のカップを一口飲む。ラフィラも一緒に一口飲む。二人はなんでもないのに一緒に笑いだす。


「…ねぇラフィラ…、変な事言うかもしれないんだけどさ。もしラフィラが良かったらでいいんだけど、これからもずっと一緒にいてくれない?私のホバーカーの中好きに使ってもいいから…今まで通り寝るときも、食べる時も、歌う時も戦う時があっても、私の隣に居てくれないかな?」


 シノの神妙そうな言葉にラフィラはまっすぐな眼差しで見つめ微笑む。


「先輩、先に言っておくけど私結構部屋汚すタイプですよ。今はちゃんと気を付けてるけど油断したらすぐですよ」


「そうしたら私は尻ひっぱたいてラフィラに掃除させるから!」


「私この前先輩の分のステーキも食べたんだから先輩には+5㎏してもらおうと思ってるんですよ」


「ちょっ、それはごめんだけど!5㎏は絶対ヤダ!!」


「それと、あと、私って先輩が思っているほど理想の親友なんて感じじゃないですよ?貴爵なのに全然貴爵っぽい性格してないし、口もノリも軽いし、肉とか甘いものみたいな太るもの大好きだし、あと音楽もポップなものの方が好きだし」


「でも!私…そんなラフィラが」


 シノが必死にしゃべるのをラフィラは人差し指一本をシノの唇に当てて遮る。


「そんな私でも、シノがいいって言うなら…よろしくお願いします!」




 ………———…


「はぁ~、なんか…凄かったねぇ。結構シリアスな劇ってパンフにあったけど、悲劇だか喜劇だかよく分かんないミュージカルみたいで」


「ラフィラの友達って言ってた子、普段の性格は知らないけど何というか…面白い子だね」


「いや知らない人です」


 多くの観客として来ていた人達が帝都大劇場から出てくる人の波の中に、恋人繋ぎをして逸れないようにしているラフィラとシノ。楽屋で思い出に耽り、歌劇団の芝居を観劇し楽しかった時間はあっという間に過ぎて空はすっかり夕焼け色に染まって二人のお腹は夕食を心待ちしている。


「今日何食べる?」


「そうだね…公演も済んだしパーッとやろうよ!」


「また太るよラフィラ」


「そん時はまた一緒にダイエットしよ。シノ♪」

次回投稿は4/8予定

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