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露草の持つ宝石  作者: 藤白 卯希
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春の熱

 私は、4月12日の日記を書き終えました。その後、布団を頭までかぶったが自分の吐く息が焼けるように熱く感じたので、すぐに頭を布団から出しました。

「あつい。」

そう言うと、私は起きた時にするのを忘れたていた伸びをしました。

 今は4月13日の午前0時。目を覚ましたのがその1時間前なので、眠れるはずもありません。無理やり寝るのもつらいので、しかたなく起きてることにしました。私は、たった今書いた日記を読み返してみました。そうしたら、夢の思い出せない部分が思い出せるような気がしました。しかし、一度忘れた夢っていうのはなかなか思い出せるものではありませんでした。日記を一回、二回と読み返し二回目の途中で飽きてしまい日記を雑に閉じて、窓の外に目をやりました。

外は風もなく、とても静か。私の観ている景色はピクリとも動かず、時が止まっている様でした。そんな絵のような景色を眺めていると不安が自分を支配するのが分かりました。まるで夢を見ているようなフラフラとした感覚です。昨日見た夢の方がよっぽど現実味がありました。

 もう一度目を閉じてみました。やはり眠れません。ベッドの上にいるのも飽きたので、私は足を靴につっこんでみました。でも、身体はベッドに横になったままです。不思議なことに、私はさっきまでまったく眠くなかったのに靴を履いたとたんに瞼が縫いつけられていくように閉じ始めました。



 「……ん?」

 目を開けると、私は病院のベッドの上に綺麗に寝ていました。誰かが私の体勢を直してくれたのでしょう。きっと、なんて寝相の悪い子なんだと思われたに違いありません。少し、恥ずかしくなりました。

 どうやら今は朝のようです。鳥のチュンチュンと鳴く声が聞こえます。やわらかい日がカーテンの隙間からこぼれて、とても眩しく感じました。

「今何時だろう。」

時計は、8時頃をさしているようです。 

 目がぼやけて痛くて、うまく開けることが困難です。何回も目を揉んだり、パチパチさせてやっと痛みが取れました。

「目、あんまり擦っちゃ駄目だよ?」

はっと横を見ると、ベッドの横に置いてある椅子に先生が座っていました。

「そんなに驚かないでよ。」

驚きのあまり声を忘れる私に先生はやさしい笑顔で言いました。

私は寝起きに驚かされたことに苛つきながら、わざと不機嫌を顔に出した。でも、先生は困ったなあとでも言いたげな笑顔をしていました。

「診察の時間です。」

そういうと先生は、首にかけた聴診器を持ちながら変わらず私に笑顔を向けてきました。


「じゃあ、今日はこれで終わり。」

先生は紙に何かを書きながら診察の終わりを告げました。

「こんな所にいると気が滅入るでしょ。今日は状態も悪くないから、散歩ぐらいなら外に出ても大丈夫だよ。」

確かにこんな所にずっといるなんて頭がおかしくなりそうです。この清潔な白の中にいると自分が汚いもののように思えてきて、なんだか嫌になります。

 先生は、自分を無視している私に対して、変わらず笑顔で話しかけてきます。こういう時、普通の人は怒るか、呆れるかなど少なくともいい気はしないはず。それを笑顔で返すことが出来るのが大人とういものなんだなとこのとき私は思いました。

「先生、私みたいな患者の相手するの嫌でしょ。でも、お仕事だものね。」

嗚呼、なんでこんなことばかり言ってしまうのでしょう。普通にお話ししたいと思っただけなのに。口を開くと嫌なことばかり言ってしまうのです。中学の頃から、私はこんな自分の口を塞いでいました。必要な時以外は他人と話すことをやめました。今みたいに、他人を嫌な気持ちにさせてしまうのが私という人間なのです。どうして口を開いてしまったのでしょう。心の中では落ち込んでいても、表情のない私に先生は言いました。

「よく分かったね紫月ちゃん。だから僕のこと無視しないでよ。今みたいに喋って?」

誰かに話すことを求められた事のない私は、動揺を隠しきれているのでしょうか。そのとき、開ききっていないカーテンの間から入ってきたぬるい春の風が私の頬の熱を撫でて融かそうとしてるのが分かりました。

 きっと今、好きになっています。

「はい。」

先生が求めたので、私は答えることにしました。







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