隠さなきゃ終わる能力
森の奥で、俺は一人立ち尽くしていた。
さっきの戦闘。
そして、あの“現象”。
「……もう一回、やってみるか」
小さく呟く。
周囲に人の気配はない。
念のため確認してから、意識を集中させる。
「――アイスボルト」
今度は、はっきりと意図して発動する。
指先に冷気。
氷の弾が生まれ、一直線に飛んでいく。
木に命中し、砕けた幹に霜が広がる。
「……出た」
間違いない。
さっきのは偶然じゃない。
俺は、魔法を使えている。
それも――
「覚えた覚えのない魔法を、勝手に」
どうやら、『トゥルーライフ・オンライン』の魔法剣士は、レベル2でアイスボルトを習得するらしい。
ステータスを開く。
魔法欄。
そこには確かに、「アイスボルト」と表示されている。
取得条件も、習得履歴もない。
ただ、“ある”。
「完全に、ゲーム仕様じゃねぇか……」
思わず笑う。
普通なら喜ぶところだ。
でも――
(これ、普通じゃない)
ギルドで聞いた話を思い出す。
魔法は“学ぶもの”。
金と時間をかけて、やっと一つ。
レベルが上がるのと同時に魔法を覚えるのは、魔族だけ。
なのに俺は――
「レベル上げただけで、取得?」
ありえない。
もしこれが知られたら。
(絶対に、放っておかれない)
囲われる。
利用される。
魔族扱い。
最悪――排除。
「……笑えねぇ」
深く息を吐く。
使える力。
でも、見せられない。
そんなもの、厄介すぎる。
「……とりあえず、狩りは続けるか」
なんにせよ、レベルは上げなければならない。この力、レベル上げに役立つ事は間違いない。
俺は再び、森を進んだ。
数分後。
スライムよりははるかに大きい、狼型のモンスターと遭遇した。殺意の強さが、明らかにスライムとは違う。
出来れば、もっと段階を踏んでいきたいところだけど、でも“やれる”気がした。
「……今度は、遠距離からでいけるか」
狼相手にさっきみたいな泥試合をやったら、噛みつかれてズタボロにされてしまう。
小剣を構えつつ、意識を集中。
「アイスボルト!」
放つ。
氷弾が右肩付近に直撃。血が飛び散り、傷口が霜に覆われる。
怯む狼モンスター。
「効いてる……!」
そのまま、距離を取りながら連発。
二発、三発。
やがて狼は崩れ、消えた。
「……楽だな、これ」
さっきのスライム戦とは段違いだ。
安全圏から攻撃できる。MPの残量にも余裕がある。
正直、反則レベル。
その時だった。
「……今の、魔法か?」
「っ!?」
背後から声。
振り返る。
そこには、三人組の冒険者が立っていた。年季の入った革鎧を着た中年三人組だ。
さっきの戦闘を、見られていたらしい。迂闊だった。
(やばい)
心臓が跳ねる。
「お前、魔法が使えるのか?それに、詠唱もなしで撃ったよな?」
「いや、その……」
ガタイの良いオッサンたちの視線が刺さる。
全員、バリバリの前衛って雰囲気だ。ゴツい剣や斧を持っている。
逃げ場はない。
ここで“普通じゃない”と判断されたら――
(どうする……?)
一瞬で思考を回す。
否定?
無理がある。
沈黙?
余計に怪しい。
なら――
「……魔法スクロールです」
口が勝手に動いた。
「は?」
「安物のやつで……一回使い切りの。それでも頑張って手に入れたんですよ」
適当だ。
でも、“ありそう”な嘘。
実際、ゲームになら存在するアイテムである。が、この世界には、存在するのかどうか……。
冒険者たちが顔を見合わせる。
「……そんなの、聞いたことあるか?」
「それっぽいのは聞いた事があるな。ただ、めちゃくちゃ高ぇって話だったが……?」
迷っている。
(通れ……!)
内心で祈る。
やがて、一人が肩をすくめた。
「まぁいい。ガキが強い理由なんてどうでもいい」
完全には納得していない顔。
でも、それ以上追及はしてこなかった。
「ガキがこんなとこ一人で来るなよ。死ぬぞ」
それだけ言って、三人は去っていく。
「…………」
しばらく動けなかった。
全身の力が抜ける。
「はぁ……っ」
大きく息を吐く。
助かった。
本当に、ギリギリだった。
(今の……完全にアウトだろ)
言い訳が通ったのは、運が良かっただけだ。
次はどうなるか分からない。ただ、魔法スクロール的な物が存在するらしい事は分かった。
手を見下ろす。
さっきまで魔法を放っていた手。
「……これは、ダメだ」
はっきり理解する。
この力は――
「隠さなきゃ、終わる」
呟く。
同時に、別の感情も湧き上がる。
「でも……使えれば、強い」
事実だ。
この力があれば、生き残れる。
強くなれる。
あの子のところにも――
「……行ける」
そう思えた。
拳を握る。
震えは、もうない。
「なら、やることは一つだな」
顔を上げる。
森の奥を見る。
「バレないように、強くなる」
それが、この世界で生きる条件。
そして――
もう一つ。
『リョウマ……私、あなたをもう一度呼ぶ』
あの声が、蘇る。
「……待ってろよ」
小さく呟く。
今度は、はっきりとした意志で。
そして俺は、
“隠しながら戦う”ことを選んだ。
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