迷宮の入り口
街の外れ。
岩肌に口を開けた“それ”は、遠目にも異質だった。
「……あれがダンジョンか」
ぽつりと呟く。
真っ黒い穴。
光を飲み込んでいる様な入口。太陽の光が射し込んでいる筈なのに、入口部分で切り取った様に真っ暗になっている。
「初めて?」
隣でミラが言う。
「ああ」当然だ。
「なら覚えときなさい」
腕を組む。
「中は別世界よ。油断したら死ぬ」
ノノが生真面目な表情で頷く。
「外とそんなに違うのか」
「違う」
即答。
「急に地形が変わることもあるし、同じ場所でも敵が変わる。常識が通じない。普通に、人死にが出るわ」
(完全にゲームだな)
内心で思う。
でも――
(現実でやると笑えねぇな)
これには、生命がかかっているのだ。仲間の生命も、俺自身の生命も。
「行くぞ」
ミラの一声で、全員が動く。松明に点火。片手が塞がるが、仕方ない。
俺たちは、ダンジョンに足を踏み入れた。
入口を潜った途端に、明らかに空気が変わった。
中は、ひんやりしていた。
石の通路。
薄暗い空間。
足音が、やけに響く。
(……マップ)
意識を向ける。
視界の端に、半透明の地図が浮かぶ。
通路の形。
分岐。
全部、見える。
(この機能も、ゲーム通りに使えるんだな)
便利すぎる。
でも――
(見過ぎるな)
自然に見えるように、視線を動かす。
壁を見るふりをしながら、位置を確認。
「止まれ」
ミラが手を上げる。
全員が静止。
「何かいる」
耳を澄ます。
奥から、カサカサという音。
やがて――
「来るぞ」
現れたのは、小型の虫型モンスター。体長四十センチ程。素早く地を這っている。けっこう気持ち悪い。
数は五。マップにも、五つの赤い光点が浮かぶ。
「前、抑える!」
盾役が出る。
「リョウマ、後ろ!」
「了解!」
配置につく。
戦闘開始。
虫は速い。
だが、動きは単純。
(右から二、左から三)
マップと視界が重なる。
完全に把握できる。
「――っ!」
小剣で一体を弾く。
ミラが仕留める。
連携は悪くない。
でも――
「数、多い!」
ローブの少女が叫ぶ。
一体がすり抜けた。
後衛へ。
(まずい)
でも――
(撃てばバレる)
一瞬の判断。
距離、角度、視線。
(……ここなら)
俺はわざと一歩前に出る。
影になる位置。
誰の視線も通らない角度。
「――アイスボルト」
小さく呟く。
最低限の出力。
氷弾が虫に直撃。
動きが止まる。
「今!」
叫ぶ。
ミラが振り向き、斬る。真っ二つになる虫。
「助かった!」
自然な流れ。
バレてない。
(よし……)
ギリギリだが、いける。
戦闘はすぐに終わった。
全員、無傷。
「悪くない連携ね」
ミラが言う。
ちらっと俺を見る。
(……気づいたか?)
分からない。
でも、何も言わない。
「少し進むぞ」
再び移動。
通路を曲がる。
その時。
(……あれ?)
マップに違和感。
さっき見た構造と、微妙に違う気がする。
「……止まってくれ」
思わず口に出る。
「どうした」
「いや、その……」
言い淀む。
“地図が変わった”なんて言えない。
「気のせいかもだけど、さっきと道、違わないか?」
ミラが周囲を見る。
少し考える。
「……言われてみれば、進もうとしてた道と違う、かな?」
小さく呟く。
「ダンジョンは変化することがある。でも――」
視線が鋭くなる。
「普通は、もっと奥での事よ」
(やばい、目立ったか)
でも引けない。
「……気をつけた方がいいと思う」
それだけ言う。
ミラが数秒考えて、頷く。
「……全員、警戒強化」
空気が変わる。
さらに奥へ。
空気が重い。
音が減る。
闇まで深くなった様な。
「……静かすぎる」
誰かが呟く。
その時。
マップの奥に、赤い反応。
一つ。
でも――
(デカい)
明らかに、さっきの連中と違う。
「……来るぞ」
自然に口から出た。
「また、虫か?」
「いや……違う。もっと大きい……」
嫌な予感。
その直後。
奥の闇が、動いた。
ゆっくりと。
重い音。
そして――
巨大な影が、姿を現す。
「……なんだ、あれ」
誰かが呟く。
虫でも、狼でもない。
もっと異質。
もっと強い。
「……撤退する」
ミラが即決する。
判断が速い。本当に、ただの脳筋じゃない。
「戻るぞ!」
全員が動く。
でも――
(遅い)
マップが告げる。
敵が、近づいてくる。
速い。
距離が一気に詰まる。
「くっ……!」
振り返る。
影が、迫る。
そして――
咆哮。ビリビリと空気が震える。
ダンジョンの奥で。
俺たちは、“本物の脅威”と出会った。
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