初狩りと、ありえない現象
街に入った俺は、冒険者ギルドに向かった。
この街での身分を手に入れる事、お金儲けの手段を得る事、そして情報を得る事が、俺には必要だったのである。
そして、ゲームやラノベの様に、冒険者ギルドがあるのは、ありがたい話だった訳だ。
ギルドは、酒場と銀行が一緒になった様な造りだった。窓口は、鉄格子で仕切られている。
客と言うかテーブルに着いて飲み食いしている連中は、はっきり言ってガラが悪い。あまり仲良くしたくない雰囲気だ。
俺は、こそこそと窓口の一つに近づいた。
鉄格子の向こうには、いかにもデキそうなお姉さんが座っている。
「すいません。冒険者になりたいんですけど、登録とか必要ですか?」
「新規登録ですね。では、こちらのオーブに手を触れていただけますか?」
お姉さんが、ソフトボール大の水晶玉みたいな物を、俺の前に置いた。
「これは?」
「ステータス鑑定のオーブです」
げ。またか。
街の入り口での事が、頭の中に蘇る。つか、ついさっきの出来事だ。まだ、傷口からビュービュー出血している。そこを、また抉られるのか。
俺は観念して、オーブに手を触れた。
「……」
「……レベル1、スキルなし」
げふっ。
「冒険者……やりますか?」
「やります。レベルはすぐ上げますし、魔法とかも覚えるし」
「何を言ってるんですか。レベルはともかく、魔法は簡単には覚えられませんよ」
「え?」
「魔法は誰かに師事するか、学院で学ぶかしないと覚えられません。時間もお金もかかります」
「そ、そうなんだ……。レベルが上がったら、自然に覚えられる、なんて事は?」
「そんなのは魔族だけです」
「魔族ですか……」
「あ、あと、ここにセルティって召喚士かいませんか?」
ダメ元で聞いてみる。
「召喚士なんて、いませんね。普通の魔法使いだって、こんなギルドにはほとんどいませんよ」
「そうなんですね……」
俺は頭を下げると、窓口から離れた。
ギルドを出たあと、俺はそのまま街の外へ向かった。
目的は一つ。
「……レベル上げ、か」
口に出してみると、やけに現実味がない。
この世界では、スキルも魔法も“教わるもの”だった。
金と時間がかかる。
でも俺には、その余裕がない。
なら――
「レベルを上げるしかない、よな」
ゲームと同じなら、だが。
街道を少し外れた林の中。
草を踏む音が、やけに大きく感じる。
(……怖ぇ)
正直な感想だった。
武器は、初期装備の小剣一本。目立ち過ぎるので、課金装備は使う訳にはいかない。
防具も、ほぼ布。
昨日までただの中学生だった俺が、モンスターと戦う?
無理だろ。
――ガサッ。
「っ!」
音。
反射的に構える。
茂みから現れたのは、
「……スライム?」
半透明の塊。
ゲームなら雑魚中の雑魚。
だが――
次の瞬間。
それが跳ねた。
「うわっ!?」
避けきれず、肩に直撃。
「いってぇ!?」
想像以上に重い。
バランスを崩して、尻もちをつく。
スライムが、再び跳ねる。
(やばい、普通に強い!)
慌てて転がる。
ギリギリで回避。
心臓がうるさい。
「くそっ……!」
立ち上がる。
タイミングを計る。
来る。
――今!
小剣を振る。
だが、手応えが浅い。
「効いてるのか、これ!?」
スライムが揺れるだけで、止まらない。
再び突進。
「うわああああああ!」
必死に避ける。
息が上がる。
腕が震える。
(無理だろこれ……!)
でも――逃げられない。
背後は木。
左右も狭い。
やるしかない。
「……来いよ!」
自分に言い聞かせる。
スライムが跳ねる。
今度は、逃げない。
引きつける。
ギリギリまで――
「っ!」
横にステップ。
すれ違いざまに、小剣を叩き込む。
今度は、深い。
ぐにゃりと感触が沈む。
「もう一発!」
振り下ろす。
叩きつける。
何度も。
何度も。
そして――
スライムが、崩れた。
光になって、消える。
「……は、はは……」
その場に座り込む。
息が止まらない。
全身が汗だく。
「こんなの……序盤の敵じゃねぇだろ……」
ぼやく。
その時。
視界の端に、見慣れた表示が浮かんだ。
――レベルアップ。
「……え?」
固まる。
次の瞬間。
頭の中に、“何か”が流れ込んできた。
言葉。
イメージ。
感覚。
知らないはずの知識が、勝手に“分かる”。
「……これ、って」
手を見下ろす。
無意識に、口が動く。
「――アイスボルト」
空気が震えた。
指先に、冷気が集まる。
次の瞬間、小さな氷の弾が放たれ、木に突き刺さった。
「……は?」
ありえない。
魔法だ。
俺は今、魔法を使った。
でも――
「……習って、ないぞ?」
この世界では、魔法は学ぶものだ。
金を払って、時間をかけて。
なのに。
俺は今、レベルが上がっただけで――
“覚えた”。
その時、はっきり理解した。
「……ゲームと、同じ?」
ステータスを開く。
魔法欄に、新しい項目が増えている。
アイスボルト。
さっき使ったものと同じ。
「……嘘だろ」
喉が渇く。
心臓が、さっきとは別の意味でうるさい。
これは、強いとか弱いとか、そういう話じゃない。
――異常だ。
(これ……知られたら)
想像する。
ギルド。
兵士。
あの冷たい目。
“無能”じゃなくなる。
その代わり――
(囲われるか、消されるか、魔族扱いされるか)
ろくな未来が待っていない。
「……ふざけんなよ」
思わず笑いが漏れる。
さっきまで、“無能”扱いだったのに。
中身はこれか。
極端すぎるだろ。
でも――─
悪くない。
「……使えるな」
呟く。
ただし。
「バレなきゃ、な」
立ち上がる。
さっきより、少しだけ足取りが軽い。
林の奥へと目を向ける。
まだ、モンスターはいる。
怖い。
でも。
さっきとは違う。
(やれる)
確信に近い何かが、あった。
小剣を握り直す。
そして俺は、
もう一度、森の中へ踏み込んだ
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