表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強召喚のはずがレベル1の俺でした~でも課金スクロールでボスを倒したら追い返された件~  作者: あおおに


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/37

蹂躙

 狭い地下牢で聞くコッコの雄叫びは、思った以上に凄まじかった。耳がキーンとする。石壁に反響して、十倍ぐらいうるさい。

「なっ!?」

「ば、馬鹿な!?」

「召喚封じの牢だぞ!?」

 公爵たちが一斉に叫んだ。


 俺は鉄格子の内側で、腕を組んで頷いた。

「うむ。よく出来た牢だ。確かに召喚はしにくそうだな」

「では、なぜ出せた!?」

「コッコは召喚した訳ではない」

「何だと?」

「インベントリから取り出しただけだ」

 俺は、できるだけ真面目な顔で言った。

 たぶん、この世界の人間には意味が分からない。

 案の定、公爵もルガンも、ぽかんとした顔になった。


 その一瞬が命取りだった。

 コッコの目が、ぎらりと光る。

「コケッ」

 短く鳴いた。

 直後、公爵たちの動きが止まった。

 全員が、まるで時間を切り取られた様に硬直する。

 石化。

 ただし、完全に石になる程ではない。


 以前、俺もモンスター相手に試した事がある。コッコの石化の睨みは、相手の力量や耐性によって効果が変わる。弱ければ完全に石の様に固まるが、強ければ数分で動ける事もある。

 だが、目の前の公爵たちはどうか。

 公爵は、口を開けかけた格好のまま固まっている。

 ゼムダは、公爵の後ろに隠れようとした姿勢で固まっている。

 ルガンは、片手を掲げたまま固まっている。

 護衛たちも、腰の剣に手をかけた状態で止まっている。

 おそらく、しばらく動けない。

 少なくとも、今日一日は無理だろう。


「……見事だ、コッコ」

「コケェ」

 コッコが得意げに胸を張った。

 可愛い。

 めちゃくちゃ可愛い。

 ただし、今は感動している場合ではない。

 問題は、バフォメットだ。


 召喚主の命令が途切れたせいか、バフォメットは黒い炎を手にしたまま、ぼんやりと立っていた。

 いや、ぼんやりと言うより、どうすれば良いのか分からないという感じだ。

 召喚獣にも、自律行動の強いものと、命令がなければ動きにくいものがあるのかもしれない。

「コッコ、あれを倒せるか?」

「コケッ」

 コッコは即答した。

 頼もしい。


 バフォメットが、ようやく反応する。

 黒い炎を放とうとした。

 だが、遅い。

 コッコの脚が、床を蹴った。

 巨体が、弾丸の様に突っ込む。

 ドゴォッ!!

 コッコの体当たりが、バフォメットの胴体にめり込んだ。

 バフォメットは壁まで吹っ飛び、石壁に叩きつけられる。地下牢の壁が、嫌な音を立ててひび割れた。


「うわ、こわ……」

 俺は檻の中で呟いた。

 味方で良かった。

 本当に良かった。

 バフォメットは、まだ立ち上がろうとした。

 さすがに強い。

 野外演習で出て来た連中も、冒険者や学院生を苦しめるだけの力はあった。


 だが、ここは狭い地下牢だ。

 飛び回る事も、距離を取る事もできない。

 そして、相手はコッコである。

「コォケッ!」

 コッコが翼を広げ、嘴を振り下ろした。

 ガツンッ!

 鈍い音が響く。

 バフォメットの角の片方が折れた。


 さらにコッコは、巨大な脚でバフォメットの胸を踏みつける。

 バフォメットが、声にならない悲鳴を上げた。

 いや、上げようとしたのかもしれない。

 コッコの重みで、肺に当たる部分が潰されたのだろう。たぶん。

「コッコ、あまり地下室を壊すなよ」

「コケ?」

 コッコが、きょとんとした顔でこちらを見た。


 その足元で、バフォメットがじたばたしている。

 うん。

 その顔は可愛いが、状況は全然可愛くない。

「仕留めて良し」

「コケッ!」

 コッコは嬉しそうに鳴いた。


 そして、嘴でバフォメットの喉元に当たる部分を突いた。

 一撃。

 二撃。

 三撃目で、バフォメットは黒い霧の様に崩れた。

 後には、折れた角の欠片と、黒い魔石らしきものが残っている。

「ドロップするんだな……」

 俺は思わず感心した。

 召喚獣でも倒せば落とすのか


 いや、もしかすると、あれは召喚獣ではなく、どこかから無理やり呼び出した本物の魔物なのかもしれない。

 その辺りは、よく分からない。

 分からないが、拾えるものは拾っておこう。


「コッコ、それ取れるか?」

「コケ」

 コッコは器用に嘴で魔石をつまみ上げ、鉄格子越しに俺の方へ差し出して来た。

 でかい嘴が、鉄格子の隙間に入らない。

「……無理だな」

「コケェ……」

 コッコが少ししょんぼりした。


「いや、気持ちは嬉しい。後で拾うから、そこに置いておいてくれ」

「コケッ」

 コッコは魔石を床に置いた。

 その様子を見て、俺は改めて周囲を確認する。

 公爵たちは固まったまま。

 完全に動かない。

 ただ、目だけは動いている者が何人かいる。

 公爵もそうだ。


 目だけで、俺を睨んでいる。

 すごい怒っている。

 まあ、怒るだろう。

 自分が用意した召喚封じの牢を、訳の分からない理屈で突破されたのだ。

 しかも、自分の手駒であるバフォメットまで倒された。

 貴族としての面子は、粉々である。


「公爵閣下」

 俺は鉄格子越しに、固まった公爵へ向かって軽く頭を下げた。

「大変結構な牢だった。召喚封じとしては、おそらく素晴らしい出来なのだろう」

 公爵の目が、さらに吊り上がる。

「ただ、一つだけ問題があった」

 俺はにっこり笑った。

「召喚ではないものには、効果がない」


 公爵は動けない。

 喋れない。

 だが、その目は雄弁だった。

 殺す。

 絶対に殺す。

 たぶん、そんな事を思っている。

 怖い。

 正直、めちゃくちゃ怖い。

 だが、今は俺の方が有利だ。


 ならば、こちらも言える事は言っておくべきだろう。

「それと、閣下。野外演習の件だが……今ので、だいぶ分かりやすくなったな」

 俺は、ルガンの方を見た。

「バフォメットを召喚できる者が、閣下の側にいる。しかも、閣下はそれをためらいなく私にけしかけた。さて、第三王子殿下の前に現れたバフォメットとは、いったい誰の仕業だったのか」


 ゼムダの目が泳いだ。

 固まっているのに、目だけ泳ぐ。

 なかなか器用な奴だ。

「証人は……まあ、ここにいる全員だな。もっとも、閣下に逆らって証言できる者がどれほどいるかは知らないが」

 俺は鉄格子を軽く叩いた。

 コン、コン、と乾いた音がする。

「さて、ここからどうするかな」


 鍵は外にある。

 公爵たちは動けない。

 コッコは外にいる。

 つまり、俺だけが中にいる。

 ……うん。

 助かった様で、まだ助かっていない。

「コッコ。鍵、分かるか?」

「コケ?」

 コッコは首を傾げた。

 可愛い。

 だが、鍵の概念は難しかったらしい。


「そこの腰にぶら下がっている輪っかだ。いや、違う。それはゼムダの飾りだ。食べるな。食べ物ではない」

「コケェ」

 コッコが残念そうにした。

 食べる気だったのか。

 公爵は目だけで、ものすごく怒っている。

 いや、あんたは今それどころではないだろう。


 結局、コッコは鍵を見つけるより先に、鉄格子そのものに興味を持った。

 嘴でつつく。

 ガン。

 もう一度つつく。

 ガゴン。

 三度目で、鉄格子が歪んだ。

「……あ」

 四度目で、鉄格子の一本が外れた。

 コッコは得意げに鳴く。

「コォケッ!」

「いや、まあ、うん。鍵より早いな」


 俺は苦笑しながら、歪んだ隙間から身体を抜け出した。

 召喚封じの特別牢。

 その出口は、鍵ではなく、コッコの嘴によって開かれた。

 たぶん、設計者も泣いているだろう。

「さて」

 俺は床に落ちていた黒い魔石と角の欠片を拾い、インベントリに放り込んだ。

 それから、固まった公爵の前に立つ。

「閣下。今日は色々と勉強になった」


 公爵の目が俺を睨む。

「こちらも、貴方のやり口がよく分かった。だから、次はこちらの番だ」

 俺は狼仮面をかぶり直した。

 ゴンベエの顔を隠す為ではない。

 ここからは、狼仮面の剣士として動く為だ。

「では、失礼する。丸一日ぐらいは、そのまま反省していてくれ」


 俺はコッコの背中を軽く叩いた。

「行くぞ、コッコ」

「コケッ!」

 俺たちは、固まった公爵たちを地下牢に残し、階段へ向かって歩き出した。

 敵の本拠地のど真ん中。

 しかも地下。

 普通なら、ここからが絶体絶命なのだろう。


 だが、俺の隣には体高二メートル近いコカトリスがいる。

 しかも、やる気満々である。

 ……これ、どっちが悪役に見えるんだろうな。

 そんな事を考えながら、俺はひとまず地上を目指すのだった。

読んでいただいて、ありがとうございます。

こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コッコカタルシスですっきりしました。
主人公は結局、何がしたかったのだろう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ