短編7 『白翼騎士団』の活動録その1 前編
「お待たせしました~、それでは今より白翼騎士団による聖歌合唱をお贈り致します」
薄暗い空間に照らし出された広い舞台の中央に立つ、おそらく司会と思われる女性が声高々に話し出す。
「白翼騎士団は皆様ご存知かと思われますが、帝国の建国元年より創設されました由緒ある騎士団でありまして、入団条件はかつて我が帝国のために戦ったキャミリー・ベリルシルド様と同じ白い翼を持つ翼人種のみと非常に限定的ではありましたが、それでも30人を越える団員数を確保しこうして練習の成果を披露していただける運びとなりました。もっと語りたいこともございますが皆様も待ち遠しいものかと思いますので、私の説明もここまでとしまして早速斉唱していただきましょう!」
女性の語りが終わると後ろに下がっていた内幕が上がり、その中から説明のあった背中に純白の翼を持った男女30名程が左右に並び立っていた。女性が舞台袖にはけると反対の舞台の袖幕から1人の男…おそらく指揮者だろう男が中央に立ち全員が揃って頭を下げる。そして指揮者が反対を向き腕を上げる。伴奏が始まる。
「お疲れラフィラ。初めての帝都大劇場はどうだった?」
舞台裏の楽屋の一室に10人程の白い翼の生えた女性、そのうちの1人、鏡台の前に座る銀髪のラフィラと呼ばれた少女の元に水色の長い髪の少女が水の入ったカップを机に置き渡す。
「ありがとうございます先輩、ちょっと緊張しちゃって…うまく歌えたかよく覚えてなくて…」
「シノでいーっていつも言ってるじゃん。まぁ確かに帝都大劇場って他の劇場と比べても一つランクが上ってゆーか?まぁ最初はそんなもんだよ。気にしなくていーから」
シノと呼ばれた水色髪の少女はラフィラの横に座りながら自分のカップを一口飲む。ラフィラも一緒に一口飲む。
「この後はローレライ合唱団のコンサートだけどラフィラはどーする?」
「私その次の演目の絢爛円卓歌劇団による小劇で私が兵爵の叙爵合宿してた時の同期が初公演するって言ってたからそれまで待っていようかなって」
「そっか、じゃあご飯はその後にしよっか」
他の団員達はせわしなく楽屋から出たり入ったり、楽屋内でお弁当を食べたりしている。そんな様子を鏡越しに背中で見ながら一つの化粧バッグの中身を二人で使いながらメイクを直す。
「それにしてもラフィラがここに入団してあと少しで半年にもなるんか~。なんか入団パーティーとかでもする?」
「別に半年くらいはいいですよ。ってか、せっかく痩せてきたのにまたリバウンドしそうなんだけど」
そう、ラフィラは入団してから既にこの世界の16月あるうちの6~7か月が経過していた。この大劇場での舞台登場をきっかけに二人はその約半年間の思い出を思い出しながら語り始めたのだ…
……———……
「はじめまして、ラフィラ・ヒュー・ベヴルと申します。先週叙爵を終えて入団が出来るようになりました。…よ、よろしくお願いします!」
パチパチパチ…と拍手する一同に囲まれ固くなるラフィラ、皆年上ばかりな団員達の挨拶を受け優しくされるが緊張のあまりどうしてもうまく受け答えが出来ない。そんな時に一人の少女…シノがラフィラに歩み寄った。
「初めまして、私はシノ・カティラエーデ。分からない事とかあったら何でも聞いてね」
「そうか…これでシノもついに最年少じゃなくなるのか」
「若い子が増えて平均年齢下がったんじゃない?」
「やだもぅおばさんみたいなこと言ってぇ~まだ19同士じゃない」
先輩方の上機嫌なトークに苦笑いするラフィラをシノが連れ出し早速騎士団の拠点内部を案内する。とは言っても基本的には合唱用のレンタルスペースがあるだけの公民館のような公共施設であり、会場に移動することが多く寝床を転々とする形式をしているので騎士団用の宿舎もない。移動用の大型バスに常時宿泊用の荷物が詰め込まれているような感じだ。
「個室とかは…ない感じですか。まぁ私はすぐ部屋汚しちゃうし丁度いいかな…」
「ふっふーん…良いもの見せてあげるよラフィラ!」
そう言うとシノは近くに止めてある車…ではなくホバーカー。それもワンボックスタイプのような形状をしているタイプのところまでラフィラを連れて行った。
「…カティラエーデ先輩、まさかこれって…」
「シノでいーよ。このタイプって人気が少ないらしくて安く売れ残ってるって話らしいの」
シノは魔術的なキーロックを解除すると扉を開ける。その中はこじんまりとはしているがほぼ個室そのもの、まさにキャンピングホバーカーと言ったところだ。
「拠点がない代わりの騎士団からの支給品でね。いきなりラフィラに支給とかは難しいだろうから良かったら一緒に使わない?」
「いいんですか!ありがとうございますシノ先輩!!」
「ただし、あんまり汚くしない事、それとホバーカーだから重量に限界があるの。私達二人なら全然問題ないけど300㎏まで乗ったらマジで壊れるから」
「300㎏って結構な荷物ですよ先輩、そんな心配しなくても」
「…ラフィラ、体重どのくらいよ」
シノの唐突な質問にラフィラはどきっとオーバーに驚き顔を赤らめ、周りを確認し顔を近づけ小声で話す。
「…そ、そういう先輩は?」
「じゃあ一緒に…」
「「せーっの」」「58」「61」
…お互いに見合った後くすりと笑い、そして一体何がおかしいのか分からないがそのままゲラゲラと笑いだす。
「いーい、残り載せられる重量は…200㎏までだからね」
「オッケーです!200㎏ですね先輩。…改めてよろしくお願いします!」
そんなこんなですっかり打ち解けた二人はそれからというもの騎士団の活動だけでなく私生活もずっと一緒に行動し、同じ悩みを相談し合い、同じものを食べ、同じ趣味を持って、狭いキャンピングホバーカーの中で翼が触れ合いながら眠る日々を過ごした。
「ところで先輩、私達って他の騎士団みたいに戦闘とかの依頼やらないんですか?」
それはラフィラが入団してから1か月過ぎたころだった。すっかり騎士団としての生活スタイルに慣れてきた頃、2人で他の騎士団が経営するファミレスみたいなお店で食事をしていた時、ラフィラの一言にシノは食事の手が止まる。
「…あー、別に依頼やらないわけじゃないんだけど…私達は別に戦闘はしないよ?」
「そーなんですか?」
「ほら私達ってそもそも聖歌を歌うのが役目って言うか、そう言うのを専門に活動してる騎士団じゃん。だから戦闘がしたくて入団している人っていないのよ。だけどここみたいに食事の提供だけで団員全員の稼ぎを賄える騎士団みたいな他の事業とかやってる騎士団とかとは違って聖歌活動だけでは稼ぎが少ないから一応騎士団として依頼参加はしてるのよね」
「でも戦闘しなくてもいいんですか?というか戦闘したくない人に戦闘させるって…んぐっ」
ラフィラの口にシノが食べていたお肉を突っ込んで黙らせる。
「ねぇラフィラ、私達って何をする騎士団だっけ?」
「…ふぇいふぁ?」
「そ、聖歌を歌うの。劇場だろうと、戦場だろうとね♪んじゃ私団長に二人分の依頼参加の連絡入れるから、残り全部食べといてね。お会計は済ませてあるから」
そう言い残し先にお店から出るシノ、残されたラフィラがテーブルを見ると、自分が注文した合挽ハンバーグセットの他に二人で食べてた揚げたポテト残りと、わざわざラフィラの目の前に持ってきたシノの食べかけゴラドンのステーキがある。ラフィラはごくりと口の中の肉を飲み込んだ。
「…次ぜってー先輩に押し付けて3㎏太らせてやる」
それから数日が経ち、白翼騎士団…正確にはラフィラも依頼に参加する日がやってきた。とは言っても参加メンバーは全員ではなくラフィラとシノを含めて8人と言ったところだ。そして何よりも…
「せ、先輩…なんか依頼参加者多くないですか?普段からこんなにも人が集まるんですか?」
「まさか、普通の依頼なら10人前後ってとこでしょ。でも私達白翼騎士団が参加する依頼ってのは…戦えない戦力を補う必要があるからその分の義勇兵爵の募集が増えるの。そして人員が増えた分報酬が弾む依頼にしないといけない。つまり…」
「…普通よりも、厄介な依頼って事、ですよね」
こくりと頷くその視線の先には、白翼騎士団以外からの参加メンバー総勢16名が立ち並ぶその先には…なんと7mもの長さに高さが3mにも届く大型の貨物運送車両をひっくり返し、中の食材を食い散らかす巨大な猪…『ボア』、その数5体であり、さらにその中でも一際デカい…というかもはや体高が5mにも届く程超巨大なボスの個体の鋭い眼光がじっとこちらを見つめ続けているのだ。そんな恐ろしく逃げ出したくもなるような危険な野生動物たちを前に、シノは、白翼騎士団達はその白き翼を広げ、軍旗を広げ高く高く掲げる。
「それでも、私達は歌うの。聖歌を」
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