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底無し魔力の召喚士~各地に封印された神獣と契約して最強へと至る者~  作者: 半分のリング
番外編

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追憶⑦ 残響

 ――何かがおかしい。

 アーサリアは帝都までの道のりを、妙な違和感が拭えぬまま突き進む。



 道中立ち寄った村では数匹のオーガに遭遇した。

 大量の召喚獣と戦う軍隊を横目に草原を駆け抜けた。


(なぜ、どこにも獣がいない?)


 目にする召喚獣は巨人ばかり。そのうえ召喚主の姿は見当たらない。行軍する巨人の群れを発見しては討伐すべきかと思案するが、今はそんな時間も余裕もないと自分に言い聞かせる。


 急がなければならない。こうしている今も、謀略の渦中で孤軍奮闘しているであろうグラニールを思えば気が気ではなかった。



「またオーガの群れか。仕方ない、森を通ってやり過ごそう」


 確認したいことは山ほどある。一番の謎は召喚した状態で移動すること。魔力の無駄遣いでしかない愚行に疑問が積もり続けていく。

 召喚主を捕らえて情報を引き出すことも考えた。しかし、帝都が陥落するほどの間者が紛れ込んでいるのだとすれば、こちらも万全な状態で挑む必要がある。


 アーサリアの狙いは鎮圧ではない。グラニールの救出だ。目的を見失ってはいけない。



「帝都まであと……二日ほどかな。お前にも苦労をかけるね」


 馬に語りかけながら水を飲ませる。群れをやり過ごすついでに休ませる。悠長に構えている時間はないが、馬を潰してしまっては本末転倒だ。体調管理を怠らず、計画的に帝都を目指す。


「今のうちに練り直しておこう」


 アーサリアは地図を広げて帝都までの経路を確認する。

 ここまで補給を考えずに最短距離を駆け抜けた。その分の物資は用意していたのだが、群れに遭遇するたび遠回りを強いられた。地図にない村で少しばかり融通してもらったとは言え、どこかで補給をする必要があるだろう。




「さて、もうひと踏ん張りだ」


 群れの姿が見えなくなった頃、アーサリアは動き出した。


 補給の際に敵と遭遇する可能性を心配していたが、立ち寄った町はすでに壊滅。生きている者は一人も見当たらない。それは帝都も同じで、陥落したという情報に間違いはなかった。






「いったい、何が起こっているんだ」


 もぬけの殻となった宮殿を、トトを召喚して共にさ迷うアーサリア。人の気配はどこにもなく、そして玉座の間では銀色を基調とした鎧に包まれた亡骸が――無情にも打ち捨てられていた。


「陛下……」


 攻め落とした都市を占領せず、ただ虐殺を繰り返す行為に何の意味があるのだろうか。

 理解できないことの連続で、アーサリアの頭の中は雑然としていた。


 そんな時――。


「アーサリア。こちらに誰かが向かっている」


 気配を察知したトトが警告を発する。敵意にも似た闘争心を隠しもせずに近づく者。その様子から生き残りではないだろう。

 警戒して扉のほうを注視するアーサリアだが、加護を通してトトから複雑な心境が伝わってくる。

 普段は冷静な彼が、ここにきて心を乱す理由。それを察する暇もなく重厚な扉が開かれた。




「グラニール! 無事……だったんだね」

「……アーサリア。なぜ来た。逃げろと言ったはずだ」

「? とにかく、ここを出よう」


 敵はすでに退いた。瘴気が漂い始めた場所に長く留まるわけにもいかない。焦るアーサリアは頭の片隅にちらつく疑念を振り払う。


「届いてないのか。クソッ、どいつもこいつも……」

「グラニール? いったい何を言っているんだ」


 初めて目の当たりにした彼の怒りは底知れないもので――。


「俺は……」

「グラニール!」


 胸がざわつく。

 アーサリアも心のどこかで予感していた。

 あるはずがないと自分に言い聞かせてきた。

 それを、彼の名を叫ぶことで紛らわせる。



「この国は腐っている」


 幼少の頃、同じことを思った二人が別の結論へと辿り着いた。同じ理想を夢見て語り合ったはずが、少し離れただけで踏み外してしまった。


「腐った果実は取り除かねばならない。そう、思っていた」


 テオラル家の対応が頭に浮かぶアーサリア。民を切り捨て、自らは欲望の趣くままに謳歌する。

 決して赦していいものではない。しかしだからといって、手段を間違えば悪と成り下がってしまうだけだ。


「その結果が……この惨状だとでも言うのか」

「果実だけなら簡単だ。だが、木が腐っていたらどうだ? 森が腐っていたら? 長年続いたこの国が……帝国の在り方が……。いや、違うな。そのために興されたのだとすれば――」


 ――破壊しなければならない。


 言葉にこそ出さなかったが、続きは容易に想像できた。

 しかし、罪のない人々を巻き込んでまで行うことが正しいはずがない。


「帝国の在り方……。法や意識を変えるために、これまで……努力してきたんじゃないのか!」


 帝国の方針に則り、序列を上げることで理想を実現しようとした。

 グラニールが一位の座に就き、すぐ手の届くところまでようやく辿り着いた。

 ここからが正念場であるにも拘らず、なぜ軽率な判断を下してしまったのか。これでは民を見捨てる領主と何も変わらない。


 いや、それ以上に――。




「帝国に拘るのか。ならば言葉など不要だ」


 グラニールはゆっくりと剣を抜く。そして右下へと振り払うさまは別人のようにアーサリアの目に映った。


「抜け。お前の信念を問う」


 台覧試合でも行うかのように、グラニールは泰然と歩を進める。

 帝国を否定し破壊の限りを尽くした彼が、帝国が長年続けてきた形式に則るとはなんたる皮肉なことか。


「グラ……ニール……」


 アーサリアには、今の彼は異常としか思えなかった。


 まるで何かに取り憑かれたように。

 強迫観念に囚われ、人格が破綻してしまった狂人のように。


 ここで彼を止めなければ、事態を収拾することなど出来はしない。



 理想から遠ざかる彼を――。

 間違った方向へと進んでしまった彼を、正してこその――。


「グラニール!!」

「そうだ、来い! アーサリア!!」


 神経を研ぎ澄ませて加護を意識する。

 目を見開き、変わり果ててしまった彼をその目に捉える。


「……すまない」


 アーサリアは震える声で呟くと、人に向けてはならない力を行使した。







 胸部を抉り取られたような躯の前で立ち尽くすアーサリア。


「泣いて……いるのか」

「……そう……だね」


 この手で友を殺した。

 間違った正義を振りかざす友を、間違った手段で止めることしかできなかった。


「これは正しい力の使い方なのか」

「……違う……かな。いや、私には……判断つかないよ」


 力は正しく使ってこそ価値が生まれる。

 トトに説いた持論は矛盾を孕んでいた。


「そうか」


 間違った手段を行使した結果、巨悪が打ち倒されるという価値を生んだ。


 正義とは何か。

 悪とは何か。

 アーサリアには分からなかった。


 ただ、悲劇を生んでしまった事実だけが、いつまでも心に残り続けた――。

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